転移する理由が見つからない 037
大慈が出会う、4番目の観察者が登場します。
さて、どんな存在なのでしょうか。
転移する理由が見つからない 037
丘の上にいるチャロのパパというのに会い、観察者の多様性を感じた。
簡単に言えば、それは透明人間だった。
いや、人型をしているだけなので、人間とは限らないか。
まぁ、それを言い出したらカラカナだってジジイだって人間では無い可能性もある。
そもそも観察者が人間だと考えたがるのは、俺が人間だからだろう。
実際、蠅とかいたし。
透明な観察者は端切れというかボロというか、裁縫に使った布の余りみたいな物を身に付けている。
無理矢理身体に引っ掛けて縫い繋いだような、そんな纏い方だ。
所々にある覆われていない箇所から、反対側の生地が見える。
当人はおしゃれなつもりなのだろう、緩めのネクタイを締めて胸ポケットからハンカチが出ている。
顔には何もない。
ツギハギの帽子から包帯や留め紐っぽい物が幾つか出ていて、髪のように見えなくもない。
透明なマネキン。ただし趣味は悪い。
一言で言えばそんな奴だった。
何しろ、全部赤いのだ。
濃度の違いや明暗の差はあるが、包帯でさえ染めたらしく赤い。
一瞬、血塗れになっているのかと思ったほどだ。
「いやー、俺ってさぁ、見えない所にも気を使ってる訳。でも目立つのって違うじゃん。さりげなさっつーの?」
話をするとイラっとくるタイプだ、と気が付いたら手が出た後だった。
痛がってはいたが、全く堪えていないようだった。
観察者をマトモに殴ったのは初めてな気がする。
感触自体は普通に人を殴った時と変わらない。
何故か赤い塗料が拳についたが。
「この染料はチャロが集めたんだぜ? いやー、働くねぇ。わざわざ煮詰めてさぁ、冷ましてさぁ。漬けこめって言われたけど、まぁ変わんねーかなーってさぁ。浴びてみた訳よ?」
「カブれるといけないから、漬けこめって言ったのよ。パパってばせっかちさんね」
「「はっはっはっはっはっ」」
何だろう、ピントのズレた海外ホームドラマを見てるみたいだ。
賑やかしの笑い声が聞こえないうちに、ペースを掴んだ方が良いか。
「お前は他の観察者みたいに、転移の勧誘はしないのか?」
表情が見えない、というのがこれほど会話のしにくいものだとは。
目の前に顔があるはずなんだが。
つい、殴って実在するか確かめたくなる。
「あー、ほら。俺ってそういうの面倒っていうか、だるいってーか。なんてーの?」
お前がどう感じているのかぐらい、面倒くさがらずに考えろよ。
そう言いたくなったが、ストレスが溜まりそうなのでやめた。
マトモな会話のしにくいタイプなのだ。
平たく言うとバカ。
落ち着け俺。
持ち前の寛容さ、忍耐力で、聞きたい事を聞き出すんだ。
「俺はどうやってここに来たんだ?」
「んぁ? あー、他の奴らってさぁ。トレード? とか夢中になってやってんじゃん。そーいうのだるいっしょ。うぜーっていうか。けどほら、メンツっつーの? 付き合いっつーかさー。やりたくねーとか言うとマジ説教する奴とか? あり得なくね? あいつらマジうぜー。な?」
な? じゃあねぇだろ。
答えになってねえんだよ。
お前がうぜーわ。
「トレード会場に居たくないけど帰れないから別の場所に行きたい、って思った時に、近くにここが空いてたから、入りこんだんだよ。ね、パパ?」
「そう、それ。それでいーんじゃね?」
うん。それでいーや。
良いから、殴らせろ。
直るまで叩けば、少しは会話が出来るようになるだろ。
全く、観察者ってのは多様性に富んでいるようだが、マトモな奴はいないのか?
観察者にマトモな奴がいるのか? そして、マトモな登場人物がいるのか?
それは非常に難しい問題です。
まず作者がマトモかどうかという問題を(以下検閲により削除)