ChristmasParty 1
完全に番外編です。
パラレル世界だと思っていただいて構いません。
異世界の冬。
年末間近に差し掛かり、地球ではそろそろクリスマスである。もちろん異世界にそんな風習は存在しないし、一年の周期も若干地球とずれているので、正確な日にちは不明である。
しかし、年の瀬が近づくにつれて勇者パーティー(主に結衣と杏華)はどことなくソワソワし始める。
「やっぱり~、パーティーしよ~よ~」
「ここにそんな風習はないじゃない。」
そして、社交界のパーティーばかりで楽しいだけのパーティーをしていなかった為か、結衣の不満が爆発した。身内だけで羽目を外して盛り上がる機会が欲しいのだろう。
そんな結衣を、雫がなだめる。
「え~。良いじゃん私たちだけでやれば~」
「そうですわ。お店でも予約して個室を貸しきってやれば良いのですわ。」
「そ~だそ~だ~」
杏華も話に乗っかってきて、雫は困ったように額に手を当ててため息をついた。
「じゃあ、結衣が幹事やりなさいよ。言い出しっぺなんだから。」
「え~。雫ちゃんのいじわる~」
「しょうがないじゃない。私達の世界の行事なんだから。アリア王女に提案出来るようなモノでもないし、私達主体でやるなら王宮以外の場所を探して確保しないと。」
「む~。雫ちゃんだって~楽しく息抜きできる時間欲しいでしょ~」
ものすごい正論で結衣をたしなめる雫に対して、結衣は日々の気疲れと情に訴えかける。
もちろん雫もクリスマスパーティーをやりたくないわけではないし、結衣の気持ちが良く解るので、あまり強くは出られなかった。
「どうかしましたか?」
そんな感情に板挟みとなった雫達に、丁度いいタイミングでアリアが通りかかり、3人に声をかける。
「実は~ーーーー」
結衣は、何とかアリアを説得してクリスマスパーティーを実現させようと熱心に説明をした。
「それは面白そうですね。勇者様主体で、仲の良い方々を招待しましょう。」
「やった~!」
「やりましたわ。」
「良いんですか?」
結衣はアリアのあっさりとした返答に、両手をバンザイさせて跳ね回り、杏華に抱き着いて喜びんだ。杏華も結衣に抱き着かれながらも、小さく拳を握ってガッツポーズをとる。雫は意外にもすんなりと受け入れられた事に拍子抜けといった様子であった。
「構いません。皆様も普段から講義と実技、さらには国の発展のために色々な議会への参加とお疲れでしょう。少し早めから休まれても誰も文句は言いませんよ。」
「ほら~。これで場所と料理はな何とかなったね~。」
「ありがとうございます。アリア王女。」
「私も息抜きがしたかったところです。招待したい方をリストアップしておいてください。王宮から、勇者様のお名前で招待状を送ります。」
アリアから先に出た言葉が真実なのだろうか。よくよくアリアの顔を見ると、若干の疲労が見て取れる。
仕事を増やしてしまった事に申し訳なさを感じつつ、雫は感謝の言葉を述べる。
「すぐにやるよ~」
「結衣さん待ってください。わたくしも手伝いますわ。」
テンションの上がった結衣は、さっそくリストアップを始めようと部屋に向かって走り出す。それを追うように杏華も走って行ってしまった。
「騒がしくてすみません。」
「いえ、私も楽しみにしてますね。」
結衣と杏華の後姿を見ながら、雫は本日何度目かのため息をついた。アリアは、そんな雫を同情しつつ、1度微笑んでから下がっていった。
「じゃあ~。ムスペリオスから~王女様達と~カミルくん達と~フラフラしてたSランクの人には届くかな~?」
「ロレイさんですわね。」
「そ~そ~」
「どこにいるかわからない人には無理じゃないかしら?」
3人は、自分たちの部屋に戻ってリストの作成を始める。まだ、こちらに来て2ヶ国しか回っていない為、リストの作成は簡単であった。
貴族の決まり事など関係なく、つながりのできた人達の名前を出してはどうするかを決めていく。
「残念だね~。隼人が護衛してた人達は~?」
「オルコット伯爵ねアルカディア王国の貴族よ。式典のパーティーにもいたわ。娘さんが喜ぶんじゃないかしら?」
雫はお披露目会のパーティーで、システィーナ嬢が光輝に熱っぽい視線をおくっているのを見ていたため、出せば来るであろうことは容易に想像が出来た。
「出しとこ~か~」
「隼人さんの知り合いはわかりませんわね。」
「しょ~がないよ~。一緒にいないんだし~。」
「取り敢えず、リストはこんなところかしら。」
「大丈夫ですわ。」
「い~よ~。」
ワイワイと騒ぎながらリストを完成させ、アリアのところに届け出た。
後日、リストに上がったメンバーに、招待状が発送された。ただ一人を除いて。
「クリスマスパーティー?普通は招待状を送るだろ。なんで召喚状なんだよ。しかもホスト側。」
ギルド経由で届いた手紙には、断られると踏んだのか招待ではなく、命令形で来なさいと書かれていた。
隼人は、アルカディア王国の蝋印が押された手紙を、震えながら握り潰さんばかりの力で握った後、力無くうなだれてため息をつく。
「プレゼント交換って何を用意すれば良いんだよ。若い人たちって何が欲しいの?」
自分も同じ年齢なのだが、大して世間の流行に興味がない隼人は、頭を垂れたまま少し考える。そして、何かを思い付き、黒い笑みを浮かべ、すぐさま行動に移した。
「俺を誘ったことを後悔させてやろう。」
一人呟いたら、その足で酒屋に向かう。
「実は----」
「おもしれぇ、やってやろうじゃないか。」
とある酒蔵で、隼人は自分の話を売り込みに行った。いかにも頑固そうな酒屋の店主は、思いのほか面白い隼人の話にあっさりと乗り、気合を入れて取り組んでくれることが決定する。
「助かるよ。」
「なに、礼を言うのはこっちだ。上手くいったら販売して良いんだろ?」
隼人の提示した条件は販売権の譲渡。成功して販売できる味に仕上がった場合、好きに販売して良い事を提案した。
「構わん。ただし、発案料をよこせ。」
「がめついな。どれだけ欲しいんだ?」
「粗利の20%」
「アホか、5%だ!」
「それこそふざけてるだろ。最低15%は欲しいところだ。」
「案だけ出して何もしないんだ。こっちは酒蔵提供する。お前は8%で我慢しな。」
「おいおい、舐めてんのか?」
「お前こそ、足元見てんじゃねぇぞ。」
「「10%だ!!」」
「・・・決定だな。」
「成功しなかったら無意味だけどな。」
「早急に仕上げてくれ。」
「任せとけ。」
2人は、取り分を決定して、意気投合したように固く握手を交わす。
一仕事終えた隼人は、軽い足取りで酒屋を出て、念のための第二案としてミレディの店に向かっていった。
場所は戻って王宮内。出した招待状に返信が来たので、仕分けをしていく。
「レックスさんがパスで~ロレイくんは連絡つかないって~」
「やっぱり手紙のやり取りは不便ですわね。届かなかったのは残念ですわ。」
「仕方無いわよ。ロレイさんは護衛で飛び回ってるんでしょ。他国の王族、貴族がOKを出したのはビックリね。」
「一応アレクシア王女は~光輝くんの婚約者候補だからね~。」
「正式には決まってないじゃない。」
「だから一応~。隼人も冒険者として食べれる魔物倒して納品してるみたいだし~なかなか順調だね~。」
「なんか引っ掛かるのよね。主に隼人の件で。」
こちらも意外で、すんなりと協力してくれている隼人に違和感を覚える雫。
その違和感は当たっているのだが、その答えを知るのはパーティー当日である。
「隼人さんの事ですから、考えても仕方ありませんわ。」
「そうね。やらかした時にこってり絞ってあげるわ。」
「お手柔らかにね~」
こうして、隼人の知らないところで説教が確定した。




