カフェ
カサリの鍛冶屋を出てから杏華の提案で少し商店街の表通りをふらつく。
勇者パーティーで町に出ると騒ぎになるので、王都での外出は極力控えているらしい。
全員で歩き回るとすぐに勇者パーティーだとバレるらしい。主に光輝がすぐに見つかり、女性陣に囲まれるみたいだが。
俺のようなモブ冒険者と一緒だと、杏華も他人のそら似だと思われる為、あまり声は掛けられない。
それでも周りがチラチラ見られてヒソヒソと話をする仕草が目立つ。話し掛けてくる感じではないので無視でいいだろう。
少し見て回ったところで、杏華の方から『きゅ~』っと可愛らしい音が聞こえてくる。
杏華の方を見ると、顔を赤くしてお腹を押さえていた。
「き、聞きましたか?」
「・・・なんかごめん。」
気づけばそろそろお昼時のようだ。どうやらカサリの店で白熱しすぎてしまったらしい。
「い、今すぐ忘れるのですわ。」
「・・・努力します。腹が減ったから何か食べに行こうか。」
「よろしいのですか?」
「良いも何も今から王宮に帰っても昼過ぎで残してくれてるのか怪しいぞ?」
「確かにそうですわね。では、行きわすわよ。」
完全に切り換えた杏華は、飲食店を探して歩き始める。少し歩いて選んだ店は小洒落たカフェのような店だった。
周りの店よりも繁盛している。メインターゲットは若目の女性のようで、女子会やカップルで席は埋め尽くされている。
野郎ではなかなか入ることの出来なさそうな雰囲気がひしひしと感じとれる。
俺はこういうキャッキャウフフな空間にあまり行きたくないのだが、すでに杏華が突撃していってしまっている為、仕方なく足を踏み入れる。
店内はカジュアルな雰囲気で、少し可愛らしさを取り入れたといった感じだろうか。女子受けはかなり良さそうだ。
「すぐにテーブルを空けてくれるそうですわ。」
「そうか、場違い感があって落ち着かないんだが。」
「問題ありませんわ。」
少し待たされて、店員に席へと案内される。
メニューを見ると、パスタっぽいものがメインのようだ。
こっちの世界に来てから飯と言えば大衆食堂や酒場が多かったので、こういった小洒落た料理は久しぶりである。
適当に注文して料理を待つ。
「杏華、悪かったな。」
「何がですか?」
「勝手に賭けをしたことだ。」
俺は、杏華の言葉を止めて賭けをよる方に話を進めてしまった事に関しての謝罪をする。
「構いませんわ。隼人さんはカッとなったわたくしを止めてくれただけですわ。最初から作ってもらえないかもと言っておりましたし、わたくしが合格すればいいだけですわ。」
「・・・そうだな。頑張ってくれ。」
「もちろんですわ!わたくしに出来ない事なんてありませんわ。」
「確かに出来そうだ。」
無駄に自信満々の杏華に対して笑みがこぼれる。
「なぜ笑うのですか?」
「いや、光輝に似てると思ってさ。・・・あ~ごめん、比べられるの嫌いだっけ?」
杏華は光輝と比べられることを嫌っているらしい。
杏華自身も相当な才能があり、元の世界で学年トップであるのだが、どうしても光輝と比べてしまうと劣っている。
誰も比べようと思わないような完璧超人と、比べるに値するだけですごい事ではあるのだが、杏華は幼い頃から比べられてきたのだろう。勝てない敵と勝手に戦わされるのは相当不快だったと思う。
「嫌いなのは、結果を比べられる事ですわ。ほとんどの事でお兄様には勝てません。なので、お兄様のやらない競技をやっているのですわ。」
「なるほど。それでマイナー競技なのか。」
杏華のやっている射撃を光輝はやった事が無いはずだ。これは光輝の気使いだろう。今後も光輝が射撃をやる事はないと思う。
「マイナーではありませんわ!正式なオリンピック競技ですわ!それに、わたくしはお兄様がやっていないからではなく、単純に楽しいから続けているのですわ。」
「すいません。でも、それだけ熱意があれば試験も問題無さそうだな。」
「隼人さんも驚く結果をお見せしますわ。」
「期待してる。」
丁度話もキリが付いたタイミングで料理が運ばれて来る。
男からしたら若干少ないが、皿に丁寧に盛られたパスタは非常に美味しそうで、いったん話を止めて冷めないうちに食べ始める。
「美味しいですわね。」
「確かに、流行ってるだけあるな。」
豊穣の女神様を信仰する土地だけあって、素材の味から一味違うといったところだろうか。
「やっぱり、わたくしはムスペリオス王国よりもこちらの国の方が好みですわ。」
「女性視点だとそうなるか。」
ムスぺリオス王国はスタミナ料理というほどではないが、冒険者が多く集まる事もあって力の出そうな料理が多い。酒を呑みながら食べれるように味も濃いめで量も多い店が多かった。
アルカディア王国はオーガニック素材を生かした味付けで、香辛料も使うが、最小限に抑えてるといったところだろうか。
「隼人さんはあちらの料理の方がお好きでしたか?」
「甲乙つけがたいな。こっちのは純粋に美味いし、向こうのは食が進む。贅沢だが、気分で食べ分けたいな。」
「ボリュームのあるあちらの料理は男性受けが良さそうですわね。」
「濃いめの味付けが酒に合うんだよ。」
そして、アルカディア王国よりもムスぺリオス王国の宴会の方がひどいありさまだった。
食べては呑み、食べては呑みを繰り返し、一人また一人とつぶれていく様は思い出したくもない状況だった。
「確かにムスペリオスの皆さんは結構な勢いで呑んでましたわね。隼人さんもよく呑まれるのですか?」
「嗜む程度なだな。呑むと金が飛ぶ。」
「フフフ。隼人さんらしいですわね。」
「そうか?」
「えぇ。」
日常会話に花を咲かせつつ。二人とも食べ終わって一息つく。
「この後はどうされるのですか?」
「特に決めてないけど、行きたいところでもあるのか?」
「もう少し商店街を見て歩きたいですわね。カサリさんから言われている事は準備出来るのですわよね?」
「あぁ、そっちは心当たりがあるから、俺の方で何とかしておく。とりわけやるなら、防具の修理だな。」
カサリに、ライフルのマガジンに刻む魔術の陣を描いてくるように言われている。
使う魔術はファイヤーバレットでいいと思うのだが、俺のオリジナルなため陣を新しく作らなくてはならない。まぁ、フィーレに教えてもらって製作するのが一番手っ取り早いだろうから問題無い。
商店街にいるのであれば、ミレディの店に寄っていくのが効率的だろうか?
「今日は一日自由ですし、そちらもご一緒してもよろしいですわよね。」
「別にいいけど、面白くないぞ。」
「構いませんわ。」
まだまだ客脚は止まらないようなので、キリの良いところで2人は立ち上がって会計を済ませた。
杏華の話が終わらない・・・




