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転移する理由が見つからない 074

前回、ぱるみらという子供の遺体を見つけたことで、大慈は怒りと無力感に打ちのめされました。


転移する理由が見つからない 074





ぱるみらという子供の遺体を後にして、更に上の階へと進んだ結果、大分煙がマシになった。


そう思って一息つく。

怒りに任せて進んで来たが、流石に疲れた。

ベランダでへたり込み、貰ったペットボトルから水を飲んで部屋の中へと目を向ける。

最上階になるこの家の住人は出掛けているらしい。

後で水の補充をさせて貰おうと思っていたら、激しい音とともに、建物が揺れた。


地震の揺れとは違う、不規則な振動。

まるで重いものを乱雑に放り投げた様な、激しい音と合わせて想起されることは、


「最悪だ…」


俺にそう言わせるに充分な事実だった。


このマンションの正確な築年数は忘れたが、確か30年は超えている。

住人も減っており、共益費とかも集まらないのが問題になっていたのを思い出す。

つまり、マンションの老朽化に対する補修工事の金は集まらず、工事が出来ない。

そんな状況が何年も続いているから払ってくれと、マンションの会報に書かれていた。


「崩れるとか、ありえないだろう…」


明らかにどこかで崩落した。

そういう感じがして、軋みを上げ続けるマンションに絶望的な気分になる。

俺が何をしたっていうんだよ。


最上階まで来てわかったことは、1号室のベランダには屋上に出る手段が無いということだ。

普段閉鎖されている屋上から避難用ハシゴを使う。

そんな状況は想定されていないのだろう。

俺も屋上に上がったことは無いしな。


それでもエレベーターフロアから屋上に行く階段がある筈だ。

そう考えて、部屋に入ろうと思って立ち上がる。

窓を破ろうとして、なんとなく止まった。


何故かはわからない。

なんとなく、ここで部屋に入ったら後悔する様な気がした。

まるで誰かがニヤニヤと笑いながら、


「そんなに上手くいくと思ったか? 助かるなんて期待したか?」


と言いながら嘲り笑っている様な、そんな嫌な感じがした。


…ガスでも漏れているのか?

そう思って中を見るが、わからない。

だが、こういう時の直感は大事だ。

特に俺の場合、ゴール直前で振り出しに戻される様なことが当たり前に起こる。

その度に、何度人生を呪ったか。

人生を操っている奴がいるなら、本気で説教しないといけないと、何度も思った。

多分、今回もそれだ。

危険が無い様に見えるからこそ、絶対にろくな事にならない。

そう確信して、隣の家へと繋がる蹴破り壁を見る。

腰の痛みが足まで響いて、右脚が引きずられる。

それでも蹴破り壁を壊して潜り抜ける。

なんとなく、


「まだだな」


そんな風に感じて、更に進む。

幾つも部屋を越えて、エレベーターホールより奥へ。

自分の部屋よりも更に先に進む頃には右脚の感覚は無くなっていたが、それが逆に正しく進んでいると感じさせる。

幾つ目になるか曖昧になったが、植木で隠された蹴破り壁を見て確信する。


ここだ。この壁を壊して終わりだ。


根拠のない、妄想に近い思考になっているのを感じながら、針金で固定された植木を壁から剥がす。

無理矢理剥がしていくのは、かなりの負担になって息が上がる。

壁を壊して通れる様になった時、いつの間にか切ったらしい右手は爪も剥がれて血塗れになっていた。


それでも蹴破り壁を潜り抜け、小さな花が並ぶベランダへと入る。

背筋が寒くなる。

足裏から伝わる、僅かな傾き。

恐らくはこの部屋はマンションの中央に近い部屋だ。

そこの床が、僅かとはいえ歪み、傾いている。

マンションが丸ごと倒壊する危険性が高いのだと、本能が今すぐに逃げろと訴える。

窓の開いた部屋の中へと目を向ける。


玄関まではすぐだ。

崩れる前にさっさとこの家を出よう。

そう思いながら部屋に入ると、壁に貼られていたものがひらりと落ちた。





危機的状況における直感は、意外と馬鹿には出来ないようです。

大慈の場合は経験則もあり、「絶対にそんなにスムーズに逃げられるはずがない」という確信をもって行動をしています。

わざわざ中央付近の部屋まで移動をしたことで、いったい何が変わるというのか?

それは次回に判明するかもしれません。

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