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転移する理由が見つからない 064

斜め上の結果が出たため、大慈に悲劇が襲い掛かります。

転移する理由が見つからない 064





貫手、という攻撃がある。

流派などにもよって多少指などの形は違うが、実戦で使う奴はかなり危険だ。

簡単に言えば、【きをつけ】の姿勢の手の形を、そのまま相手に向ける攻撃と言えばわかりやすいだろうか。


山突き、という攻撃がある。

空手で用いられる技で、両手の拳を相手の頭部と腹部に同時に打ち込むものだ。

試合によっては禁じ手だったり、反則扱いになるらしい。


この2つを合わせて、かつ突き指したりしない様に配慮すると、こうなるようだ。


手の形は四本貫手。

軽く掌を窪ませて、力で突くのではなく速度で刺すイメージ。

狙うのは身体の弱所。いわゆる急所と呼ばれる箇所で、硬気功でも使わないと受けるのには向かない場所。

具体的には、喉笛と鳩尾。


右手は喉下の窪みに、鎖骨の上を掌で撫でる様に。

左手は胸骨の下の窪みへ、胸骨の内側を人さし指がなぞり親指に触れる様に。


僅かにカーブを描いて、二箇所へと二方向から迫るそれを防ぐことは難しい。

後ろに飛んで回避すれば良いのだが、先手を打たれている場合は間に合わない。

後ろが壁だったりすると、もう本当にどうしようもない。


その容赦の無い一撃は、吸い込まれる様に刺さった。


はっきり言っておくが、この二箇所は指先で軽く押されるだけでも酷いことになる。

軽く叩かれるだけでも、死ぬほどの目を見る場所だ。


そんなところに指先の関節が一つ分以上も刺さったら、どうなるか。


死んだほうがましな程、死ぬほどの痛苦しさにのたうち回る。


喰らった瞬間に自己防衛本能が足を振るい、立花を蹴り飛ばさなければ穴が開いていただろう。


「彼女の傷の治療は翁から。服の修復は私からのお礼です。仲の良いお2人には名残惜しいのですが、私は後処理があるので失礼致しますよ」


そんなことを言い残して蠅が消えたことに気づくのはもう少し後になってからだ。



「…ごめん」


一応、心配をした結果の行動だったことは理解して貰えた様で、立花は小さく呟いて頭を下げた。

ダメージが抜けきらず、ツッコミを入れる気力がない。

照れ隠しで山突き貫手は死ぬからやめてほしい。

いや、照れ隠しで無くてもだな。


…何故か立花は若干距離を取り、背中を見せようとしない。


いや、俺も2回は耐えられる自信は無いからな?


今度は断ってから見ようと思いながら立ち上がる。

ジジイの顔面を潰せなかったのは残念だが、最後に良い事をして消えた。

もう会うことも無いだろうし、勘弁してやるか。


喉と腹をさすると、軽く刺さった程度で済んだのか、少し血が出ているが裂けてはいない。

俺とは違い、空間そのものが引き裂かれた様な穴を見る。


どういうものなのかはわからないが、蠅がスライムを倒すためにやったことだ。

触れない方が良いだろう。


いつの間にか、ハルと変態金髪の姿もない。

餌になったんだっけ? と疑問に思ったが、違うらしい。


「もうトレードも終わりだから帰るってさ。私らはどうすりゃいいんだろな?」


こちらへとやってきたあるむが、疲れた顔でそんなことを言う。

まぁ、普通の生活をしてたらスライムと戦うとか無いからな。

俺も槍は投げた事は1回しかないし。

蹴り落とすとか、俺の弟ながら絶対どこかオカシイよな、あいつ。


「なぁ…これ、なんなんだ?」


あるむが穴を指差して問うが、知らん。

触らない方が良さそうな事を伝えて、この後どうするのかを考える。

ふと、視界に入る【明かり】が減っている事に気づく。

スライムは見えないから、元の世界に帰るか転移をしているのだろう。

そのうちの幾つかは、こちらへと向かっている様で、最も近くにいるのは見知った2人だ。あの2人が転移もせず、帰りもせずにいるのを不思議に思いながら、手を振った。


「結局、転移をせずに帰るってことになるのか? なんだか勿体ねーなぁ」


あるむ1人が愚痴をこぼすが、生きて帰れるならそれで満足するべきだと思う。

それでも俺は、俺の世界の観察者って奴にはちょっと言いたいことがあるけどな。

あの状況に戻るなら、観察者ってものになる選択肢も本気で考えたいし。


あ、でもそうなると立花とはお別れになるのか?

その前にもう1回見たいな、とか思っていたら蹴りが飛んで来た。

なんでバレたんだろう?


「…あんた、わかりやすいなー」


蹴りを放ち距離をとる立花と俺を見ながら、あるむが呟いた。

どっちに言ったんだ、それ?






記載されている山突き貫手ですが、冗談でもやらないようお願いいたします。


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