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転移する理由が見つからない 087

大慈は脂肪が出した答えに対して、全身全霊で返していたら吹っ飛ばされました。

転移する理由が見つからない 087





背中が堅いものにあたり、それを突き抜ける。

かかとがどこかに擦られて、背中から倒れたが勢いが消えず、跳ね返って身体が浮く。

再び堅いものに、今度は腹から突っ込んで止まった。

が、頭から落下して、首が変な方向に曲がりながら倒れる。

その上から堅いものが降ってきて、身体中を打ち付け潰されそうになったところで、ようやく思考が戻って来た。


なんだか良くわからないが、もの凄く充実していながらどこまでも空虚な感覚を味わっていたような。

そんな奇妙な感覚に囚われていたような、そんな感じがする。


身体中が痛みを訴え、のしかかる瓦礫から這い出る。

何があったのか、良く思い出せない。

身体を突き抜けた衝撃で意識が飛んだせいか。


吹き飛ぶ前にいたであろう方へと顔を向ける。

身体中が悲鳴をあげているが、動けなくはない。

むしろ打撲的な痛みよりも、筋肉痛的な痛みの方が強いな。なんでだ?


石壁に空いた穴の向こうに、立花の背中が見えた。


多分、発勁で吹き飛ばされたんだろうと状況を確認し、弾け飛んだ壁の穴に、凄まじい威力で撃ち込まれたと理解する。


流石にこれは下手すれば死んでたんじゃないか? やり過ぎだろう。

そう思いながら立花の背中を見つめる俺の視界は、何故か涙で歪んでいた。


止めてくれた。本当の意味で俺を助けてくれた。


自分でも全く意味がわからなかったが、何故かそう思えた。

先ほどの充実した空虚さが、立花の背中を見ていると奇妙な安心感に変わっていく。

その背中を見つめていると、俺は訳もわからず妙に満たされた気分になり、泣いた。




涙を拭い、瓦礫を避けながら歩く。

まるで迷子の子供のようだ、と自嘲する。

帰る家なんて、マンションごと焼け落ちて跡形も無くなっているだろうに。

いったいどこに帰るのか。

帰る場所も、帰りたくなるような場所も無いじゃないか。

そんなことを思いながら、顔を上げる。


そんな風に心配そうな顔なんて、らしくないな。

そう思いながら、ふと思った。

どうせ帰るなら、迎えてくれる女がいる場所がいいな。

笑顔でなくても、怒っていても、待っていてくれるだけでも充分だ。


「…ただいま」


無言で俺を見つめる立花を見ていたら、自然とその言葉が出た。

こんな言葉を使ったのは、何年ぶりだろうか?

静かに頷く彼女を見つめて、帰りたくなる相手が見つけられた俺は思う。

もしかしたら俺は今、幸せなのかもしれない。


その幸せを噛み締めたくて、味わいたくて触れたくなった。

その幸せに触れようと手を伸ばしたら、幸せが遠ざかる。


カラカナが、立花の手を引いていた。

おい、何してんだコラ?


「乱暴者は、近寄らないでネー」


…乱暴者って、俺か?

俺のどこをどう判断したらそんな扱いになるんだ? いつ俺が暴力を振るった? あんまり寝ぼけたことを言ってると叩き起こすぞ?


「ダメ」


カラカナを睨んだら、立花が庇った。

何故だ。

まるで俺が悪者みたいじゃないか。

しばらく立花とにらみ合ってみたが、引く気はないらしい。

チッ。仕方ない。

今は諦める。後で隙を見てカラカナを問いただそう。

それより、どういう状況なんだったっけ?


…あ、そうだ。

マンションが燃えて、新芽が恩返しして。

で、カラカナに再会して。

……立花に吹き飛ばされた。

あれ? なんか忘れてる?


だいたい、ここはどこだ?

石壁とか、埃まみれの絨毯とか、現代なのか中世なのか異世界なのか現実なのか、なんか良くわからないな。

でも、なんだろう。

なんでか知らないが、妙にスッキリしているんだよな。


半ば崩れている建物の中は造りが広く、部屋も大きく造られている。

周囲を見ると、朽ちかけた家具や汚れた壁が見えるが、その一角に怯えた顔の奴がいた。


皮膚だけでなく肉ごと弛んだ姿。

巨魁と言えなくもないが、まるで脂肪に手足を生やしたような、デフォルメされたキャラクターのような塊。

どこかで見たような気がして考えるが、友人もここまでではなかったなぁ、という答えしか出てこない。

これだけ脂肪だらけだと、心臓病とか大丈夫か? と心配になる。

なんだか俺を見ている顔の色も悪い気がするし、震えているようにも見えるな。

やっぱりどこか悪いんだろうか?


「大丈夫か?」

「ひっ!」


心配して声をかけてやったら、引きつった音が返ってきた。

しゃっくりか? ますます怯えてしまったのか、目を閉じて両手を俺の方へと向ける。


…ワンツーと打ち込んだらダメかな。


びっくりして心臓が止まりそうだな、止めておこう。

怯えて話にならない奴は放っておいた方が良い。

なんか可哀想だし。


「さて、これからどうするかな」

「…大丈夫?」


何故か立花に心配そうな顔をされた。

他人を心配したら心配されるって、俺はどういう奴だと思われているのだろうか。

ちょっと気になったが、さっきの発勁の方の心配なのか、と思い至る。

そうだよな、心配したらマトモじゃなくなっているとか、そんな風に思われる理由も無いしな。


「あぁ、平気だ。なんか知らんが、痛みも消えたし、健康そのものだ」

「…」


心配するような表情では無くなり、いつもの無表情に戻ったが、なんだか呆れられている気がする。


「バカは治らないカナー」

「お前に言われたく無い」


いつもバカっぽくヘラヘラしてる奴が、こんなに真面目な俺に向かって随分と失礼なことを言うじゃないか。

全く、仮でもバカでも女神枠なんだから、たまにはシリアスなシーンの演出とかやってみたらどうだ?

…いや、シリアスなカラカナが全然想像出来ない。無理だな、うん。




「脂肪に喰らわせるもの」であろうとした大慈の意識から飛んでいるため、脂肪に怯えられる理由も、カラカナがシリアスをしていたことも、立花が吹っ飛ばして止めたことも、ぽっかりと抜けています。

それに伴い、脂肪が何者か?ということも飛んでいます。


必然的に、改めて脂肪が何者か知るのですが、それは次回の話。

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