転移する理由が見つからない 008
主人公が幼女に接触します。
…この表現だと事案に聞こえる。
転移する理由が見つからない 008
「あぐっ…うぅ…」
しゃがみこんで視線を合わせると、幼女擬きは泣くのを堪えて俺を見た。
涙と鼻水でグチャグチャの顔。バランスの悪い垂れ目は腫れて、怯えているようにも見える。
うーん。これ、本当にただの幼児なんじゃないか?
「こんにちは」
「…こん…ずずっ…は」
お、ちゃんと挨拶が出来るじゃないか。
あのジジイよりも遥かに人間がちゃんとしてるな。
改めて幼女擬き…幼児を見る。
ジジイの様な奇妙な服装ではなく、処分市などで安売りされていそうな、ディフォルメされたキャラがプリントされた服。
子供服特有の強い原色は、汚れとほつれ、虫食いだけとは思えない穴が開いている。
「お家がどこかわかるかな?」
「…」
フルフルと首を横に振る。
まるっきり迷子の反応だ。
不安そうな幼児に笑顔を返し、頑張ったね、と頭を撫でながら考える。
あのジジイ、本当の幼女を寄越しやがったな。
…待てよ? それって俺みたいに意味不明な状態にこの子もされた、という事だよな?
それ、迷子じゃなくて誘拐…だよな。
いや、それを言ったら俺も誘拐された、という事で、今になってその事実に気付いたが。
あのジジイだけでも少なくとも30人弱。
見たのが一つの世界だけだったから、かける事の世界の数だ。
幾つかある、という言い方からすると、少なくとも3つ以上はあるだろう。
…ジジイだけでさえ、最低で百人近くを誘拐していることになる。
そんな奴らが何人いるのかわからない。
下手をすると千人単位で誘拐されていることになる。
…これ、現実だとかなりの大事件になっているんじゃないか?
泣き止んだ幼児を立たせてやり、怪我などが無いかを確認する。
…袖から痣が見えた。
よく見ると、服に開いた穴も幾つかは焼けて開いた穴だ。
まるで、タバコを押し当てた様な…。
虐待。
そんな言葉が頭を過ぎる。
帰らせる事が出来るとしても、帰らせることがこの子のためにはならないかもしれない。
少なくともこの子に虐待してた奴は、最低でもあのガキ以上の苦しみを受けて死ぬべきだな。
子供を殴る奴なんぞ人間じゃ無い。
法律が許しても俺が認めない。
そんな奴に人権は無い。必要無い。
クソッ。目の前に出てくりゃ、全身の骨を砕いて、そのまま死ぬまで苦しませて這いまわらせてやるのに。
まぁ、そんなクズの事はともかく、今はこの子のことだな。
あのジジイの世界じゃ、この子はとてもではないが生きて行けないだろう。
他の奴らで、マトモな世界を扱っている奴がいればいいのだが。
…というか、他の奴らってどこにいるんだよ?
主人公の自称する「善良な小市民」っぽい姿でした。