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転移する理由が見つからない 063

大慈が我を忘れる勢いで、目標に向かって突進していきます。

転移する理由が見つからない 063





噴出した液体が立花を飲み込み、あるむの悲鳴が響いた。

【足場】の維持を忘れたためか、スライムが【足場】をも飲み込んだのか。


スライムが一瞬、ぶるりと震えた。


それはまるで俺を嘲笑うかのように感じ、俺は更に加速して拳を握る。


素手で殴ることが出来ないことは、百も承知だった。

それでも一発食らわせないと気が済まないと感じながら、俺の足は迷いなく突き進む。



立花へと。



何故かは分からない。

目の前で見知った相手が死ぬのが嫌だっただけかもしれない。

自分の失策で死なれるのは気分が悪いと感じたのかもしれない。

だが、その時の俺は何故か立花をスライムの粘液から引き剥がすことが、当然のことのように思い。

粘液に突っ込むようにして、立花に飛びついていた。


まるで水に落ちたような感触と、焼けるような痛みを感じながら、それでもしっかりと抱きしめて駆ける。

立花をかばうようにして反転して倒れこみ、視界が赤黒く染まっているのに気づいた。


既に手遅れで、致命的に溶けてしまったのか?


そんな思いと背筋が寒くなる感覚に、吐き気さえ覚えて顔を上げると。


「助けていただいたので、後は私の方で処理させていただきます」



赤黒い何かの淵に止まっていた蠅が、嬉しそうな声で言った。

どうやら、ジジイがスライムから離れたため蠅が対処をしていたらしい。

赤黒いものは、まるで空間に開いた穴のようで、スライムが居た場所を丸ごと飲み込んでいた。


いや、そんなことはどうでもいいんだ。


抱きしめていた立花の、焼け爛れた服の感触。

それが彼女の状態を伝えてくるようで、手が震えた。

なんの反応も返さないことが、答えなのだと。


砕けそうなほどに歯を食いしばり、溢れ出てくる言いようのない感情を飲み込む。

まだ間に合うかもしれない。

まるで自分に言い聞かせるように、蘇生するための手順を思い出しながら、手を伸ばす。

何故か立花の顔を見ることが、酷く残酷なことのように感じて視界を閉じる。


心臓が動いていると信じて、確かめる。


勝手に震える指先に、肌が触れる。

焼け爛れて引き攣った皮膚の、あの感触が伝わらないことを、絶望的な気分で願いながら。


指先から伝わる感覚は、今までに触れたことが無いほどに滑らかだった。

精緻な芸術品に触れた様な感動を覚えながら、思う。


吸いつくような、なめらかで綺麗な肌だ。


「………あれ?」


低い体脂肪率と、引き締まった筋肉。

柔らかくささやかなふくらみの下にある、生命の脈動を感じさせる筋肉がゆっくりと動いている。

更に奥からは、早鐘のような、爆発するのではないかと思うような、激しい鼓動。


「………あれ?」


不思議に思いながら、視線を感じて目を向ける。


珍しく目を丸くして、真っ赤な顔で睨みつけてくる立花と目があった。

あれ?


立花が繰り出した一撃は、本気で容赦が無かった。


想定していた「最悪の事態」の「斜め上」が大慈の身に降りかかったようです。

その結果、大慈に悲劇が訪れるようですが、それは次回のお話。


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