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転移する理由が見つからない 070

大慈がトレード場所での邂逅を終え、現実世界へと戻されました。

彼がどんな環境で生活をしているのか、ちょっと覗いてみましょう。


転移する理由が見つからない 070





なんだか息苦しい思いをして、何度か寝返りをうっていたらしい。

いつの間にかベッドの端にいて、滑るようにして落ちた。


落ちる夢とかたまに見るけど、あれってなんであんなに心臓バクバクするんだろうな?


床に落ちて動けないまま、痛む腰を押さえてそんな思考に飛んだ。


なんだか楽しいようなむかつくような夢を見ていた気がするが、思い出せない。

仕事が終わって倒れるように寝たせいか、変な夢でも見ていたのだろう。


まぁ、思い出せない夢はどうでもいい。

それより腰からくる痛みに、またギックリ腰が再発したか? と不安になりながら、先程まで寝ていた筈のベッドにしがみついて身体を起こす。


去年引っ越したばかりの公営住宅は、築年数が経ちすぎて、単身世帯でも受け入れるようになった古いマンションだ。

あちこちにヒビが入り、住人は老人ばかり。

最寄駅までのバスも本数が少ないため不人気な環境で、住人に不満を抱えている者は多い。

俺からすれば、アパート暮らしの頃に比べて遥かに快適な環境だ。

壁が薄くても隙間があっても、天井から雨が滝となって流れむことはないのだ。

充分人間的な生活環境と言える。

だが、寝ぼけた頭でも、これは人間的な生活環境ではないとわかることもある。


「…煙い」


線香などの比ではない。

魚を焼いた時と比べても、明らかに違う。

部屋の中を見渡すと、うっすらと煙が漂っているのがわかるほど。


「火事か? …火事!?」


ぼんやりと座り込んでいる場合ではない。

慌てて立ち上がり、腰に手をやる。

よかった、ギックリ腰にはなっていない。

部屋の中を見渡すと、いつもどおりの部屋が煙でうっすらと染まっていた。

窓の外を見ると、明らかに外側で黒い煙が上がっている。

部屋の奥、台所を一応確認し、火元が自分ではないことを確認して元栓を閉める。

タオルを濡らして、財布と携帯をポケットにねじ込む。

昨日帰ってから着替えずに寝てしまったのが、かえって幸いした。

流石に着替えるだけの時間はないだろう。


保険契約や通帳印鑑など、貴重品を入れてあるリュックを掴み、背負う。

前のアパートの経験から、貴重品は直ぐに持ち出せるようにしてある。

今の家が7階になったから出来ることだ。

そうでなければ泥棒が怖くて、こんなことはしない。


玄関へと向かい、ドアノブに触れようとして止まる。

濡らしたタオルを手に巻いてから掴むと、ジュッ、と音がして熱が伝わってきた。

かなり危険な気がしながら、ゆっくりとドアノブを捻り開ける。


その瞬間、赤いものが見えた。

大型の獣が唸っているような、空気が渦を巻く音。

その音ごと飲み込もうとしている赤いものが、開けたドアの隙間から俺の手を掴もうと伸びて来て、慌ててドアを閉じる。


熱に当てられて熱くなった顔。

だが背筋はこの上なく冷えている。

廊下は完全に燃え上がっていた。






生活している環境を覗く予定でしたが、その環境が炎上中のようです。

どうやら大慈のトレード場所における記憶は夢と一緒にどこかに行ってしまったようです。

大慈の主観では、「仕事から帰って寝て起きたら火事だった」という状況。

さて、大慈は無事に脱出することが出来るのでしょうか?

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