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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第四章 ハーフタイム、そして後半戦
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反則

 火室は左腕を深紅の槍と化し、アキレス腱から【深紅の吹雪】を吹き出して、甲斐に突進する。

 その姿は馬上槍試合(トーナメント)において、一騎打ち(ジョルト)に挑む騎士。

 対する甲斐は、けようと身をかがめる。


(たとえ避けられようと、自らダウンしようと、この体ごとぶつけてやる!)


 あと数センチで【深紅の槍】の先端が甲斐の頭蓋を貫こうとした瞬間、氷室の目に信じられない光景が映る。


(っな!)

”ドドガガッッ!!”

(っぁ!) 


 次の瞬間、火室の左腕と左こめかみにぶち当たる圧。

 それはドロップキックを放った目黒の靴の裏であった。

 デッドエンドラインを超え、ぼろぞうきんのように転がる火室の体。


「えっ!? あれ!? ドロップキックが当たったぁ? 城壁は? あ、真理ぃ!」

 素っ頓狂な声を上げる目黒は、稲津を確認すると慌てて駆けていった。


 何とか体を起こした火室は

『……き…き、きさまぁ! 恥をしれぇ!』

 最後の力を振り絞り、目黒ではなく甲斐に向かって怒を放つ。


 観客達はなにが起こったのか? いや、なにが起こったのかはその眼で理解できるが、


”どうしてそうなったのか?”


が理解できず、他の観客に問う姿があちこちで見られた。


 コート上にはデッドエンドラインを超えて、ボロボロになってもなお声を荒げる火室。

 同じくドロップキックを放ち、デッドエンドラインを超えた目黒は、倒れた稲津に声をかける。

 そして、腰を落とした甲斐。

 さらに、目を見開き、信じられないモノを見た顔をしている白鳥。

 そして、強固な防御を形作っていた【対物対魔城壁】は、跡形もなく消えていた。


 火室がデッドエンドラインを超えたことで、大凶魔側のレイドは終了したが、未だ《神の眼》からはなんの審判もくだされていなかった。


『ただいまのプレーについてご説明いたします』


 《神の眼》の声に我に返る火室。

 突如、神の眼を中心に四方に浮かび上がる投影映像。


 突進する火室。

 かがむ甲斐。

 城壁から大きく離れていた目黒は、城壁をぶち破ろうと勢いよくダッシュし、ドロップキックを放っていた。

 これら三者がスローモーションで接近する。


 そして、目黒のドロップキックがまさに城壁に当たる瞬間! 城壁は忽然と消滅し、火室に直撃する。

 ”おおっ!”っと揺れる観客席。


『本来、魔具の所持、そして使用は所有者のみ許可されるものであります』


「え? なんで?」

「しっ!」

 男子学生AのつぶやきをBが制止する。


『このたび、龍堂学園の競技者が、他の競技者の魔具を所持したことにより……』


『龍堂学園の反則といたし、甲斐選手に《警告》を発します!』


 揺れる観客席の空気。

 甲斐は握りしめた右手をゆっくり開く。

 そこには稲津の魔具であるペンライトがあった。 

 ”おおっ!”とさらに揺れる観客席の空気。

 

 歩が魔具の所持について男子学生Aに説明する。

「おもちゃの杖でもストライカーが持てば立派な武器になるからな。魔具の所持は厳密に決められているんだ」

「ですが、魔女帽子をタキシード男がかぶってましたよね? あれはいいんですか?」


”ぐっ!”と言葉に詰まる歩に奈里が補足する。

「おそらくそれらは魔具ではなくただの衣装だったのでしょう。あのタキシード男の魔具はステッキだったのかもしれません」

「ああ、そういえば、シルクハットだろうが魔女帽子だろうが、ステッキを叩いて変なモノを出していましたね」

 納得する男子学生Aと周りの観客。

 奈里に向かって手を合わせる歩。

“この借りは高いですよ”とにやける奈里。


『よって、反則を犯した競技者の術は解除されましたが、それによる大凶魔學院の競技者に与えられたダメージ、そして失われた魔力は、規定により回復いたします』


 火室の体を淡い光が包み込む。

 しかし、目黒のドロップキックによるダメージと、甲斐が反則を犯してからの【深紅の吹雪】で失われた魔力しか回復しないため、ボロボロの火室にとっては焼け石に水であった。


 そして甲斐は火室に向かってつぶやく。


『反則が”ルールに記されている”以上、使える戦術は使わせていただきます』


 不穏な空気に包まれる観客席。

 マギカ・バディにおいても反則ぎりぎり、時には反則を犯すダーティーなチームや競技者は確かに存在するし、ルールにある以上、それを非難する者はいない。

 彼らは反則による代償(ペナルティー)を払って、そのようなプレイをするのだから。

 中にはそういうプレーをするチームや競技者のファンになる観客もいる。


 しかし、大凶魔學院は絶対的な強者である以上、反則とは全くと言っていいほど無縁であった。

 それが、かつて大凶魔學院に在籍した者、さらに全国中学覇者にまで上り詰めたディフェンダーの口からの、反則を是とする告白。


 偶然ではない、故意に反則を犯すことで、《神の眼》に【対物対魔城壁】の【解術】を行わせ、さらに、目黒のドロップキックによる攻撃を成し遂げた。


 大凶魔派の中には甲斐の裏切りを

『若気の至り』

『一時の気の迷い』

『庵堂龍造にそそのかされた』

と弁護する者もいたが、この言動によって、甲斐と大凶魔學院をつなぐ細い糸がすべて断ち切られた。


『……大凶魔學院はアンティー一人のダウンおよび負傷退場。一人のデッドエンドライン外により2点、反則による3点、計5点獲得。大凶魔学園競技者のデッドエンドライン外は、龍堂学園の反則によるものとし、得点にはなりません』


”おおっ!”と、観客席がより震える。


『よって、現時点での両校の点数の合計は、大凶魔學院14、龍堂学園7』

”うおおおぉぉぉ!”と歓声を上げる大凶魔派の観客。


 ダブルスコアになり、気落ちする龍堂学園観客席。

 目黒は無言で稲津を横抱きし、ベンチへと運んでいく。


(やったよ! 火室! やったよ!)

 この試合におけるポイントゲッターとなった火室を、氷耶麻は火室のマントを抱きしめながら称えた。

 しかし、当の火室は甲斐を仕留められなかったため、忸怩(じくじ)たる顔をする。


「お手をどうぞ」

 火室に差し出される、白い手袋に包まれた右手。

 顔を上げると、白鳥がにこやかな顔で手をさしのべていた。


「なんのまねだ?」

 いぶかしむ火室に、白鳥はより微笑む。


「貴方様の健闘を称えての行いです。少なくとも私は、それくらいのスポーツマンシップを持っておりますので」

「……つまらん男だ」

「はっ?」

 予想外の言葉に、白鳥は素で驚いた。


「貴様もマジシャンの端くれなら、むしろ手から花束を出し、我を驚かせるのが当然の行いだろう? 貴様のマジシャン魂とやらは所詮(しょせん)、その程度という訳か……」

「これはこれは」

 一本取られたと両の手を広げる白鳥。


「貴様の心遣いは素直に感謝するが、我は至高のいただきを目指す者。たとえ中二病と揶揄(やゆ)されようが、己のは貫かせてもらう」

 力を振り絞り立ち上がった火室は、傷ついた左腕を押さえながら、大凶魔學院のベンチへ歩いて行こうとする。

 しかし、何かを思い出したかのように立ち止まると、もう一度白鳥へ顔を向けた。


『白鳥とやら、しずくをもてあそんだ落とし前は、いずれつけさせてもらう』 

(しずく? あぁ、氷耶麻さんのお名前ですか)


「我は……至高の存在になるモノ……誰にもびぬ……助けもいらぬ!」

 その言葉は中二病ではない、真に高みを目指すおとこの言葉であった。

 ラインに沿って、体を引きずりながら歩く火室の姿に、観客は拍手すら忘れていた。


『《神の眼》よ! 火室選手に【治癒】の許しを!』

『せめて負傷退場者には【治癒】を!』

『これではただの殺しあいだ!』

 大凶魔派の観客達が騒ぎ始めるが、《神の眼》は無言であった。


『火室選手に【治癒】!』

『氷耶麻選手に【治癒】!』

『洞選手に【治癒】!』

 【治癒】の心得がある観客は実際に術を唱えるが、【絶対魔防壁】によってはばまれる。

 それでもなお唱える観客達。

 ついにはまだ競技を続けている夜長に美月、倉に向かって唱え始める。


 異様な雰囲気に包まれた競技場内。

 甲斐を始め白鳥、目黒もその圧を全身で感じていた。

「会長、次のレイドは? 私ですか? 目黒君ですか?」

「えっ?」

 白鳥が甲斐に進言するが、声が届いているかすら判別つかなかった。


『てめぇら静かにしろ! 声が聞こえねぇだろうがぁ!』

 稲津をベンチに寝かせた目黒は、観客席に向かって声を荒げた。


『《神の眼》よ! 観客を静かにさせてください! これでは作戦がたてられません!』

 白鳥が《神の眼》に向かって抗議するが、なおも《神の眼》は無言であった。


 ――《神の眼》に抗議できるのはキャプテンのみ。もしキャプテンが退場したなら、それに準ずる者のみである――。


 さらに

『金剛選手に【治癒】!』

『鳥居選手に【治癒】!』

『稲津選手に【治癒】!』


「お、おい、どうなっているんだ?」

 動揺する目黒に向かっても


『目黒選手に【治癒】!』

『白鳥選手に【治癒】!』  

 龍堂学園の選手に向かっても【治癒】を唱える大凶魔派の観客達。

 しかし、ある選手の名前だけは叫ばれなかった。


『これで……これでいいんだ。制裁の生け贄は……私一人で』


 目を閉じた甲斐の顔からは、なんの迷いも憂いもない、澄んだ微笑みが浮かんでいた。

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