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裏方の勇者  作者: ゆき
水の都騒乱編
102/186

露店

この話で100話になります。

正直こんなに書く事になるとは思っていませんでした。ビックリです。

ミレディの店を出て、少しフラフラしながら王宮への帰路に着く。

杏華はウィンドウショッピングにも満足したようで、立ち止まって店を見る事は少くなった。

ミレディとのやり取りで気疲れしていたので、嬉しい限りである。

色々あって疲れてきたところ、ふと屋台に目が止まる。


「・・・杏華、あのクレープみたいなヤツ食べないか?」

「良いですわね、美味しそうですわ。」

「だよな。よし、買おう。」


クレープの屋台に向かって行き、メニューを見る。


「杏華は何にする?」

「そうですわね、ではミックスベリーにしますわ。」

「わかった。ミックスベリーとチョコバナナを1つづつお願いします。」


杏華の食べたい物を聞いて注文をする。

作業を見ながら焼き上がるのを待ち、出来たクレープを受け取ってミックスベリーを杏華に渡す。

クレープの甘い香りが食欲をそそる。

クレープを一口食べてみる。チョコレートの苦味と、バナナやクリームの甘みが丁度良いバランスで口の中に広がる。

杏華の方を見ると、クレープを食べて目を輝かせていた。


「美味しいですわね。チョコバナナはどうですか?」

「あぁ、想像よりも甘さ控えめで美味いよ。食べるか?」


俺は、特に何も気にせず杏華に食べかけのクレープを差し出す。


「え!?」


杏華は俺の言葉に飛び退きそうな勢いで驚く。・・・しまった。結衣といるような感覚で杏華にクレープを差し出してしまった。普通、男女でこういう事はしないだろう。


「ごめん、嫌ならいいんだ。結衣がこういう時、俺のをくすねていくからつい。」

「い、いえ。せ、せっかくのご厚意、いただきますわ。」


言葉とは裏腹に、杏華は赤い顔をして口を結んでいる。俺に恥をかかせないように気を使ってくれているのだろう。本当に申し訳ない発言をしてしまったようだ。


「本当に無理しなくてもいいんだけど。俺が不用意な発言をしただけだし・・・。」

「結衣さんがそうならわたくしだって・・・よし!」


杏華は何を言っているのか聞こえないほどの小声で呟いた後、拳を握って一度気合を入れてから意を決したように俺の差し出したクレープにパクついた。


「ビターな味で美味しいですわね。」

「だろ。チョコレートは甘さ控えめだけど、他が程よい甘味で普通にイケる。杏華、ちょっとこっち向いて。」

「ふぇ?ど、どうかしましたか?」


俺はポケットからハンカチを取り出して、杏華の鼻の頭に着いたチョコレートソースを優しくぬぐい取る。きっと食べる時に勢いがあり過ぎたのだろう。

俺は指で拭って食べるような真似はしない。あれをやっていいのは光輝みたいな限られた人間だけだ。フツメンがあれをやるとドン引きされるだろう。最悪警察沙汰だ。


「チョコがついてた。」

「あ、ありがとうございます。お恥ずかしい限りですわ。」

「いいよ。何か恥ずかしい真似させて悪かったな。」

「いえ、違う味も食べれてよかったですわ。は、隼人さんもわたくしのを食べますか?」

「良いのか?」

「もちろんですわ。わたくしばかり貰ってもいけませんので。」

「じゃあ、貰おう。」

「ど、どうぞ。」


杏華は気恥ずかしそうに、クレープを俺の方へ傾ける。それを、欲張らないように少しだけ貰った。

こちらも、ベリー系の酸味とクリームの甘みが程よく調和し、どれだけでも食べられるような味わいである。


「こっちも美味いな。」

「そうですわよね。隼人さんは甘いモノがお好きなのですか?」

「最近は結構食べるな。いろんな事に巻き込まれてストレスが溜まってるのかもしれない。」


ディアたちとお茶会をすることが多いので、元の世界にいた時よりもお菓子を食べる頻度は上がっている。

それに、こちらに来てからというもの、休む間もなく動き続けているような気がする。もっとだらだらと過ごしたいのだが、なかなか周りがそうさせてくれない。


「甘味に逃げるのは、女性みたいですわね。」

「・・・そうか?こっちに来てから運動量も多いし、どっちにしろ糖分の摂取は必要なんだよ。それに、砂糖をそのまま舐めるよりは、美味いもの食ってた方がいいだろ。」


グルメというほどではないが、不味いものよりは美味いものを食っていたい。その程度の話である。


「確かにそうですわね。」

「男一人でこういう物を買うのは少し抵抗があるからな。今日は杏華がいてくれてよかったよ。」

「い、いえ。わたくしは何もしていませんわ。こちらこそ、色々と買っていただいてありがとうございました。楽しかったですわ。」

「そりゃあ良かった。気が向いたら、また食べに行こうか。」


今日行ったカフェもクレープも俺一人で行くことはないだろう。かといって誘う女の子も居ないので、社交辞令でも誘える環境を作っておくことは無意味ではないはずだ。ダメならダメでまた考えよう。


「ぜ、是非また行きたいですわ。」


杏華も意外といい食いつきである。きっと周りを囲まれずに町を散策できた事がうれしかったのだろう。


「次は皆誘っていこうか。」


やっぱり、杏華だけを誘うのも結衣辺りからクレームが来そうだ。囲まれることを承知で皆で行動した方が良いかもしれない。


「・・・そ、そうですわね。」


杏華が若干遠い目をする。何か選択肢を間違えたのだろうか。

話ながらゆっくり歩いていたが、時間が経つのは早く、王宮の前まで到着する。杏華が中に入って行くのを手を振って見送った。

俺はまだ町でやる事が残っているので、王宮を背にして宿に帰っていく。

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