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転移する理由が見つからない 093(最終話)

最終話になります。

果たして、全く望んでいなかった現実を大慈は受け入れられるのでしょうか?

転移する理由が見つからない 093





マンション火災から1ケ月が過ぎて。

通い詰めた病院の看護師から、立花退院のメールが来たのはその退院当日だった。

なんで面会謝絶からいきなり退院なのか不思議である。


だんだん不満がカラカナへの怒りに代わってきたのが原因かもしれない。

だが結果が良いので気にする必要もないだろう。


その日は就職面接予定が入っていたが、迷わずキャンセルした。

その時に居合わせないと、二度と会う機会が無くなりそうな気がするからな。

実際、立花の家も無くなっている。

実家に帰るとかになると、本当に探しようが無くなりそうだ。


現実に帰って来た理由の中で、かなり大きな部分を占めている理由だ。

一応、家族や元カノどもに熨斗つけて叩き返すとかも理由にはあるが、それはどうでも良い。

友人への借金? 考えたくない。


若干の逃避思考もありつつ、俺は通い慣れた病院に向かう。

電車が駅に着くのが待ちきれず、飛び降りて走り出したくなったが我慢した。

なんとなく走った方が速い気がしたが、流石に問題がある。


病院の最寄り駅について、病院への近道になっている公園を通る。

普段、主婦や子供たちが遊んでいるこの公園だが、珍しくいつもの子供たちがいなかった。

そんな日もあるか、と思いながら病院へと走る。


そこで目にしたのは、たくさんの子供に囲まれた立花の姿だった。


「りっかせんせー、たいいん、おめでとー!」


練習したのか、揃って声をかける子供たちの顔には笑顔が浮かんでいた。

変わらず無表情なままに見える立花だったが、少し涙目になっていた。

子供たちを抱きしめ、頭を撫で、親たちに頭を下げて回る様子を見て思い出す。


あぁ、立花の家で見つけた絵に似ているのか。


たくさんの子供たちの笑顔に囲まれた、無表情な女性の絵。

燃えて無くなってしまった絵だ。


だが、絵が無くなっただけで、その光景が無くなった訳ではないと、目の前の光景が告げる。

立花が転移することを拒み続けた理由。


きっと立花は、この世界を失いたくなかったのだ。

そう思いながら、その輪に近づく。


俺のことは忘れて貰う。

カラカナはそう言っていた。

こちらに気づいていないのか、子供たちの声に応えている様子は、それを思い出させた。


全く覚えて貰えていない。

それは、俺の心を怯えさせていた。

それでも足は止まらない。

心臓が激しく鳴り、息が苦しい。

彼女の温もりを覚えている手のひらは汗で濡れ暑く、背筋にも汗が流れているが寒い。


スライムや観察者よりも、あの冷めた眼差しで「誰?」と言われることが遥かに恐ろしい。


近づく俺に気づいた子供たちが、「あ、だいじだ。全員、戦闘準備!」とか言っていたが、構ってやるだけの余裕がない。


無表情な立花の、冷めた瞳と目があう。


大きく息を吐いた俺は左足を引いて腰を落とし、構える。

そして、最初に出会った時のように、敢えて左手を下げて誘った。


立花は子供たちを離れさせて、少し半身になり立つ。

前に出された左手は手首を隠すように。

体重は左足に乗せ、軽く上げた右足首を一度だけ上下させる。


あの時と同じ、足先が俺の頭に入るという答え。

変わっていない事が嬉しくなり、笑みを浮かべて彼女を見つめる。

その無表情な顔がわずかに笑みを浮かべて言った言葉を、俺は生涯忘れることはないだろう。




「おかえり」



ありふれた言葉が、まるで奇跡に出会えたかのように感じる。

心の底から喜びが溢れて、涙が出そうになる。


脂肪の塊みたいな観察者の前で、一瞬記憶を失った俺。

その時に立花を見て、自然と溢れた言葉を、彼女は覚えていてくれた。


俺を、覚えていてくれた。


少し恥ずかしそうにして構えを解いた立花を見る。

喜びが抑えきれず、感情が溢れて止まらない。

抱きしめよう。

そして、キスをしよう。

誰にはばかることもなく、俺は彼女に愛を語ろう。




そう思って構えを解いた俺の急所を、衝撃が撃ち抜いた。


完全に意識の外から、全く予想しない相手に受けた一撃は、容赦なかった。


崩れ落ちる俺に向かって、

「今だ! 全員かかれー!」

と号令が飛んで、子供たちの襲撃が始まる。


ほとんど威力の無い攻撃は、数を増すことでたまに急所に入り、俺を悶絶させた。


「だいじ弱いなー、そんなんじゃ、立花先生には勝てないよ」

「よわよわなだいじは、私がお嫁になってあげるー」

「ずるい、あたしもー」

「えものは、倒した人のもの。えいっ」

「はやいものがちだー!」


子供たちにボコボコにされている俺に背を向けて、立花が肩を震わせている。

お前それ笑ってるだろ? くっそ、覚えとけよ!


「立花には大慈のことは忘れて貰おうカナー?」

ふと、カラカナの言った言葉を思い出した。

これは殴られたことへの腹いせに言った冗談だったのだろう。

笑っている立花をみて、本当に心底安堵する。


安堵した隙に急所にまた一撃を受け、息も出来ずに這い回り逃げ惑う。

それを子供…幼女たちが追い回す。

そんな状況に気づいて、もう一つカラカナの言葉を思い出した。


立花の方を見ると、子供たちの中でも男子が集まっている。

カラカナのテーマ。

その、俺用に用意したという。


「大慈用の【ハーレム】はヤンデレ幼女山盛りダヨー?」


という言葉を。

これか! こういうことか!

ちくしょう、あの腐れ女神!

こうなる様に仕組みやがったな!?


くっそぉぉぉっ! こんな世界、いつか出て行ってやるからなぁぁっ!!




ヤンデレ幼女山盛りハーレムエンドを迎えた大慈は、転移する決意を固めました。

転移する理由ができたので、この物語は終わりです。

大慈の人生物語は、きっとこの後も続きます。

立花とどうなるかは大慈と立花次第ですが、この世界の観察者が楽しんで見守ることでしょう。

え? みかりんはどうしたか?


…きっと幸せだヨー?

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