転移する理由が見つからない 033
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転移する理由が見つからない 033
他の観察者についても聞いてみた。
カラカナやジジイのように人間の姿をしているのは結構いるらしい。
基本的には、元々の世界にいた時の姿が基本になるそうだ。
ここまで話をして、みかりんが今更なことを言い出した。
「なんで他の観察者さんを探すんですか? 元の世界に帰るんですよね?」
「あいにくと俺は元の世界には執着も愛着も無いし。観察者になって好きな世界を作るとかやってみたい」
「…家族とか、恋人とかは?」
「うーん。確かに自分の手でトドメは刺したいけどな」
あれ? なんかみかりんが引いてる。
そんなに変なことを言ったか? あいつら一度は殺さないと、絶対に自分の愚かさに気が付かないぞ。
「いや、何があればそんなに殺意が?」
「? 殺意を持つなんて、当たり前のことだろう? 殺意を向けるまで行くと本当に殺したり、殺し合いになるからする奴が少ないだけで」
考えるだけなら無罪だが、それが相手に伝われば脅迫罪だし、実行したら殺人罪だ。
相手だって同様に殺意を持ちうることは、親から徹底的に刻み込まれたし。
それをちょっと返すだけのことを、そんなに不思議がるあたり、やはりみかりんはちょっと変な奴だ。
どういう環境で育ったら、そんなことに疑問を持つようになるのだろう。
「大慈さんって、どういう環境でそんな考え方になったんだろう…?」
「自分の家がフツーだと思ってるのは、大抵本人だけダヨー」
そう言えばカラカナは俺やみかりんの人生を知っているんだったな。
どんな環境で、どういう風に育って来たのかも知っているのか。
「ほら、カラカナもこう言ってる。みかりんは変わった家で育ったんだな」
「いや、大慈さんに言ってるんじゃないですか?」
「どっちもヘンダヨー?」
待てこら。
みかりんはあれだろ? 四人姉妹の中で女の子として育てられたみたいな環境だろう? 知らんけど。
そんな倒錯家族とうちの家族を一緒にするなよ。
もしまた会う事があれば必ず殺すけど、良い家族だったぞ?
家族と暮らして学んだ、最も大切な事は相互理解についてだ。
社会に適応するためには必須な事だと言えるな。
相互理解の第一歩は、敵になることの危険性を理解させること、ってやつだ。
「大慈さんと同じなんて失礼ですよっ!」
「みかりん、自分の格好見てから言おうな」
はっ! 俺がツッコミに回っている!
自分ではボケ兼マスコット担当だと思っていたのだが…みかりんの誘い受けスキルの高さか。
みかりん、恐ろしい娘っ!
「…この格好は、好きでやってる訳じゃないですもん」
その割にはカラカナにスーツ姿に戻すように言わないんだよな。
それに、スカートが捲られない様に押さえながら言われても、全く説得力無いぞ。
「まぁ、戻る気が無いのはわかりました。僕は戻るつもりでいるので、その時まではよろしくお願いします」
まぁ、みかりんがどんな格好をしていても俺には実害は無いし。
本人が気にいってるなら、それで良いか。
俺がモヒカンヒャッハーになるのは実害だから断るからな。
期待に満ちた目で見るなカラカナ。
「それで、当ても無く歩いて会えるもんなんですか? 観察者って?」
あ、そうか。
みかりんは蠅にあっていないから、【ガラスと明かり】の視界が無いのか。
そう言えばみかりんには、この場所ってどういう風に見えているんだろう?
やっぱり俺と同じで、【薄灰色の霧】なんだろうか?
「え、ランタンみたいなのが幾つか置かれた部屋というか、廃屋みたいな…なんか、荒れた感じの」
「引き取り先の観察者の視界を持たせてるカラー、その違いカナー?」
なるほど。
【薄灰色の霧】はジジイ。
【ガラスと明かり】は蠅。
カラカナは【廃屋とランタン】か?
俺の視界が二種類重なっているのは、ジジイから蠅に引き継がれたせいか。
「何も見えないと困るカラー、さっきみたいに髪の毛とか体液とか、一部を分け与えてるんダヨー」
なるほど、そうしないと本来ならこの場所で俺たちは何も見ることが出来な……。
いま、カラカナはなんて言った?
繰り返しになりますが、大慈は「善良で小心な小市民(自称)」です。
比較対象が異なれば結果が違うのは当たり前の話ですね。
なお、みかりんの家庭環境の予想はだいたいあってます。