転移する理由が見つからない 035
お久しぶりの「目覚めのQ&A」です。
転移する理由が見つからない 035
Q.目覚めた時に見知らぬスライムが覗き込んでいた時、どうすればいいか正しい答えを述べよ。
A.見知ったスライムがいるのか?
正しい答えがわからずに俺が固まったのに気付いたのか、それはプルプルと身体を震わせた。
スライムと言っても、涙滴型でも人型でも無い。
不定形モンスターという代表格的な姿の方だ。
どうやって支えているのか、首を伸ばしている様な素振りでこちらを覗き込んでいた。
硬質化したり目玉が出来たらまた別のものだな。
そんな風に思いながら、半透明の緑のスライムから離れるべく、身動ぎする。
指先に触れた草の感触。
気づけば草の匂いに、水の匂いもする。
仰向けで這いずりながらスライムから離れ、身体を起こす。
襲われても反応できる様に、目を離さずに周囲を確認する。
テラリウムとか、アクアリウムとか言うんだったか?
芝生が広がっている空間には庭石で囲われた池があり、松の様な木が影を落としている。
反対側には茶室らしい古ぼけた木造の小屋があるが、中の様子は見えない。
スライムが茶室へと向かうのを見ながら、襲われる事は無さそうだと判断する。
ならば状況を確認するべきだろう。
この【庭園】が新たな観察者の影響である可能性もある。
その恐ろしさに身震いするが、スライムが観察者かもしれないと考える。
姿に嫌悪感を呼ぶものが無いためか、さほど不快感も無い。
だが、おそらく今見えているものは観察者の視界では無いと思える。
今の俺の視界には、【薄灰色の霧】も【ガラスと明かり】も無くなっているのだ。
異世界転移した誰かを見ている様な、そこにあるという現実感がある。
【庭園】がどのくらいの広さなのかはわからないが、見える範囲で手の込んだ庭木や石灯籠などがあり、かなりの広さであると思わせる。
立ち上がり、【足場】や【重心移動】も試してみる。
ダメだ。
普通に、現実にいるのと同じで、空中に【足場】は作れない。
「あ、気が付いた?」
茶室の戸が開く音がして、声が聞こえた。
子供の声に聞こえたので、一瞬ぱるみらを思い出す。
茶室から出てきたのは、虫翅の生えた小さな人間だった。
体長は30センチくらいだろうか。
羽ばたきながらこちらへと向かってくるが、飛ぶのが下手なのか左右に揺れている。
青みがかったクセ毛は短く、こちらを見る目には警戒の色はない。
フェアリーという奴か。
なんでワイシャツと短パンなのかはわからないが。
「あたしはチャロ。あなたは? 見ない顔だけど、新しい観察者の人?」
どうやらチャロという妖精の娘は観察者っぽいな。
手にした茶まんじゅうだろうか、口元にアンコがついてる。
話が出来る相手がいるのは助かる。
何が起きてもおかしく無い場所だろうからな。
情報は大事だ。
スライムが下でプルプルしてるのは食べこぼした茶まんじゅうを拾ってるだけで、まるごと捕食しようとしてるわけじゃ無いよな…?
…食われる前に聞ける事を聞くとしようか。
これも彼の生活習慣の一部ですが、嫌なことを忘れるのは寝るのが一番という説(諸説あり)があり、大慈は無意識に実践しています。