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転移する理由が見つからない 011

戦い(?)に敗れた後、目が覚めるところから再開です。

今回は「目が覚めた時のQ&A」は無いよ。

転移する理由が見つからない 011





冷んやりとした物がまぶたと額を覆っている。


意識を戻した俺が感じたのは、その感触だった。


あー、あれか。夢オチってやつか。

誰かに殴られるとか、落ちてきた植木鉢とか飛んできた自販機に当たって気を失ってたんだな。


そう思いたくて、左手でその物体を掴む。

水気を含んだブラシの様なそれは、握ると汁気が溢れた。


「おや、気付かれましたか?」


顔にかかった汁気を拭い、嫌な予感がしながら手にした物を見る。


握手、といえば良いのだろうか。


湿り気を帯びた手。

当然、それは持ち主である【蠅の王】に繋がっている。


反射的に蹴りが出た。

正中線、胴体の真ん中に向けて突き刺す様に伸びた俺の右脚。


「元気な様で安心しました」


蠅の反応速度って、人間の反射速度を超えてるんだな。

空を切った脚に、そんな感想を抱く。


昔の剣豪は飛んでる蠅を箸で捕らえたというが、本当だろうか。


手を掴んだ状態で不意打ちを躱すとか、友人の学生時代を思い出した。

あの時は急所を蹴り上げられて、顔面に頭突き食らって、


「悪い、反射的に手が出た」


って言われたんだよなぁ。

痛くて、手じゃねぇ、ってツッコミさえ出来なかったっけ。


友人とは違い、【蠅の王】は反射的に手が出る事はなかった。

少なくとも、今は攻撃的な様子はなさそうだ。


警戒しながら手を離し、拭う。

なんの液体で湿っていたのかは考えない事にしよう。


「初めまして。私、ぱるみら嬢の言うところの【おばけ】でございます。貴方様の世界における名前が無い故、どうぞお好きにお呼びくださいませ」


腕を胸に当て、一礼しながら語る姿は、大悪魔としての優雅さすら感じ…いや、やっぱり蠅は蠅だよな。


だが、意外にも紳士的な態度だ。

いや、あれだな。ジジイが蠅に劣っているというのが正しいな。


「じゃあ、蠅。何があったか説明してくれ」


姿は変わらずリアルで巨大な蠅だが、俺は先程よりも落ち着いていた。

相手に敵意が無いこともあるが、蠅の態度が人間的であることが大きい。


相手の態度には、相応の態度で返す。

社交的な俺からすれば、自然なことだ。

…まぁ、生理的な嫌悪感まで消えはしないが。


「説明いたしましょう」


蠅の説明は淀みの無いものだった。

転移案内の対象にぱるみらがいたが、蠅の管轄する世界には適当なものがなかった。

ジジイの管轄する世界の方が良いと判断し、譲ったらしい。


あのガキの不様を思い出す。

とてもではないが幼児が1人では生きられ無いのでは無いか?

そう思ったのだが、対象に応じて出現する場所は変更出来るらしく、ぱるみらは人のいる場所に送られるだろう、とのこと。


因みに、あのジジイの観察世界のテーマは【スローライフ】だと言う。


「投げる命か。ゲスジジイめ」


そう思ったが、ちゃんとした意味でのスローライフらしい。

ガキが人の居ない場所にいたのは、


「俺は選ばれたんだ! 誰の手も借りずに1人で生きる!」


とかアホな事でも言ったんだろう。

それを真に受けるジジイも問題があるが、自業自得だな。


蠅の管轄する世界にも興味があったが、どうせ転移しないからな。

それよりも気になる事がある。


大悪魔だろうと観察者だろうと見た目は巨大な蠅なので、呼称も蠅になりました。

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