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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
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魔術陣

翌日、杏華のライフルのマガジンに刻印する魔術陣を作成するため、教会を訪れる。

さすがに神界に他人を連れてくることは出来ないので、他人の同行は拒否させてもらった。女神様と会える立場にいるなんて知られたら面倒だ。

フィーレに祈って神界へと視界が切り替わる。


「こんにちは、フィーレ。」

「・・・・・・ん。」


フィーレは、相変わらず椅子に座って本を読んでいるようだ。


「実は、教えて欲しい事があってきたんだ。」

「・・・・・・何?」

「魔術の刻印について教えて欲しい。ファイヤーバレットの魔術陣を作りたい。」

「・・・・・・わかった。」


何もなかった場所に、大量の本が現れる。何冊か手に取って表紙を見てみると、魔術陣の書き方の基礎教本からマジックアイテム製作の本まで魔術陣に関する本が出現している様だ。

オーダー通りだが、幅が広すぎてどれを読めばいいのか皆目見当もつかない。


「おすすめを教えてもらっていか?」

「・・・・・・これ。」


フィーレは、山ほどある本の中から、3冊ピックアップして渡してくれる。


「ありがと。」

「・・・・・・ん。」


フィーレのチョイスは完璧だった。基礎に始まり、応用さらにはオリジナルの陣の作成理論の3冊で、今回の目的に最短で到達出来る選出なのだろう。

フィーレが椅子と紅茶を出してくれたので、そこに腰かけて基礎から読み始める。

想像以上に面白く、一気に読み進める事が出来た。基礎教本に没頭していて、気がついたらフィーレが俺の隣に移動して自分の本を読んでいた。

すぐ隣で真剣な表情をして本を読むフィーレ。どんな本を読んでいるのかと、チラッとのぞき込んでみると、どうやら恋愛小説っぽかった。意外にも学術的な本だけでなく、もそういう本も読むみたいだ。

気を取り直して、冷めてしまった紅茶を飲んで口を潤し、残りもさらっと読んでいく。

今回作る陣は、ファイヤーボールを圧縮しただけのバレットで、完全な球状ではなく貫通力を高めるために先端をとがらせている。ただそれだけである。

基礎を少しいじればイケる内容なので、必要ない部分は飛ばしたり、流し読みで済ませた。

わからなくなったら、その手のスペシャリストが隣にいるので聞けば済む話である。


「参考になったよ。」

「・・・・・・できる?」

「わからなくなったら教えてくれ。」

「・・・・・・ん。」


魔術陣の描き方の本を片手に陣を構成していく。基礎をなぞりながら、いつも使っている技と同じになるように、アレンジを加えてオリジナリティを出していく。


「・・・・・・違う。」


フィーレから指摘が入る。いつも通りの言葉足らずな話し方だが、否定だけをされると少しびっくりする。


「え?どこか間違えたか?」

「・・・・・・ここ。」

「・・・あぁ、ほんとだ。ありがとう。」

「・・・・・・ん。」

「出来た。」


何度かフィーレの指摘を受けながら順調に進み、杏華の得意な系統である火と土のバレットの陣が完成する。

フィーレは無防備なのか、パーソナルスペースが狭いのか、非常に近いところで教えてくれるので、若干頭に入らなかっり、ミスを重ねたりしたが、まぁ仕方ない。完成したから良しとしておこう。

何はともあれ、これでカサリの宿題は何とかなった。後はこの陣を刻印してもらう為にカサリに届ければ終了である。


「・・・・・・おめでとう。」

「ほとんどフィーレのおかげだけどな。」

「・・・・・・ハヤトが頑張った。」

「フィーレに教えてもらわなきゃ全然ダメだったけどな。」

「・・・・・・それでも、頑張った。」


どうやらフィーレは、すごく俺を褒めたいらしい。しまいには頭まで撫でられて、満足してくれた。


「まぁ、礼だけは言わせてくれ。フィーレのおかげで助かったよ。ありがとう。」

「・・・・・・どういたしまして。」

「こんなんでお返しになるかわからんが、お茶菓子でも食べるか?」

「・・・・・・食べる。」


おやつタイムにしては遅くなってしまったがフィーレは了承してくれた。

ディアがいつも使っているようなテーブルと椅子が現れて、フィーレが紅茶を入れてくれる。俺はムスぺリオスで貰ったお茶菓子をテーブルに並べて椅子に腰かける。

少し雑談をしながらゆったりとした時間を過ごした。


「そろそろ帰るよ。」


時間も良い頃合い。余り長居していては教会が閉まってしまうので、ここ辺りが帰り時だろう。

俺は立ち上がってフィーレに告げる。


「・・・・・・ん。」


フィーレも立ち上がって俺の方に向き直り、俺に抱きついてくる。

突然の事に思考が停止する。ふわりと香る少し甘めなアーモンドのような香りで正気を取り戻し、どうしていいのかもわからずゆっくりとした手つきでフィーレの頭を撫でる。


「どうした?」

「・・・・・・もう少し。」

「・・・このまま?」

「・・・・・・ん。」


少しの間、同じ体勢をしているが、色々と限界が近くなってくる。


「もういいかな。」

「・・・・・・満足。」


フィーレはそう言ってスッと離れる。


「フィーレはかなり無防備だから言うけど、あんまり異性にそういう事しない方が良いよ。」

「・・・・・・ダメ?」


良く解っていないようで、フィーレは少し頭を傾ける。抱きつかれて感情が高ぶってるからか、いつもよりも可愛らしく見える。なんかの状態異常にかかってないか?


「勘違いする人が出て来たら困るだろ。」

「・・・・・・ハヤトだけ。」

「・・・それはそれで困る。フィーレは可愛いから俺もどうなるか解らん。」

「・・・・・・残念。」


相変わらず感情が読み取りづらいが、落胆させてしまったようだ。


「心臓に悪いから、たまににしてくれ。」

「・・・・・・ん。」

「じゃあ、また。」

「・・・・・・ん。」


フィーレは、手を振る俺に小さく手を振り返してくれる。

そして、ゆっくりと視界が切り替わっていく。白い光に包まれて、目をあけると教会の礼拝堂に戻ってきていた。

時刻は夕方。礼拝堂には人がまばらにしかおらず、その人たちも帰り始める。

俺もそこに加わって宿へと戻っていった。

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