転移する理由が見つからない 047
大慈が意識を取り戻しました。
身体の状態はどうなったのでしょう。
転移する理由が見つからない 047
どうやら夢を見ていたらしい。
俺の身体には、美女はしがみついてはいなかった。
それを残念に思うが、無くしたはずのシャツを着ていることに気付いて周りを見る。
落下している俺の足元。
夢で見た美女がいた。
正面から俺の全身が見えるように、軽く膝を曲げた体勢で俺に合わせて落下している。
隣になんかいるが、まぁそれはどうでもいいや。
重心を変えて落下を弱めて、向き合う様に体勢を変える。
俺を見ている美女の目は鋭く、表情は無い。
まるで彫像の様な綺麗な顔からは感情が伺えないが、視線は俺から離れない。
長いストレートの黒髪はつややかに鎖骨あたりまで伸ばされており、襟なしのサマーセーターとの隙間から見える細い首の白さを際立たせている。
片手で折れてしまえそうな繊細さを感じながら、下へと目を向ける。
同じ様に細さを思わせる中で血塗れのヒマワリが笑っている。
多分、あれは俺の血なのだろう。
よく見れば全身に血の跡が付いていた。
エプロンの腰は理想的な曲線美。
伸びた足は隠れてほとんど見えないが、更に下に目をやればジーンズが見えた。
黒いパンプスとの隙間には、やはり白く細い足首。
全体的に細身だが、よく見ると筋肉で締まった細さだ。
体脂肪率とか10%くらいしか無いだろう。
鍛え方がしっかりしている、そんな身体の作られ方と、俺の動きを見逃さない視線。
ちょっと確認したくなり、左足を引いて腰を落として構えを取り、意図的に左手を下げてみる。
彼女は少し半身になり、手首を隠して左手を前に。
体重は左足に乗せ、軽く上げた右足首を一度だけ上下させる。
その気なら、足先が俺の頭に入る距離だと、その動きが答えていた。
あ、やばい。
この女、メチャクチャ好みだ。
構えを解いて、頭をさげる。
試す様な真似もしたし、俺から名乗るのが礼儀だろう。
「命を助けて貰った恩は絶対に忘れない。出来る限りのことはする」
名前を伝えて、感謝を述べる。
彼女がいなければ。あるいは、見過ごされていたら。
あの苦痛の中で、俺は死んでいただろう。
「あ、あのー。治療したのは僕なんですけど」
さっきから視界の端で、俺と彼女の無言の語らいを遮ろうとしていた奴が、堪えきれずに声を出す。
仕方なくそちらを見ると、俺の腰くらいの背丈の奴がいた。
一見するとペンギンの着ぐるみの様だが、違う。
デカイ目もクチバシも、全て赤茶けた革で出来た丸い頭。
同じ素材が縫い合わされて全身に繋がっていて、腰から先が広がっていて足元は見えない。
ちゃんと指先まで覆われていて、短い指で自身を指している。
狂った医者とか、マッドサイエンティストとか、そんな言葉がよぎる。
うん、無視しよう。
「名前を教えてくれないか?」
彼女へと視線を戻し、大事なことを確認する。
そこにいる観察者っぽい奴なんて、それに比べたら何の価値も無い。
「六花」
涼しさのある声が答えてくれた。
りっか。
確か雪の結晶とか、雪の種類を意味する言葉だったか。
白く冷たいイメージのある名前を持ち、それに見合った姿の彼女を見ながら。
血塗れが似合う女ってのは、そうは居ないな。
そんな風に思って笑みを浮かべる。
無言のままで表情を変えない彼女の代わりに、
「何で二人して無視するんですかー!」
叫びをあげたペンギンもどきが地団駄を踏んだ。
あ、普通に足あるのな。
大慈は基本、「会話ができない相手」を毛嫌いする傾向がありますが、立花は行動で回答しているため「会話ができる相手」と判断しています。
「助けた相手でも必要があれば蹴れる」と回答した立花の性格を好ましく思ったようです。
口には出していませんが、「もっと大きければ完璧だ」と思っていたりします。