転移する理由が見つからない 002
2話目です。
転移する理由が見つからない 002
何度か殴りかかってみたが、ジジイは俺との距離を保ち、時に背後や真下へ瞬間移動までして避けやがった。
投げる物があればいいのだが、あいにくジジイくらいしかない。
壁すら見当たらないから、ジジイを叩きつけるのも無理だ。くそっ。
「まず殴らせろ。話はそれからだ」
「殺伐とした挨拶じゃの。まぁ、勝手に説明するから聞いとけ」
隙を窺いながら聞かされた話はこうだ。
ジジイは世界の観察者で、世界は沢山あり観察者も沢山いる。
それぞれの世界に馴染まない者をトレードするために、観察者達が場を設けている。
俺がいた世界からも観察者がトレード要員を選んだ。その中の一人が俺だ。
選んだ基準はその世界の観察者次第らしく、数も違う。
ジジイ達のように違う世界の観察者は、俺たちトレード要員の了承を得たら、自分の管轄の世界に転生や転移をさせられる。
「つまり、俺がクズってのはテメェの決めつけってことだな?」
「トレードするなら要らんもん出すじゃろ。つまりクズじゃろ」
自分がクズを出しているから、相手もクズを出していると思っているらしい。
まぁ、俺がクズではない事は後で思い知らせるとして。
「で? 俺はどんな奴とトレードされるんだ? 会ってみたい」
俺と交換になるということは、それなりの好人物だろう。
等価交換って言葉もあるわけだし。
「提供分は先に渡しておるからな。この場にはおらんぞ」
何だよ。異世界人とかどんな奴なのか興味湧いたのにな。
獣人とかいるのかな。あ、そうか。
「俺が転移したらどんな世界に行く事になるんだ?」
このジジイは俺をスカウトに来ているようなもんだからな。
レアスキルとか、チートとか、財産とか、貰える物も確認しておきたい。
こういう部分で妥協する気は無いからな。
「うむ。お前さんの能力が遺憾なく発揮される世界じゃ。幾つかあるが、まぁ基本的な部分は同じと思って貰って良い」
基本的な部分、というのは観察している世界のテーマのようなものらしい。
「まぁ、実際に見せるのが一番分かり良いじゃろな」
そう言ってジジイはスクリーンに映し出すように霧に投影し始めた。
どこが光源になっているのか全くわからない上に、霧が揺れると画面が揺れるため見づらい。
「おい、これじゃわかんねぇぞ?」
「ムゥ…では、先に行った者の人生を大まかになぞらえる方が良いか…。ちょいと不自由になるが」
先に行った? ああ、そうか。トレード要員は俺だけでは無いと言っていたからな。
既に異世界とやらに行っている奴もいるのだろう。
そいつはどんなチートを手に入れたんだろうか。
先達の様子を見るというのは、確かに参考になる。
問題点なども見つけられれば、対策も打てる。
「よし、何をするのかよく分からんが、ジジイに何が出来るのか見せて貰おう」
「…頼み方というもんが…まぁ良い」
どうにも細かく文句を垂れるジジイだが、実際に変な力があるのは事実らしい。
いきなり異世界に飛ばされることがなかったのは、多少なりともこちらに配慮をしているからなのだろう。
だったら、こちらとしても多少は妥協してやってもいいだろう。
押し売りみたいなものだが、製品のプレゼンテーションを聞いてやるくらいは。
こういうところが大人の余裕って奴なんだよなぁ、と自答していたら、目眩がした。
「断続的にはなるが、主観で見るのがお前さん程度には分かり良いじゃろな」
何となくバカにされているような気がしながら、俺は目眩に揺られ気を失った。
基本、ぽんぽん続きを予約投稿しています。
というか、予約投稿しておかないと投稿するの忘れそうなので。