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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第四章 ハーフタイム、そして後半戦
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吹雪の突進

「氷耶麻!」

 火室はすぐさま氷耶麻の元へ駆け寄ると、あられもない姿を隠すため自身のマントをかぶせ、氷耶麻を横抱き、俗にいうお姫様だっこで抱え上げベンチまで運ぶ。

 力なく垂れ下がる氷耶麻の腕と脚。

 意識のない唇の端から一筋の紅が伝い落ちていった。


 火室は片膝をつき氷耶麻の体をベンチの上にそっと乗せると、垂れ下がった二つの手を腹の上に置き、自身の手を重ねた。

 まるで、氷耶麻を護れなかった自分を懺悔するかのように……。


”パァーーーーーン!”


 火室の背中、観客の鼓膜、そして競技場の空気を切り裂くような音が、夜長の手と美月の頬から放たれた。

 一騎打ちを邪魔した美月に対する、夜長からの制裁の音。

 下を向く美月の唇からも、一筋の紅が伝い落ちる。

 火室も倉も振り返らず、制裁の音を背中で聞いていた。


 しかし、夜長は怒りも冷淡も吐き出さず、ただ歯を食いしばり、美月をにらみつけていた。

 自身の未熟と油断によるメンバーの負傷退場は、キャプテンである夜長の罪。

 しかし、美月の”掟破り”のおかげで、夜長の罪は薄まる。

 それがわかっているからこその、いきどおりの平手打ちであった。


もろい……。魔術遣いとやらは、こうも脆いのか……。これが前年度中学覇者の姿なのか……)


 倉は分厚いその背中で、二組の魔術遣いの脆さを感じていた。

 幼なじみの氷耶麻がやられ、気落ちする火室。

 そして、掟を破った美月と、部下が掟破りをしておきながら、メンバーを負傷退場させてしまったキャプテンの夜長。


 倉の視線の先には、気を失った鳥居が白鳥と目黒によって担架に乗せられる。

 ゆっくりとベンチへ運ばれていく横では、甲斐が心配そうに鳥居を見つめていた。


(甲斐よ……おまえはこんなにも脆い我らを見限って、龍造先生の元へ……)

”パシッ!”

 思いも寄らぬ考えに、倉は慌てて両の手のひらで頬を叩く!

(なにを迷う! なにを惑わされる! 俺一人で龍堂学園(あいつら)を全滅させれば済むことだ!)


『大凶魔學院のレイダーは、相手コートのアタックサークルへ。十……九……』


 闘志を燃やす倉の耳に、《神の眼》の声が届けられる。

 試合の流れを変えるため、倉は力強い一歩を踏み出そうとするが


『……夜長様、次のレイダーはぜひこのわたくしめに』


 ピッチに戻った火室が、氷の炎を両眼に宿しながら、夜長に向かってうやうやしく礼を捧げる。

 火室の冷たくも熱い覚悟に自身を落ち着かせた夜長は、無言でうなづいた。

 そして火室は、倉に近づくと耳元でささやく。


『……倉よ。夜長様と美月さんを頼む』


 それは鳥居と同じ、不退転の決意を秘めた言霊。

 たとえこのレイド、この試合で龍堂学園に勝っても、自身は三回戦以降の試合には出られる体ではない、決死の覚悟。


「わかった。撃ち漏らした敵は、俺が片付けておく。お二人の手をわずらわせることはないだろう」

 離れていく氷室の背中に向かって、倉は答えた。


 アタックサークルに入った氷室は龍堂学園のメンバーを確認する。。

 人数は減っていたが、先ほどのレイドと同じシフトが、デッドエンドラインぎりぎりに展開されていた。

火室の視線の先、菱形のシフトの頂点には甲斐。

 その後ろには白鳥と目黒。

 そして最後尾には稲津。


(ふん! 馬鹿の一つ覚えみたいに)

 冷たく微笑む火室。


「やっこさん。どうやら”イッチまった”みてぇだぜ。ああいうおとなしいヤツが”プッツン”するのが一番やべえんだ」 

 中二病とは違う雰囲気を感じ取った目黒が、メンバーに危険を伝えた。 


『三……二……一……』


「【魔氷弾】!」

 中二病特有の長ったらしい詠唱ではない、ごく普通の詠唱が逆に、火室の”プッツン度”を表していた。

 火室の伸ばした五指の先から【魔氷弾】が放たれると

「【対魔防壁】!」

 甲斐もすぐさま詠唱し、メンバーを防御する。


 火室は左右の指先を交互に向けながら次々と【魔氷弾】を発射し、甲斐に近づいていく。

”!”

 目黒がフェイントで体を動かすと

”!”

 火室はすぐさま後退し、再びアタックサークルから【魔氷弾】を放つ。


 今度はより近づく火室であったが、白鳥と目黒が体を動かすと、再び後退していった。

「くそっ! イライラさせやがるぜ!」

「落ち着いてください目黒君。彼はああやって私たちの間合いを計っているのですよ」

「わ~ってるよ!」    


 一進一退の火室の攻撃を、甲斐は正確に防御するが、異変に気づいたのは目黒だった。


(防壁の展開が、遅くなっている!?)


「【対魔防壁】!」

 腕を振り【対魔防壁】を展開する甲斐であったが、今まで腕の振りと同時に展開されていた防壁が、明らかにワンテンポ遅れていた。


「白鳥ぃ!」

「わかっています!」

 白鳥も防壁の展開の遅れ、そして甲斐の消耗を感じ取っていた。


「目黒君! 彼が後退したあと、最初の一歩を踏み出した時に行きます!」

「オッケー白鳥! タイミングは任せるぜ!」

 五指五体に力と魔力をみなぎらせる白鳥と目黒。


「今です!」

「うおおおぉぉぉ!」

 白鳥の合図と共に、二人は甲斐の背中から飛び出す。


「なにっ!」

 すぐさま二人に向かって左右の五指を向ける火室であったが、白鳥と目黒はまっすぐ向かってこず、左右に大回りしながら火室へと突進していった。

 それによって、火室の両腕の角度が三十度、六十度、そして九十度と広がり、胸が開く。


「稲津さん!」

「はいっ!」

 甲斐の合図によって稲津も甲斐の前へ飛び出す。

 握りしめたペンライトの先端を氷室の胸元へ向けると、体中から無数の光の糸を生じさせた。


(この距離なら【氷の靴】による突進、そして【魔氷弾】を発射する前に【カミナリ】を放てる!)


 生徒会会計を任される稲津の計算能力は、火室までの距離、そして【魔氷弾】を放つまでの時間を一瞬で計算した。


『おおっ!』

 どよめく観客席。

 大凶魔派の人間でさえ、龍堂学園の勝利を予測する。


 しかし。


『こうも我の思い通りになるとはなぁ……』


 中二病に聞こえる氷室の声。

 だが声の質は、悪魔のつぶやきそのものであった。


『【吹雪の突進(ブリザード・ダッシュ)】!』


”ブオオォォォーーー!!”

 火室の両アキレス腱あたりから、ジェットエンジンのように吹雪が噴射される。


”ドン!”

 競技場を貫くように、火室の体は稲津へと突進する。


「えっ!」

 猛スピードで近づく火室に、稲津の体は一瞬固まった。


『【氷拳(アイス・ナックル)】!』


 さらに火室は、左の肘から指先までを凍らせ、氷のこぶしを形成させた。


(右手からの【魔氷弾】か? 左手の【氷拳】による物理攻撃か?)

 甲斐もまた火室の攻撃を読むために一瞬、動きが止まる。


『【対物対魔……城壁】!』 

 力を振り絞り、稲津の前に【対物対魔城壁】を展開する甲斐であったが、明らかに二テンポ遅れ、さらにその速度も一瞬ではなく、まるでオペラカーテンのようにゆっくりと展開していった。


 火室から見て、左から右へと展開される【対物対魔城壁】。

 それでも火室が稲津に肉薄する直前、二人のあいだに城壁が展開された。

(間に合った)

 安堵する甲斐であったが。


『見切ったり! 【対物対魔城壁】!』


 火室はすぐさま右九十度ターンし、展開される城壁を追い越そうと【吹雪の突進】をより加速させる。  

 そして【氷拳】に包まれた左腕を伸ばし、展開される城壁の先端をわしづかみにした。


”パキバキパキィバギィ!”


 【氷拳】と【対物対魔城壁】。

 二つの魔術が砕け散る音が、競技場にこだまする。


「ぬおおぉぉ!」

 右足を浮かせ、【吹雪の突進】を左足だけに集中させ、城壁の内側へ体を潜り込ませようとする火室。


”パキバキパキバァキィィーーン、


 【氷拳】が跡形もなく砕け、


”ズバズババズバァ!”


 【対物対魔城壁】の砕けた破片がローブを切り刻み、左腕に無数の切り傷を与える。


「左腕の一本ぐらいくれてやるぅ! ぬおおおおぉぉ!」

 魔術遣いらしからぬ咆吼は、火室に最後の力を与え、


”ドギャギャギャ!”


 床を削るように体を回転させながらジャンプした火室は、城壁の内側へ入ることに成功した。


『おおおおお!』


 龍堂学園コートを二分する城壁。

 コートの五分の四以上を占める外側には白鳥と目黒。

 そして五分の一以下の内側には甲斐と稲津、そして雄叫びを上げる火室が立っていた。


『【対物対魔城壁】! 破れたりぃ!』

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