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転移する理由が見つからない 084

かつて生きていた世界を食い壊されたカラカナ。

彼女は、それをした相手に何を思うのでしょうか。

そして、その場に居合わせた大慈は、何を思うのでしょう。

転移する理由が見つからない 084





「ゴミみたいな所だったよ」


俺がカラカナに、観察者になる前の世界を尋ねた時、彼女はそう答えた。

その時の顔は今のように暗く、声も沈んでいた。

だから、俺はそれ以上は聞かなかった。

誰にでも、触れられたくない過去くらいある。

そう思ったから。


「全部失って、全部と混ざり合って、吐き捨てられた残滓。世界の残滓と貴方の呪詛を食べるのは、最悪だったよ」


カラカナが教えてくれた、観察者になる方法を思い出す。

自分が生まれた世界から出ること。

そして、その世界との繋がりを断つこと。


世界が食われて繋がりが断たれて。食われて吐き出されたから世界から消えた。

それが、カラカナという存在を作ったのか。

だとするなら、なんて皮肉だ。

彼女の根底には絶望しかない。


「貴方は、残さずに、食べてあげる」


身体中が揺さぶられる。

この振動には覚えがある。

トレード場所でも感じた激しい揺れ。


「や、やめろ! ここは俺の世界だ! 俺だけのものだ! お前ごときが!」


喚き散らす脂肪が揺れる。

トレード場所の休憩所のようなものなのだろうか。

いや、もっと本質的な場所なのか。

慌てている脂肪を見ていると、そう思える。

象徴として姿が人間的になって見えているだけで、本質的な部分は俺たちには見えていないのだろう。

それでも、2人の観察者が何をしているのかは、その様子から窺えた。


笑顔のままで、だが決して笑っていないカラカナが、脂肪の世界を、その存在を食っている。

その影響が、この世界に出ているのだろう。

世界が揺れて、欠けて、壊れていく。


「や、やめろ…やめてくれ…、俺を、俺を食うなっ! 食わないでくれっ!」


先ほどまで上から目線で語っていた脂肪が、ついに懇願を始める。

それも仕方ないかもしれない。

笑顔で食事。

当たり前の食事風景だか、食われる側にしてみたら悪夢でしかない。

高慢だった脂肪がどんどん下手に出るように変わっていく様を見ていると、何故か哀れに思えて来た。


「き、消える…やめて、くれ、ください。あ、崇める! 讃える! だからやめろ! 俺を、俺を消すなァァァっ!」


恐怖して、絶望している脂肪。

カラカナは全く変わらない笑顔で、それを見ているのかわからない目を向けている。

これは…あれだな。


気が晴れることも無いのなら、これ以上は無意味だろう。

成し遂げた後に何も残らない。いや、何もかも失うような。

復讐っていうのはそういうものだろう。

そんなのは巨悪がやることじゃあない。小悪党が死に物狂いでやるもんだ。


カラカナの前に立ち、脂肪を映す視線を遮る。

俺が見えていないのだろう、暗く歪んだままの笑顔。

空っぽの、らしくない顔だ。


俺が思ったことを、立花が思ったわけではないだろう。

何を思い彼女がカラカナを止める結論に至ったのはわからない。

背中から抱きしめるその顔は、辛そうに見えた。

抱きしめられて、俺たちがいることを思い出したのか。


「…邪魔するなら、貴女も食べるよ?」


一言、言葉が漏れたが声は暗いままだった。


「た、助けて。助けてくれ…」


後ろで脂肪が嘆いている。

こいつもこいつで、根本的に勘違いをしているが、それは後で良いか。


「カラカナ、お前さぁ…」

「邪魔をするなら、貴方も食べぶぎゃっ!?」


思い切り、その頭に拳を振り下ろした。

全体重が上手く乗った会心の一撃は、カラカナの頭頂部で鈍く重い音を立てて、抱きしめていた立花ごと震わせる。


「俺の邪魔してんじゃねえぞ」


涙目で床にうずくまるカラカナに吐き捨てる。

俺はまだ、この脂肪に礼をして無いんだよ。

だいたい俺からすればお前は女神枠なんだから。


いつまでもシリアスやってないで、いつものようにバカ面でヘラヘラとアホやってれば良いんだよ。





思っていることを十全には口に出しませんが、行動の根底には相手への思いがあります。

そして、老若男女問わず殴るべきだと思ったら殴る。それが大慈です。

…しかし口に出さないため、カラカナとってはにただの暴力でしかありません。

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