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転移する理由が見つからない 092

帰ってきた現実がもたらす辛さが、大慈を打ちのめしているようです。


転移する理由が見つからない 092





俺が後悔している理由は、立花に会えないことが大きい。

どんな状態になっているのかも分からない立花。

もし観察者としての力が使えれば、即座に怪我など簡単に無かった事に出来るはずだという思い。

面会謝絶が続いていると言われる度、そう痛感する。

治療が出来るようにと、ゲームの回復魔法とか唱えてみたが効果は無かった。

身をもって実験に協力してくれた不良青年たちには感謝しかない。


あれ以来、変な奴に声をかけられることが増えたことも後悔の一因だ。

ついでに言うなら、警察から職務質問される頻度が高くなり過ぎて地域の交番担当とは顔なじみになった。


どうやら本能的に異質なものがいると感じ取るらしい。

それが不審者と取られたり、カモと取られたりする。

俺はただ平穏に暮らしたいだけなのに、何故か不穏が寄ってくるのだ。

カラカナがみかりんのハーレムに加わるためにどこかにいるなら、同じような目にあっているのでは? と思ったのだが、そういう目立った話は聞かない。


おそらく、人間の振りが上手いのだろう。

巨悪を見つける度に観察しているが、未だに見つけられていない。

観察者の能力についてとか、その使い方とかを教えて貰いたいのだが。


問題は他にもある。

住居だ。

元のマンションは住めなくなったが、保証や補填で新しい家までは用意されない。

新居を得るまでの代替は紹介されたが、雨が凌げる程度のものだったり、共有住宅みたいなものだったため断った。

そんな中でようやく見つかった比較的マトモな物件は、3駅離れたところの古い一軒家だ。

ただし区画整理で来年には取り壊しが確定している。

仕方ないのでそこに住む事にしたが、1人で暮らすには広い。

掃除が大変だ。


更に問題なのは、生活費だ。

保険から入院費用を払った残りが結構あったので、余裕があると思っていた。

だが住民税などの税金関係には、容赦や遠慮という概念はない。


口座から引き出した3万円。

それに手持ちを合わせた5万弱が俺のいまの全財産である。

…仮にすぐ就職出来ても給料日までは持たない金額である。

ちなみに、代替住宅とはいえ家賃は払う必要があると当然のように言われている。

何が当然なのか、全く納得出来ない。


一応、生活用品を揃えておいて良かった。

そう思うが、これから先を考えて気分が落ちる。

なんで俺は現実に帰ってきたんだろう。

そんなことを思いながら、友人に連絡する。


状況を知っていながら、いつもと同じ対応を返す友人は俺が言うのもなんだが結構な変人だと思う。

連絡したその日に家に来て、「よく燃えそうだ」と言うあたり、いろいろ普通じゃない。

食材を買って貰い、飯を奢る。

無心をするために呼び出したのがわかっていたのだろう。

それを口にすると、かなり嫌そうなリアクションをされて文句をいわれた。

言われることを予想していたらしく、その場で出された封筒には約2ケ月分の生活費とスーツ代に充分足りる金額が入っていた。

文句だけで迷いなく金を貸してくれる友人に、本当に心から頭がさがる。


頭をさげるから中身を出して投げるな、ばら撒くな。

どこかに飛んで行ったらどうするんだ。

必死になって搔き集め、枚数を確認する。

こっそり友人が回収しているのを取り上げる。

よこせコラ。

まったく、人の金を何だと思ってるんだ。


観察者になって現実に戻って来て、多少なり後悔していた俺に、これまでと同じように接する友人と酒を飲みながら。

俺が出来るお礼が何かないかと考えて、一つの答えを思いつく。

観察者になったことで出来ることを、友人にしてやれば恩返しになるだろう。


「お礼に俺が新しい世界を作ったら、生涯金に困らない人生を用意する」


と割と本気で言ったら、


「いや、この世で自分で働いて返せよ。これまでのも全部」


と割と本気で釘を刺された。

………おぅ、頑張る。




立花のことも問題ですが、生きる手段も問題です。

大慈の家族はそれに追い打ちかけるため、そもそも連絡を取ろうという発想自体が大慈にありません。

こうした非常時に助けてくれる友人は貴重です。

まぁ、彼もまた善良な小市民(自称)ですが。


次回、最終話になります。

果たして、大慈にハッピーエンドなどというものが用意されているのでしょうか?

答えは多分、カラカナが知っています。

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