転移する理由が見つからない 054
金髪美形ヘテロクロミアの観察者は、トレード対象に対して憤り覚えているようです。
転移する理由が見つからない 054
ハルと変態金髪は知り合いらしく、顔合わせでモメることはなかった。
「今回の連中は、何故こうも異端者ばかりなのだ!」
まぁ、向こうにはモメる理由がありそうだが、それはどうでも良い。
あの顔を殴る理由をあっちがくれるのなら、何も問題は無いからな。
「お前らも勇者候補者か? へぇ…なるほどね」
あるむと名乗った彼女は俺よりも大分背が低く、胸元から見上げてくるのを見て頭を撫でたくなる。
六花も同じようで、指先がピクピクしている。
「勇者?」
また妙な単語が出てきたものだ。
いや、異世界転移といえば筆頭とも言えるか。
むしろ今まで耳にしなかった事が不思議なくらいだ。
あ、一応自称勇者がいたか? 砂漠でぼっちして泣いてた奴。
なんて名前だっけか? いや、どうでも良いんだが。
「勇者とか、なりたいか?」
ゲームとかだと、箪笥とか宝箱とかあさる代わりに魔物退治している感じなんで、盗賊と変わらない印象なんだが。
六花はイメージが出来ないようで、あるむが続きを話すのを待っている。
うん、うずうずしてるな。
しかし観察者ってアレだからな。
ゲームや漫画なんかで見る勇者だと言われたとしても、微妙に不安が残る。
「なんだお前ら興味なしか。なら私が勇者になるってことでいいな。よし、ペネ公! 私を勇者にしろ!」
「断る! そんなことは容認出来ない!」
ペネエルというのが変態金髪の名前らしい。
呼ばれる度に、名前はちゃんと呼びたまえ、とか騒いで小煩い。
アダ名とか愛称とかあるだろう。
むしろ親しく思われていると考えれば良いだろうに、堅苦しい奴だ。
しかし、なんでこいつ転移させるのを嫌がってるんだ?
ハルでさえ不思議そうに首を傾げているぞ。
「まぁまぁ、落ち着け。転移させられないなら、ちゃんと理由を説明してやれよ。そうすれば納得するかもしれないだろう?」
「あ、僕も知りたい!」
便乗したハルに文句を遮られて舌打ちを漏らす。
提案した俺に文句を言いたいのか、あるむがこちらを睨んでくる。
しかし俺からすれば小さな女の子だ。
じゃれつかれている気分にしかならない。
「ゼッテー納得しねーからな」
などと言いながら蹴りを入れて来たが、軽くだった。
本人としても理由は聞いておきたかったのだろう。
「…いいだろう。そこまで言うなら、私の観察する世界を閲覧させてやろう。ありがたく思うが良い」
いや、そんなことは頼んで無いし、偉そうでムカつくなお前。
やっぱり殴っても良いかな? 良いよな?
「ペネエルの世界って、選べる仕事が【勇者】しか無いけど、面白かったよ」
「そうであろう。さぁ、貴様らにも見せてやろう」
…思ったんだが、観察者ってコレクターみたいなもんで、自分のテーマをひけらかして褒められたい、ってだけなんじゃないか?
あるむという少女は基本的に怖いもの知らずです。
そのため、平気で大慈に蹴りを入れていますし、観察者にも噛みついています。
観察者ぺネエルはその態度に辟易していますが、放置するとあるむがトレード場所維持のために消費(消滅)されるため相手をし続けていました。
もちろん、そんなことを彼女は全く知りませんが。