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転移する理由が見つからない 055

観察者ぺネエルの観察テーマは【勇者】。

それがどんな世界なのか、その一例を見てみましょう。

転移する理由が見つからない 055





薄暗い石造りの部屋。

照らし出すのは床に描かれた魔法陣。

部屋の入り口にはローブ姿の魔術師と、鎧姿の騎士。そして姫らしいドレス姿の娘。

魔法陣の上では学生服の少年が目を丸くしている。


まさにありふれた勇者召喚の図だ。


「勇者召喚の儀、成功にございます」

「勇者さま、突然の無礼をお許しください」


まぁ、ここら辺はよくある話だ。

騎士たちが勇者に警戒してたり。

魔術師がこの国の歴史や状況を語ったり。

その辺の話は興味が無いので流す。

あるむが興味津々で聞いていたのは分かるが、なんでハルが一緒になって聞いているんだ。


まぁ、その辺の事情説明的なものがおわり、部屋に案内された勇者。

豪華なソファに座り、高そうな果物を食べながら話の続きを聞かされる。


ざっくりまとめると、

先代勇者が死んだので代わりに召喚。

危険な目に合わせる気は無い。

最大限援助するからずっとここにいてほしい。

というのが、姫たちの要件だった。


「…えっと、魔王とか退治に」

「それは騎士たちが致します。勇者さまは、この部屋でごゆるりとお過ごしください」


はっきり言おう。

異世界召喚されて勇者に認定されたけど、部屋から出るなと釘を刺されている。

騎士が勇者の背後に立っているのも、最悪の場合は力でねじ伏せるためだ。


魔術師たちは用が済んだとばかりに、早々に去っていった。

この世界では魔法陣が魔術の全てらしく、火や氷を撃ち出すとか、隕石落とすとかは出来ないそうだ。

それを聞いた勇者とあむるの凹み方が酷かったが、それは放置。


姫は勇者のためを思ってか、いろいろ説明していた。

魔法陣についてもだ。

効果が特化する分、発動する条件も厳しいらしい。

勇者は魔法陣の発動条件を無視して、本来の効果の十倍近い効果を発揮させるため、途切れる度に召喚され、もてなされてきたそうだ。

まぁ、これもある種のチートか。


この部屋を中心にした魔法陣があるようだが、見えない。

国内全域に影響させるために、かなり大きなサイズらしい。

その効果はバフだ。

人間の能力を増幅する、という単純なもの。

だが勇者効果は凄まじいものらしく、滞在時間に応じて効果も上がるそうだ。

先代が死ぬ直前では、街の子供がドラゴンを追い回して遊んでいたとか。

恐ろしい世界である。


ちなみに勇者自身にはなんの効果も無いので、逃げようとしても一瞬で捕まる。

退屈を潰そうにも、文字がわからないためメイドが本を読んで聞かせていたり。

宮廷音楽家たちに演奏をさせたり。

ストレス緩和という名目で女性があてがわれたり。

そんな日々が、この部屋の中で流れていく。


そして、転移直後は普通の少年だったが、一ヶ月後には学生服が入らない程に恰幅が良くなっていた。


「勇者と聞いたが国選ニートだった」


そんなことを呟きながら、勇者は格子のはまった窓から、街並みを見下ろす。


冒険を夢見ていた輝く瞳は、淀んで濁ったものになっていた。




前線に出て戦うだけが勇者ではないのです。

国家の安全を一身に背負うという、その重責を担うことが勇者なのです。

その結果、部屋から出ることなく先代の勇者は死亡しました。

飽食による高血糖と運動不足を長年重ね、ちょっと激しい運動をした拍子に心不全を起こして死亡しましたが、「国家安寧のために全力を捧げた勇者」として国葬されました。


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