転移する理由が見つからない 013
蠅から情報収集を行っています。
こういう表現だと、なんだか蟲使いみたいにも聞こえる。
転移する理由が見つからない 013
質問に対して、淀みなく答えを返す蠅。
だが、その全てが真実ではないのかもしれない。
例えば、
「直接干渉はしないのに、収穫して食べるのか?」
ガーデニング扱いなら、食べるのは解る。
だが、それだと矛盾していないか?
なった実をとっているなら、干渉していると言えるだろうに。
「育てた後に世界を分ける…枝分けといえばわかりやすいでしょうか。あえて栄養を飽和させて次の世界の種を作る事もあります。そうした移り変わりの際に観察者が生まれる事がありますが、大抵は糧となりますね」
…なるほど。つまりこいつらは、世界を卵として繁殖しているのか。
その際に自分に有益な奴が生まれたら従え、不足するなら糧にしている訳だ。
その中で、質を整えるためや、変異種を作るためにこうやってトレードをしているんだろうな。
「…お前らって死ぬのか?」
そう考えると、こいつら観察者は互いに協力関係にあるが、敵対関係もありそうだ。
人間だったら、自分と違う考えの奴らを駆逐するくらいの事は考えるし、手段があれば実行する。
「死にますよ。さて、そろそろ本題に入りましょうか。貴方様には私の観察世界へと転移していただきたい」
流石に殺し方までは教えてくれないか。
まぁ、その時は動かなくなるまで殴ればいいか。
それでダメなら、その時に考える。
今は敵対的な奴はジジイくらいだ。
問答無用で殺しにくる奴が居ないとも限らないから、これから会う奴らには注意が必要だな。
「…お前が観察してる世界って、どういうテーマだ?」
ジジイはスローライフがテーマだと言う。
そんな牧歌的な響きのあるテーマで、あのガキは笑えるくらいの目にあっていた。
テーマが内容と一致するかは不明だが、聞いておいたほうが覚悟出来る。
まぁ、行かないで見るだけなんだが。
「私の観察する世界のテーマは、【死】です」
ゴメン、ちょっと覚悟できないかも。
そのテーマはダメだろ。
どうやって殺すか楽しんでます、と言ってるようなもんじゃないか。
「…一欄見ていいか?」
「構いませんよ。オススメなのはこの世界ですよ。貴方様には楽しんでいただける世界かと」
【デッド・テイマー・ワンダーランド】
世界の名称欄には、そう書いてあった。
明らかに不吉な響きのある世界名だ。
デッドって確か、死ぬとかそんな意味だろ? テイマーって飼うとかだったよな?
…飼い殺しの楽園? なんだそれ。ブラック企業か? もうそんな仕事する気は無いぞ。
表示されている名前を見ると、数は多く無い。
全部で20人無いな。
だが、その全てが生きている。
…活かさず殺さず、ということだろうか。
なんか、見るの嫌になってきたな。
どうせ、ロクな目にあって無いだろ、こいつら。
「他の観察者にチェンジで」
「生憎、一度は確認していただきませんと紹介は致しかねます」
くそっ。なんだその「体験サービス受けないと返さないキャッチ系」みたいなルールは。
…仕方ない。粘っても蠅に付きまとわれるだけだろうし。
正直こいつ、話しやすいけどあまり顔を見たく無いし。
見たく無いけど、見ないとダメか。
次回、蠅の観察世界を覗いてみます。