転移する理由が見つからない 009
ようやく会話が成立するようになったので、主人公の名前が判明します。
転移する理由が見つからない 009
どこにいるのかわからない相手を、どこだかわからない場所で探す。
しかも相手がどんな奴かもわからない。
全く、あのジジイのせいで酷く面倒な状況になってしまった。
もしかしたら何か見ていないか、と思い少し話をしてみたのだが、【ぱるみら】と言う名前がわかったくらいで、有益な情報は得られなかった。
ちなみに本人がまだちゃんと言えないらしく、名乗ると「ぱーみあ」になる。
他に意味のある言葉としては、
「だーじ、おばけ」
と、それが現界だった。
一応、年齢は2歳だとわかったが、それはどうでも良い。
そんな幼児に虐待していた奴に反吐が出る気分になったくらいか。
ちなみに、【大慈】というのは俺の名前だ。上手く言えないらしく、この子が呼ぶと【だーじ】になる。
【おばけ】はオバケなんだろうが、ジジイの事では無い様だった。
詳しく教えて貰おうとしても、
「えっと、えっと、でっかいの! おばけ!」
まぁ、2歳児に詳細な分析を求めるのは酷というものだ。
俺と同じくらいの大きさらしい、という事までは確認できたので、多分誰か、あるいは何かがいるのだろう。
オバケ扱いされているのでジジイの類だとは思うが、俺たち同様に誘拐された被害者の可能性もある。
そんな話をしながら俺は、ぱるみらを肩車して、指差す方へと歩いていた。
この奇妙な空間について、わかった事が幾つかある。
一つは普通に疲れること。
腹は減らないが、疲労すると何か食いたくなる。
ぱるみらの食事くらいはどうにかしてやりたいが、現状では難しい。
もう一つは、見え方が人によって違っているらしいということ。
俺には周囲が薄灰色の霧で、遠く程暗くなって見えている。
ぱるみらには周囲はガラスで囲まれていて、遠くに灯りが浮かんでいる様に見えているらしい。
ここに連れ込んだ奴が違うとか、そのくらいしか予想出来ない。
人によって完全に違う可能性もある。
だが、とりあえずは行動の指針ができたので、良しとしようか。
ぱるみらが言うには灯りはたくさんあり、最も近くにありそうなものを選んでもらった。
「ぱるみらは凄いなぁ」
「ぶへへぇー」
役に立っている事に感謝を伝えて褒める。
子供を褒めるのは大事、お礼を言うのも大事だ。
そうした事を経験していないと、ちゃんとした大人には育たない。
見た目が悪くなっているのは親の責任だ。
普通に良い子なのに、可哀想で仕方ない。
そんな風に思っていたら、人影が見えた。
いや、違う。的だった。
「ちゃんと掴まってろよー」
ぱるみらに伝えて、そいつを見ると、こちらに気付いた様だった。
よーし、ジジイ。そこを動くなよ?
その顔面、思い切りブチ抜いてやるからな?
「だーじ! おばけ! おばけ! ぶゃぁぁぁっ!」
急にぱるみらが暴れて、落ちそうになるのを抱きとめる。
ジジイに驚いたのではなかった。
何かの気配を感じて振り向いた俺の目の前に、気配も無くそいつはいた。
「初めまして」
俺と同じくらいの大きさの、蠅が。
第4の人物(?)が登場です。
ぱるみらからは「おばけ」認定されています。