模擬試合
― 数日後 ―
生徒会室にて、甲斐がメンバーに向かって重く口を開いた。
「マギカ・バディギルドより登録試験の日程が来ました。試験内容は他校との模擬試合です。そして対戦相手は……《須恵吉大学付属高校》です」
「なんですって! 会長! それは本当ですか!」
めずらしく稲津が椅子から飛び上がらんばかりに驚き、
「……須恵吉大付属ですか。これはこれは、ご機嫌な対戦相手ですね」
白鳥の顔が若干険しくなる。
「須恵吉大付属って、中高大一貫校ですよね。運動部はそこそこ名前を見ますけれど、大凶魔學院程じゃないし……何で皆さん、そんな険しい顔をしているんですか?」
「龍一、ちょっと考えてみろや。うちらみたいな昨日今日できたばっかの高校ではなく、遙かに歴史があって、しかも大学付属の高校でな、何で今さらマギカ・バディの登録試験を受けるんだ?」
「え? あ、そういえば……」
そして目黒は、その答えを床に吐き捨てた。
「この須恵吉大付属ってのはな、去年の秋大会の地区予選、準々決勝中に反則行為を犯したんだ。そして半年間の登録停止処分を受けたんだよ」
「反則! そんな……。反則ってどんなことをしたんですか?」
「模倣を防ぐ為、反則内容は公開されていない。《神の眼》が須恵吉大付属を反則負けと宣言したんだ」
鳥居が記憶をたどりながら神妙な顔で呟いた。
「でも、もし濡れ衣だったりしたら?」
「龍一君……それは絶対にないよ」
金剛が小さい声で力強く確信し、
「《神の眼》に限ってそれはありえません。その時、反則負けを《神の眼》より宣言された須恵吉大付属の選手達は抗議も気落ちもせず、むしろ、イタズラが見つかった悪童のように舌を出していましたからね」
白鳥が記憶をたどっていた。
甲斐も冷静に分析し、皆に説明する。
「今回の登録試験は、須恵吉大付属高校の登録停止明けの適性試験と、私たち龍堂学園の再登録試験を、互いの模擬試合という形で試験に代えたと見るべきね」
「で、でも、もしその試合に負けたら、僕たちは登録できないんですか?」
「大丈夫だよ龍一君。試合の結果は、合否に関係ないよ」
うろたえる龍一をなだめるかのように、金剛が優しく微笑んだ。
目黒も龍一に向かってわかりやすく説明をする。
「ボクシングのプロ試験みたいなもんだな。マギカなら攻撃魔術、ストライカーなら格闘、ディフェンダーなら防御、ヒーラーなら治癒、そして龍一、サプライヤーならマギディによる魔力供給。これら各メンバーが自分の役割を出来ているか。そして、ちゃんとルールに沿って競技ができているか、これらの総合判断で決まるのさ。ま、普段の練習通りにやっていれば、逆に不合格になるのが難しいわな」
「やっぱり武雄は脳筋ね。競技のことになると、鳥居さんや白鳥君より、龍一君にわかりやすく説明するんだから」
「ヲイ! 真理! 脳みそが筋肉じゃなく、筋肉が脳みそと言えよ!」
「筋肉が脳みそってなんなの? そんなのアメーバーとかゾウリムシみたいなモノでしょ? あ、だから武雄はいつも赤点だらけなんだ」
目黒と稲津のやりとりに、やっと生徒会室が笑いで満たされた。
※
「全く……なんで試験会場に制服で行かなくてはいけないんですか……何より試合時は汚れなき純白のタキシードではなく、学校指定の”じゃあじ”を着用せねばならないのか。”天の神”よ、もし今、愚かなる人間共に”最後の審判”を下されるなら、この白鳥、諸手を挙げて歓迎いたします……」
試験会場のマギカ・バディギルドへ駅から徒歩で向かう龍堂学園のメンバー達。
だが、待ち合わせ時からすでに行われていた、この世の全てを呪うような白鳥の呟きは、模擬試合へ挑むチームのテンションを、奈落の底まで突き堕としていった。
「し、白鳥君。あのね、一応私たちは再登録する身だからね。少しでもギルドの心証を良くしておかないと。……それにほら、相手の須恵吉大付属にも失礼だし……」
何とか慰めようと甲斐は必死に説得するが、やさぐれた人間に説得や慰めはむしろ逆効果、たき火の中にガソリンをぶちまけるに等しかった。
「へぇ~。会長はぁ~、私のタキシードがぁ~礼に反するとぉでもぉ~」
甲斐に絡む白鳥に他のメンバーは苛立ちを隠せなかった。
龍一も若干”イラッ”として、さりげなく呟いた。
「やっぱりタキシードやシルクハットがないと、白鳥先輩の魔術は効果が薄いんですね。最初にマジュツ部で見せてもらった【炎の鳥】や【元素解縛】は、本当にすごいと思いましたけど、”タネ”であるタキシードやシルクハットのおかげだったんですね」
「龍一君、今なんと……。いくらマギカ・バディ部の部長とは言え、今のお言葉、聞き捨てなりませんね。どういう意味か説明を求めますが!」
「そのままの意味です。白鳥先輩なら、そうですね……それこそ去年の大凶魔戦みたいに、パンツ一枚でも大凶魔と互角以上に戦えると思っていたんですが……残念です」
龍一の顔は挑発から落ち込みへと変化する。
「おお、なんと! この白鳥、王たる龍一君を失望させるとは! これこそ白鳥家末代までの恥! ……ご安心下さい龍一君! この白鳥、例え股間に纏ったイチジクの葉でさえも【元素解縛】して、強敵を打ち倒してご覧に入れましょう!」
白鳥は、テラスにたたずむ姫に求婚する王子のように、片膝をつき、片腕を伸ばし、誓いの宣言をする。
そんな白鳥に、念を押すように龍一の叱責が飛ぶ。
「お願いですから、せめて……いや、絶対! パンツ一枚までにして下さい!」
龍一と白鳥のやりとりに、他のみんなは龍一に対して部長としての威厳を感じ、さらに
(白鳥を操るには、ああやって持ち上げて、落とせばいいのか……)
と、心の中で納得していた。




