転移する理由が見つからない 089
ラスボス的な観察者、脂肪が消えました。
残された大慈たちは、これからどうするのでしょう?
…ラスボスがいれば、当然隠しボスもいますよね?(RPG脳)
転移する理由が見つからない 089
解放された右手を抑えながら、何故か俺は立花に頭を下げていた。
何を謝っているのか良くわからないが、それで円満ならばそれで良いと思う。
嫉妬している立花が可愛いと感じたのは秘密だ。
多分口にしたら蹴りが飛んでくる。
カラカナは何故か疲れた様な声を漏らして、へたり込んだ。
なにやら想いを馳せている様に、目を閉じて天を仰いでいるが、それよりも大事なことがある。
呼びかけても応えないため、額を指で弾くと、
「フギャッッ!」
と尻尾を踏まれた猫の様な声をあげて倒れた。
大袈裟な。
額を抑えながらこちらを睨んでくるが、元々顔には迫力が無い。
拗ねているようにも見えるが、それどころでは無い。
「あいつがいなくなったら、どうやって俺たちは帰るんだよ?」
「!」
少し責める様に見ていた立花が、そのことに初めて気づいたのか驚いている。
別の観察者じゃあ、帰すのが無理だという話だったはずだ。
壁の穴から見える世界は荒涼としていて、命の気配も無い。
第一、少しずつだが壊れていく様に、見えているものが消えていくのがわかる。
こんな世界では生きていけないだろう。
だからと言って、カラカナの観察する世界はテーマが【ハーレム】だ。
転移する気がしない。
「ちゃんと転移先は用意してあるヨー? 大慈用にはヤンデレ幼」
「殴るぞ?」
「…ケチー」
バカを言い出すカラカナの言葉を遮る。
立花が怪訝そうに小首を傾げて俺を見ているが、説明したく無い。
本当、なんでこいつは俺の人生を見た上でヤンデレ幼女ハーレムなんてものを用意したんだろう。
「しょうがないナー。二人とも転移する気は無さそうだからナー」
多分カラカナは立花用にもハーレムを用意しているのだろうが、それを口には出さなかった。
代わりにニヤニヤと俺の顔を見て、満足そうな顔をしている。
なんだというのだ。
いや、言ったら殴るからな? 余計なことは言うなよ。
立花に蹴られることになるのは俺なんだからな?
「さっきの観察者から、2人の世界を貰ったのダー! だから、これからは私が観察者として2人を見守るヨー!」
………。
なんか、とんでもないことを言ったよ、こいつ。
いや、確かに俺は勝手にカラカナを女神枠担当とか考えていたし、そんな扱いをしてきたさ。
だが、え? マジで言ってんのこいつ?
「まさかお前、俺たちの世界をお前のテーマに染める気かっ!?」
冗談じゃないぞ? ヤンデレ幼女が群がってくる様な生活なんて。
第一、その括りだと立花は対象にならないじゃないか。
最悪だ。
本気で洒落にならない。
しかも、こいつは悪気がない。
余計にタチが悪い。
ニコニコと笑顔を見せるカラカナの身体から、温かな光が溢れている様に感じる。
それに比例する様に、世界が暗く、遠く。
先ほどまでいた場所から、違う場所へと移されて行くのを感じる。
マズイ! こいつマジでこのまま元の世界に戻すつもりだ!
しかも性格からして、質問に応えてないということは、そうするつもりだからだ!
か、考えろ俺! やっと幸せな生活が出来るかもしれないんだ!
ここでなんとかしないと、また人生が好き勝手に弄ばれる!
俺に寄り添う様にしていた立花の姿が消える。
立花がハーレムを?
それはつまり、俺ではない男たちが?
見たこともない様な馬の骨が立花と、俺が出来ないことを楽しむことになると?
ふざっっけんなよクソ女神!
「そんなにハーレムが好きなら、みかりんのハーレムにお前が入ればいいだろっ!」
言い表せない怒りと焦燥に、俺の口は叫びをあげた。
怒鳴られて驚いたのか、目を丸くしたカラカナ。
もっと何かないか? 確実な手段はないのか?
そう焦る俺に、カラカナが笑顔で応えた。
「それは楽しそうダナー!」
……ごめん、みかりん。
俺の幸せのために、女神に愛される素敵な生活を送ってくれ。
脳裏に浮かんだみかりんが、「なにを言ってるんですかぁっ!」と怒っていた。
うん、ごめん。
頑張って幸せになってくれ。お前なら出来ると信じているよ。
大慈にとっての隠しボスはカラカナです。
転移物小説ですから、女神枠が隠しボスというのは定番です。(知らんけど)
2人を見て「離れたくないんだろうナー」とニヤニヤしているカラカナは脂肪よりは良い観察者だといえるでしょう。たぶん。
次回、隠しボスから大慈に、とどめの一撃です。