転移する理由が見つからない 052
現状で認識できる危険性について話をするようです。
転移する理由が見つからない 052
吸収されて維持に使われる。
そんなこと以外にトレード対象者が消えるということが何を意味するのか、全くイメージ出来なかった。
だが、ハルが慌てる程度には問題なのだろう、と考えて聞いてみる。
またクソッタレな目に合うのはゴメンだからな。
「維持が出来ないってことか?」
空間というか世界というか、それが保てない状況が理解出来ない。
スライムに襲われた休憩所のように荒れ果てるのか? だとしても、この場所って何にも無いから変わらない気がするが。
「この場所が壊れたらトレードは終わりだとは聞いていたけど、消えちゃってるんだよ?」
「それの何がおかしいんだ? もともと転移しなけりゃ消えて無くなるはずなんだろう?」
「消滅じゃない」
ぽつりと呟いた六花の言葉に、ハルが大きく頷く。
あぁ、消えるとは言っても意味が違うのか。
「じゃあ、誰かに取られてるんだろ?」
驚きにクチバシを大きく開けたハルがこちらを見る。
それ開くのか。しかも中も細かく作りこんであるのな。
「そんなの…誰が?」
「スライムとか?」
「?」
あれ? もしかしてこいつら、俺を助けはしたけど、スライムには会って無いのか?
そういえば、あのスライムってあの後どうなったんだろう。
俺は怪我をした経緯を伝え、スライムがどこかにいる可能性を示唆する。
「それ…よく生きてたね」
「…」
まぁ、自分でもそう思う。
だがこの場所なら、赤い奴以外にも観察者がいる。
対処するのは難しくは無いだろう。
蠅とかスライムくらいならそのまま食いそうだし。
「その時いた奴は帰るって言って消えたからアテにならんし。ハル、お前戦えるか?」
外見のせいか、子供っぽいしゃべりのせいか、ハルが戦えるとは思えないんだよな。
「え、無理。観察者にだって向き不向きがあるからね。治すほうは任せてよ」
だろうな。
足運びとか見てても不安しかないし。
六花は自分で身を守れるだろうから心配は無い。
ハルを守ろうとして無茶をしそうだから、そうならないようにするには…。
…俺がハルを守るのが手っ取り早いのか。
ハルが犠牲になると面倒が無くなるんだが、そうなると六花が凹みそうだし、やむを得ん。
とりあえずはスライムを攻撃出来る手段が無いのが問題だな。
治療を前提に素手で殴るという手段はあまり取りたくない。
武器とか欲しいな。
ハルを投げるとか…はダメか。
「…逃げる時は俺に捕まれよ」
「うん! ありがとうおじちゃん!」
人の葛藤も知らんで、軽く返しやがって。
まぁ、六花も頷いてハルの頭を撫でているし、六花が良いなら良いか。
…逃げてる途中で、うっかりスライムに落としても事故ってことで良いかな?
大慈は基本的に「自分が気に入った相手が幸せでいられるように」優先的に考えます。
ただ、更に「自分が気に入らない相手が不幸であり続けるように」優先的に行動する癖がついています。
ちなみに、どちらでもない相手に対しては「別にどうなっても気にならない」という思考回路です。
…ほんと、なんで主役の立ち位置にいるんだろう。