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転移する理由が見つからない 059

スライムに接敵します。

はたしてどうやって対処するのでしょう。


転移する理由が見つからない 059





苔色の球形スライム。

その表面のほとんどは【庭園】で取り込んだのであろう芝生で占められていたが、1ヶ所だけ違うものが張り付いていた。


蠅だ。


どうやら潰れてはいないらしい。

だが回転に合わせて高速でグルグルと移動いるため、時間の問題に見える。

別に困らないか。蠅だし。


「おぉっ! これはーいっいーとこっろにっ!」


近くまで寄って来て気付いたが、あのスライムは回転だけでなく跳ねてもいるようだ。

蠅がこちらに気づいて声を上げるが、動きにつられて伸びたり跳ねたりしている。

蠅が何をしているのか判断出来ず、食われているならそれで良いか、と考える。

どうやら蠅が張り付いているせいで、スライムは思うような移動が出来ていないらしい。

通勤快速の電車のように、周囲の空気を震わせながら通り過ぎていく。


しばらくそのまま転がりながら速度を落とし、停止する。


「素晴らしいタイミングです。彼がこいつに囚われてしまったのですよ。よろしければ、助ける手伝いをぉぉぉぉー?」


あ、また転がった。

どういう認識方法かわからないが、相変わらず奴は獲物の居場所へと向かって転がっていく。


「だから私は退去すべきだと言ったのだ!」


ハルを背負いながら、変態金髪が喚く。

どうやら獲物の判断基準では俺たちよりも観察者の方が優先されるようだ。

ちょっとどうなるのか見てみたかったのだが、飛びかかったスライムに槍が当たり、少し軌道がズレて通り過ぎていく。

縦回転で飛んだ槍はスライムに弾かれ、やがて回転を緩めて中空に浮かんだまま止まる。

あるむはちゃんと槍投げをしたことがないのだろう。

犬に木の棒を取りに行かせるような投げ方をしていた。


スライムに取り込まれた【明かり】があったから、表面に少なからず人が張り付いているのではないかと思っていたのだが。とっくに内側に吸収されたか。

もしかすると蠅が直前で消すとか、何かしていたのかもしれない。


「おしっ! 当たった! 次出せっ!」


あるむには【明かり】が見えていなかったのだろう。

中に人がいるかもしれないなどとは一切考えていないようで、次を要求している。

だが変態金髪はハルを背負ったまま、腰が抜けたのかへたり込んでしまい、動かない。

舌打ちしながらそちらへと向かって行くのを見て、ため息を漏らす。


一度助けてしまったら、ちゃんと助けないと気分が悪くなるだろうが。


そんな悪態を吐きたくなるが、仕方ない。

どちらにしてもスライムは倒さなければ、落ち着いて観察者探しもできない。


どうせやるのなら、恩を売っておくのも良いだろう。


再び転がってくるスライムを、【足場】を作って軌道を逸らす。

すれ違い様に与えた一撃は表面を僅かにえぐり、芝生が舞う。

どうやら剥がれた芝生が動きだすことはないようだ。

ゲームだと、スライムによっては分裂して個別に動く奴もいたので不安がある。

もっと大きく千切れると動くかもしれない。

同じように立花も長剣を使って切り付けているようだが、効果は薄そうだ。


俺とは違って蠅に当たらないようにして切り付けているようだ。

動体視力とか反応速度とか、どうやってあそこまで鍛えたんだろう。気になる。


再度転がってくるスライムをあしらいながら、その様子を確認する。

スライムは休憩所にいた時よりも応用力が低くなっているようだ。

環境が変わった上に蠅が邪魔しているせいか、猪突猛進な動きに終始している。

転がる速度はそれなりに速いが、【足場】を飛んだ先や空中に作ることは出来ていない。たまにイレギュラーに跳ねることがあるのは、芝生の下にある取り込んだ木や石が【足場】に当たるためだ。

何度か叩いた感触が違ったのでわかった。


【足場】を使える今の状況では、軌道を変えるのは容易い。

とはいえ、表面を削る程度ではダメージが無いようで、全く怯まない。


更に数回、同じことを繰り返すが、総質量があれだけある。

叩いたり切ったりして削れる分など微々たるものだ。


爆弾でも突っ込めれば手っ取り早いのだが、変態金髪は近接武器くらいしか出せないらしい。

観察者って本当に使えないやつばっかりだ、と考えていたら再び回転が止まり蠅が見えた。


うまく蠅を叩けたら爆発しないかな?


「何か変なことを考えていらっしゃるようですが、どのようにしてアレを始末するのか、算段はおありで?」


…なんでこの蠅は気配も無く、人の背後に湧いて出るんだろうな。

反射的にフルスイングしてしまったが、空振りしたじゃないか。

なんでこの距離で避けられるんだよ。


「ところで、倒す前に彼を救う算段もしていただけると助かるのですが?」


ん? そういえば、誰かを助けてくれとか言ってたか。なんか囚われてるとか…。

見えないのなら気にしなくても良いと割り切っていたが。

トレード対象らしき奴が内部にいたとして、取り出しようも無いし。


蠅が離れたことで動きやすくなったのか、真っ直ぐに変態金髪を追いかけるスライムを確認する。

ハルを背負って逃げ惑う変態金髪が面白くて目を奪われそうになるが、敵を観察することは大事だ。

あるむや立花が作る【足場】で弾んで吹っ飛んだり、軌道を変えられて転がったりして、仕切りなおすようにいったん止まる。

基本的な行動は変わらないし、見た目にも特に変わったところは無いような。


何度目かの停止で、さっきまで蠅が止まっていたところがこちらを向いた。

そこに、粘液のようなスライムの体に右半身が飲み込まれている姿が見えた。


「見捨てて良いな」

「いや、見捨てないでいただきたい」


それは俺がこの場所で最初に出会ったジジイの無様な姿だった。




観察者はトレード対象に許可を得ないと自分の観察世界へ転移させることができません。

そのため、蠅は間に合うようならば転移者をトレード場所内部で移動させています。

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