表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/93

転移する理由が見つからない 068

崩壊していく世界の中で、大慈は何を見るのでしょうか。

転移する理由が見つからない 068





「どうした? 何を探している?」


それは酷く不快な声だった。

ねぶるような、なめくじが這うような声だ。

暗く重く、蔑みと嘲りが篭った声だ。


だが、俺の耳はそんなものに構っていなかった。

軋みをあげて砕けていく世界の、崩壊の音の中に、立花の息吹があるのでは無いかと聞き耳を立てていた。


「なぁ? ここにいた筈の女だろう? どこだろうなぁ?」


節制という言葉を知らないような、脂肪でたるんだ歪んだ顔が、更にいびつに歪む。

それは人間の形をしてはいたが、自立すら出来ないのが明らかな姿をしていた。


体脂肪率が百に近いな。


一瞬だけ、それに目を向けたが、すぐに逸らす。

そんなものを見ている暇は俺の目には無いからだ。

醜悪で無様で不快で目障りなものよりも、俺の目は見るべきものを探して周囲を巡る。

ヒビや穴へと消えていく【明かり】が立花ではないことを確かめながら、【明かり】を一つ一つ見つめて、それがどんな姿をしているのか目を凝らす。


まるで万華鏡のように、世界は姿を変えていく。

その度に崩れ、壊れ、ヒビと穴が増えていく。

繋がりが絶たれた先にある【明かり】が世界の欠片ごと穴に呑まれるのを見ながら、それでも探し続ける。

探すことを優先する俺の居場所も、確実に削れている。

ヒビが入り、足元に穴が開く。

意識から抜けていた間に完治していた右足はそれを躱したが、視線がその元を辿っていた。


「そうだ。俺を見ろよ。わかるだろう?」


脂肪がねっとりと囁く。

ヒビはそいつが指差したところから走り、穴となって世界を壊していた。


「…お前が、俺がいた世界の観察者か」


ぐふぐふ、と不快な音が漏れる。

笑ったらしい。

脂肪が揺れて、不快な臭いが漂ってくる。

何年風呂に入らなければ、ここまで酷い臭いになるんだと顔をしかめると、奴は更に笑った。


「そうだ。【敬え】【讚えよ】」


ニヤニヤとした不快な笑いが消える。

ブルブルと震え、顔中を顰めて俺を睨みつける。


何をありえないことを言ってんだ? カラカナ様でもない脂肪を崇拝する理由は無い。

いや、カラカナ様も崇拝はしてないな。

尊敬はしてるが。

そんなことより立花だ。


「お前が立花を消したのか? どこにいる」


無事なら許す。脂肪が無くなるまで追いかけ回すくらいで。

擦り傷でも負っていたら、無くなるまで千切る。

そういう思いを込めて睨みつける。


「お前………そう、お前だ。お前は、なぜ俺を崇めない。【崇めよ】」

「断る。理由が無い。神でもない、ただ見てるだけの奴が。アホか」


即答したのが気にくわないのか、何かを叩くように腕を振り下ろす。

世界が揺れて、またあちこちで砕けていく。


「…観察者が見ているだけの存在だと、本当に思っているのか?」

「いいや。だが俺の不幸を見て笑ってる奴なら、ぶちのめす準備は出来てる」


観察者が俺たちに、あるいは観察する世界に干渉していない筈が無いのは、最初からわかっていた。

蠅は収穫扱いをしていた。

そもそも干渉しないのなら、トレードなんてやってないだろう。

俺がここにいること自体、それが嘘だという証明になっている。

これほどわかりやすい嘘も無いと思うんだがな。


…みかりんやあるむは単純に信じそうだが。

いつか詐欺にあうんじゃないか?


「そうだ。お前らが魂を委ねるほどの願いや捧げられる祈り。そして、それを産むお前らの全てが、俺の【糧】となる」


そう言えば、蠅がガーデニングみたいに例えていたか。

その時に、【糧】にしている観察者がいるとか聞いたっけ。

…それが自分の話だとは考えなかったが、あいつ知ってたんじゃないか?


「お前らは、【糧】だ。俺を満足させるためだけに生き、食われて死ぬだけのものだ」





ついに【大慈のいた世界の観察者】が姿を現しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ