転移する理由が見つからない 006
6話目です。
異世界転移テンプレの女神や美女や幼女では無いため、主人公が不満を訴えています。
転移する理由が見つからない 006
「敬意も常識も無いのはお前だろ、ジジイ。チェンジだチェンジ」
ジジイの態度や常識の無さには腹がたつが、俺も大人だからな。
今すぐ美女とか女神に変わるなら殴る回数は減らしてやろう。
「なんじゃと! 言うに事欠いてこの戯けめが、わしが礼儀知らずだと抜かすか!」
「礼儀を知ってる奴は初対面でクズ呼ばわりしねえだろが? いいからとっとと幼女なりなんなり連れてこいや!」
全く、これだからジジイはダメだ。
自分が正しいと思い込んで、人の話を理解しない。老害って奴だな。
「よ…お前さん、わしの観察する世界に行く気は無い、ということじゃな?」
「当たり前だ! 誰があんな最悪なところに行くか!」
テーマが【苦しむ】みたいな世界にしか思えない。あんな世界に行く理由は俺には無い。
あれ? なんかジジイが凹んでる。
「最悪…そうか。わかった。他の者に変わるから、暫し待っとれ…」
お。ようやく役立たずだと理解したか、ジジイ。
しかし項垂れてるジジイはみすぼらしいなあ。
実に無様だ。笑える。
ジジイの姿に笑いをこらえていると、その姿が消えた。
笑われることに耐えられなかったのだろうか。
俺みたいに度量が無いみたいなジジイだったからな。仕方ないかもしれない。
さて、次の観察者とやらが少しはまともな奴だと良い…あ!
「しまった! 逃げられた! 生かさず殺さずにこき使おうと思ってたのに!」
クソッ。ジジイの面を見た瞬間に殴るか、二度と見ないで済むように反射的に行動してしまったからな。
あのジジイと長く関わるよりも、より良い奴を探そうと、無意識に理性が働いたんだろう。
有り余る俺の理性が憎いぜ。
ジジイをあのガキ見たいな面にしてやりたかったんだが、仕方ないか。
あのジジイは、俺の理性に、ひいては俺に感謝するべきだな。
もしも今度会うときがあれば、感謝を込めて貢物くらい持って来るだろう。
あ、でもあのジジイ常識無いからな。
…まあ、何もなかったら殴ろう。追加で。
しかし、いつまで待てば良いんだ?
あのジジイの時間の感覚では1日とかじゃないだろうな?
することが無いため、とりあえず歩く。
足場が無いのだが、踏んだ、と思うと足場になるようだ。
理屈がわからないが、手を着いた、と思っても壁に触れているようになる。
歩いて1回転したり、手を着いたところを軸に逆立ちしてみたり、どんな動きが出来るのか確かめる。
重力自体は方向が変わらないようで、足場が無いと思えば落下して、あると思えば着地する。
地面は無いので着地というのも変だが。
どれくらいそうやって身体を動かしていたのか。
どこかから聞こえて来る音に気がつくまで、俺は現実には不可能な動きを楽しんでいた。
なにかの音が、やがて声のように思えてきた頃、遠くの霧の一部に暗さが弱いところがあるのに気づいた。
声もそちらから聞こえて来るらしい。
「…行ってみるか。どうせ暇だしな」
美少女とか女神とか幼女でもいれば、少しはそれらしくなるだろうと思いながら、俺はそちらへと歩き出した。
とりあえず最初の観察者との邂逅が終了しました。
次回はヒロインが登場するかもしれません。