転移する理由が見つからない 081
マンションの火災崩落によって最上階から落下することになった大慈と立花。
最早、自力での生還は不可能。
そこで見え、聞こえたものは一体何をもたらすのでしょうか?
転移する理由が見つからない 081
「インがオホー…ガンがイホーだったカナー?」
バカッぽい声に緊張感が切れた。
落下していく俺たちが地面へ着くまで、さほどの時間が無いのに。
目の前で俺たちを先導するように、葉を手のように振り続ける新芽。
それが、バカッぽい声で励ましているような気さえしてくる。
バカっぽい声が言おうとした言葉。
多分、因果応報、だろう。
正確な意味はよく知らないが、やったことは巡り巡って自分に返ってくる、とか。
そんなような意味だったと思う。
…この状況になるだけのことを、俺がしたとは思えない。
つまり、こういう目に合わせた奴を同じ目に合わせて良いということだな?
こんな不幸な目にあわされる覚えは無いし、他人の不幸を笑った覚えは……。
……泣き疲れたバカガキと、変な名前。
蔑むように見てくるジジイに呪いを吐き続ける俺の声。
何故か妙にはっきりと、その様子が思い浮かぶ。
スライムに追い回されるという、現実にはありえない体験。
身体が思い出したその時の痛みが、今の身体の痛みなんて、まだまだ余裕だと語る。
あの時は死にかけて、意識も保てなかったじゃないか。
あぁ、そうだ。
そうだった。
死にかけた俺は、助けられたんだ。
命を助けて貰った恩は絶対に忘れない。出来る限りのことはする。
その時、彼女にそう誓ったのを、何で俺は忘れていたんだろう。
この世界の外の出来事。
その場所で出会った奴ら。
人を【糧】扱いする、俺たちをこの状況まで追い込んだクズ。
全部、思い出した。
このバカっぽい声が、あの女神のものだということも。
それが見せた素晴らしい光景も。
「礼は返さないとな。立花」
僅かに混乱したような顔。
だがすぐに記憶が溢れたのか。
少し涙を浮かべるように、彼女は笑った。
熱気が伝わるほど、炎は近くになっていた。
崩れたマンションの瓦礫は、諸々の家財を巻き込んで燃え続けているらしい。
マンションが倒壊する激しい音と、遠巻きに見ている野次馬たちの悲鳴。
そんな中を炎へと向かって落下しながら、俺は目の前に浮かぶ、小石に根を下ろした新芽を見る。
因果応報。
やったことは、やり返される。
赤い観察者の休憩所で、俺がこいつにしたこと。
こいつは、それを返しに来たのだ。
世界という壁すら貫いて。
目の前の景色が歪む。
激しい破壊音が響き、一瞬視界が見えなくなる。
立花を決して離さないように抱き締めると、彼女もそれに応えた。
あの時、俺が投げ飛ばした新芽。
あの場所で死ぬはずだった命が、俺に返してくれること。
死ぬはずの俺たちは、別世界へと飛び出した。
新芽大活躍。世界の壁をぶち抜いて、恩を返しに来てくれました。
おかげで大慈たちはトレード場所での出来事を思い出しました。
さて、世界の壁を越えた大慈たちは、いったいどこに辿り着くのでしょうか?