転移する理由が見つからない 053
元々住んでいた世界の観察者を探すため、トレード対象に接触します。
転移する理由が見つからない 053
方針は決まったが、結局取れる対策が「逃げる」だけ。
あまり事態が好転したとは言えないが、悪化はしていないから良しとしよう。
「あ、誰かいるね」
結局、ハルが対応するはずのトレード対象は見つからなかったため、確認出来た【明かり】へと向かうことにした。
2人の視界がどうなっているのかはわからないが、俺が見ている【ガラスと明かり】のように明確に目印が見える視界ではないようだ。
ハルも目視で居場所を確認しているわけではなく、対象がいる方向に軽く引っ張られる感覚がある程度で、距離まではわからないらしい。
視認出来る明かりに2つ重なるようにしているものがあったため、それを目指して歩くこと数時間。
ようやく見えたそいつらは、なぜか睨み合っていた。
片方は明らかに観察者らしい、長い金髪が腰まで伸びた美形の青年姿。
右目が緑で左目が赤い。
全体的に真っ白い、法衣のようなローブのような、どっちつかずの服を纏っている。
金で刺繍がされているのか、動くたびにあちこちがチカチカと煌めくのが鬱陶しい。
上背があるのに細身で、目が鋭く釣りあがっている、神経質そうな奴だ。
ジジイの格好に似ている気がする上に必要以上に美形なため、なんとなく気にくわない。
小柄なほうはトレード対象だろう。
ブレザー系の黒い制服は袖や襟の縁に赤いラインが入っていて、白いワイシャツからは日に焼けた肌が覗いている。
スカート丈は前屈したら全開しそうなほどに短い。
化粧によって負けん気の強そうな作りに寄せているが、根本的に童顔だ。
髪はくせのない猫毛のようだが、くすんだ灰色に染めているためにツヤがない。
もみあげなど伸びた箇所をピンクのワイヤーでまとめている。
どこだかのお嬢様女子高の制服だったと思う。
みかりんを着せ替えながら、カラカナがそんな説明をしていた。
みかりんが着ていたのと比べて大分デザインが改造されている。
へそが見えるようにシャツが短いし、鎖骨あたりも見えるようにボタン自体が存在しない。
隙間から肌が露出しているというのに、カラカナと違って悪の気配は微塵もないな。
観察者だし、そこの金髪が衣装替えをしたのかもしれない。
それならそれで、この金髪美形の趣味が疑われる気もするが、なにしろヘテロクロミアの金髪美形だ。
発育が女子中学生程度の相手を自分好みに着せ替えさせる変態。
そんな欠点がないと、帳尻が合わない。
カラカナの例もあるし、こいつの性癖と考えて良いな。うん、そう決めた。
見た目は美形だが神経質で痛い趣味の観察者と、露出度が高い制服を着せられた女子中学生。
そんな第一印象の二人は、平行線の言い合いをしながら睨み合っていた。
主張している内容は、
「絶対に転移はさせない!」
「転移してやるって言ってんだろ!」
こんな感じでお互い一歩も譲らない。
なんでこいつら、立場が逆転してるんだ?
観察者に多様性があることはこれまでのパターンでご存知とは思います。
ですが、トレード対象もそれに負けず劣らず曲者ぞろいであることもご存知ですよね。
さて、何故か主張が逆転している2人。
なぜこんなことになっているのかは、次回明らかになるかも。