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転移する理由が見つからない 077

マンションの火災による崩壊が進行しています。

避難経路はどこにあるのでしょうか。


転移する理由が見つからない 077





ゆっくりと起き上がり、彼女から手を離す。

戸惑う様に周囲を見渡し、自分の家にいる事を確認したのだろう。

そこに煙が入り込み、家が傾いているという異様な状況。

その中で最も異質な存在を真っ直ぐな目で彼女は見た。

勝手に家に上がりこんで自分を抱き締めていた見知らぬ男、つまり俺。


そのとき俺は、魅入っていた。

初めて会うはずの彼女。

その無表情とも言える顔。

クールな双眸が俺を見つめている事に、背筋がゾクゾクしてくる。


「ありがとう」


そんな事を考えていた俺に、それでも彼女は礼を言って頭を下げた。

非常事態で助けて貰った事実。

だがまだその最中にあることで、他のことは後回しにしたのだろう。

正しい判断だ。


「逃げよう」


何の説明もせず、再び玄関へと向かう。

さっきよりも傾いているならば、玄関ドアももっと開く。

そうすれば、廊下へと飛び移れる。


その予想は正解だった。

少なくとも彼女にはそれが出来るだろう。

足を引きずる俺に肩を貸し、玄関ドアを開けた彼女。

そこにあるはずの廊下を確認して絶句したように息を呑んだ。


廊下は、あるにはあった。

5メートルくらいは向こうに。

ドアの外を見ると、緩やかに湾曲した部屋が廊下から剥がれており、離れた家はまだ繋がっているように見える。

下を見ると同様に剥がれた家が続き、途中で火が吹き出していてよく見えなくなっている。

…こりゃあ、俺の家は全焼だな。

昔なら、玄関側の壁を走ってエレベーターホールまで行けた。

いや、そもそも廊下へと飛べただろう。

だが今では無理だ。

右脚も動かないしな。


それでも、彼女は飛べるだろう。

飛べば助かる確率は高くなる。

それがわからないはずも無い。

肩を借りていた右腕を引いたが、掴まれた手は離されずに引き戻された。


「ダメ」


彼女の目には迷いがなかった。

大丈夫、窓の方から逃げるから、先に逃げてくれ。

俺も後から行くよ。

そんな言葉が口から出そうになる。

口を開けかけた時、彼女の顔が近づいてきて、一瞬思考が止まった。

そのまま睨まれ、離れて行く顔。


あれ? 続きは? もうちょい近くまで来ない?


完全に死亡フラグなセリフが頭から飛んで、そこまで近づいたなら口を塞ぐまでしろよと叫びたい気持ちに囚われる。


「逃げる」


そう言って窓へと向かって向きを変える。

1人で逃げれば生き残れる可能性が高いのに、何でわざわざ危険を冒してまで。

そう思ったが、自分も同じようなことをしていたのだと気づく。


「…おう」


こんな女が世の中にはいるのか。

こんな状況にならなければ出会うこともなく、知ることもないはずの彼女の性格。

それを知り得た奇妙な縁を、不思議に思う。


自分が1人で助かるチャンスを蹴って、他人も一緒に助かるチャンスに賭けて。

絶望的な状況で、真っ直ぐに前を向く横顔を見ながら、心の底から敬意を抱く。

負けてられないな。

そう思いながら、俺も足を進めた。




立花は1人で逃げることを選ばず、大慈とともに助かる道を探すことにしたようです。

ですが、果たしてそんな道がまだ残されているのでしょうか…?

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