転移する理由が見つからない 065
スライムと観察者たちが姿を消し、大慈たちはその場から移動しています。
転移する理由が見つからない 065
カラカナたちの方へと歩く俺に倣うように、2人は俺についてくる。
特に目的地が無いこともあるが、何より穴の近くにいるのは不安があるのだろう。
たまに変な音が聞こえて、周囲の空間にヒビが入ったりしているし。
万一穴からスライムが飛び出てきたら、洒落にならないしな。
今までどんな観察者に会ったのかなど、雑談をしながら俺は自分の変化について考えていた。
一番大きく変わったのは、視界。
今までは遠くになりはしたものの、【薄灰色の霧】も【ガラスと明かり】も見えていた。
他のトレード対象を見るたびに遠くになっていたのか? という気もするが、確証は無い。
休憩所では見えなかったし、さっきスライムを相手にしている時は【明かり】しか意識していなかった。
それしか見えなかったのだから、意識しようがない。
変わらず【明かり】はトレード対象や観察者を示している。
それは変わらないのだが、【霧】と【ガラス】は無くなっている。
【明かり】も遠くなら見えて、しかも観察者とトレード対象で色や見え方が違う。
姿が見えるに従って、明かりは消えていく。
近づいてくるカラカナとみかりんを見て、この変化に気づいた。
もしかしたら、この場所からジジイや蠅がいなくなった影響なのかもしれない。
ならば、あるむや立花にも変化があるのか? と思ったのだが、そんな様子は無い。
まぁ、俺にとっては視界が開けるわけだから、それは良い変化だと言える。
不気味にも感じるのは身体の方だ。
立花がスライムの粘液を浴びて駆け付けた時。
確実に俺は粘液を浴びた。少なくとも服などは大分溶かされていたはずだ。
不可解な事に、既になんの痕跡も無い。
立花の様にジジイや蠅が治した訳では無い。
自然治癒にしては早すぎるし、シャツが溶けたのが無かったことのようになっているのは訳がわからん。
立花が無事だったのを見て、「あぁ、なんともなかったんだ」と安堵したのは事実だが、それがこんな風に影響を及ぼすのだろうか?
なんだか、この場所に俺という存在が馴染んでいっている様な気がした。
「よかった、無事だったんですね」
「探したヨー……お邪魔だったカナー?」
みかりんとカラカナが声をかけてくる。
みかりんは前からその格好だったが、何故かカラカナも同じ制服を着ていた。
「似合うカナー?」と言われたが、明らかにサイズが合ってないため、巨悪の存在感がハンパ無い。
「…」
「…あんたの知り合いって女ばっかか?」
誰? という感じで見てくる立花の代弁をする様に、あるむが俺に槍を向けて問う。
「…なんでお前槍持ってんだ?」
「餞別に貰った。2人ともスゲー美人だよな。同じ学校にいたっけ…先輩なのか? 何食えばそんなに育つんだ?」
変態金髪の考えることはよくわからない。
まぁ、変態だしな。
喜んで貰う奴も変だが。
そういえば改造されているから別物に見えるけど、あるむも同じ制服だったか。
実際にこの格好で通学したら、3人とも風紀委員とかに目をつけられそうだ。
「本当、違和感無く似合うよな」
「似合わなくて良いんですよっ!」
男で社会人のはずなのに、みかりんの超ミニスカート姿に違和感が感じられず、呆れ混じりに呟く。
小声の呟きにもツッコミを返すみかりんは、心配顔をしていたが元気な様だ。
2人がスライムに食われていなかった事は幸いだったが、状況はあまり良くない。
最早この場所は安全では無くなってきているからな。
さっさと元の世界の観察者を見つけて、立花たちを返して貰わないといけない。
俺は…帰った方が良いんだろうな。
観察者になる、なんて事を考えたりもしたが、結局そんな事をしている余裕はなさそうだ。
そうなったとしても、この場所はもう壊れ始めていて、下手をしたらそのまま死にそうだし。
なんだか苦労させられただけで、結局なんにも得ていない様な気がする。
ため息を漏らす俺を見る、立花と目が会う。
…まぁ、いいか。それだけでも充分意味はあったよ。
現在のパーティ編成
大慈、立花、あるむ、みかりん、カラカナ。
なるほど、大慈を中心としたハーレムパーティですね。