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文明の濫觴  作者: 烏木
第6章 交流を深めましょう
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第13話 アルコール

「ちょっと残ってる気がする」


翌朝の朝食後に雪月花がボソッと溢した。

文昭が全部飲むのは予想通りだったのだが、雪月花とハツ村長も全部飲みやがった。いや、まぁ別に全部飲んでもいいんだけど……


「深酒すんなって言ったのに全部飲むからだ。ありゃ足りなくならないよう余裕持って渡しただけだぞ」


渡した清酒は一人あたり四合。俺としては一人二合だと足りないかもしれないと思って二本渡したのだが読みが甘かった。


四合というとスーパーや酒屋でよく見る日本酒の瓶と同じ量。日本酒の瓶は七二〇ミリリットル入りの四合瓶か一,八〇〇ミリリットル入りの一升瓶が多いかと思うが、その小さい方というか手頃な大きさの奴。


一合一八〇ミリリットルとか二合三六〇ミリリットルとかもあるけど、あれは基本的には飲み切るのが普通のもの。しかし四合瓶や一升瓶は栓を閉め直せるなど基本的には飲み切りでない事を想定している。それは四合までいくと、そうそう飲める量じゃないって事でもある。


日本酒一合分のアルコールを代謝するには、体重とか遺伝とか性別とか色々あるからアレだけど、だいたい三時間半ぐらいかかると思えばいい。だから四合だとその四倍の十四時間ぐらいかかる。仮に午後八時から飲み始めて四合飲んだとしたら翌朝八時の段階でまだ酒が残っている。その量はビールを三〇〇ミリリットル……一缶弱を飲んだぐらいのアルコールが残っているので車を運転したら酒気帯び運転になるぐらい残る。仮に一升飲んだとしたら二十四時間では代謝しきれないから毎日一升飲むなら一生酔っ払ったままになる。


「まぁ収穫はあったから。無駄にはしてないから。それで勘弁して。それにしても敷島さんや早乙女さんはよくお酒が残らないわね。呆れるわ」

「あの二人は酒に関しては人外と思ってる」

「お酒だけ?」

「少なくとも酒は人外だろ。他に人外なところがないとは言ってない。あの二人は寝てる間に常人の何十倍ものスピードで代謝されてんじゃねぇかと疑ってる」

「確かにそう言われるとそうとしか思えないぐらい説得力があるわね。まぁそれは置いておいて、派遣班のメンバーはどんな塩梅かしら」


この後に個別面談をするとの事で各人の状況を聞いてきた。メンタルケアも重要だし個別面談に(いな)やはないので率直に報告する。

一通り報告した後に先のボーナスで女性陣が何を希望したか知っているか知りたいかと聞かれたが、知りたくないと答えておいた。

俺に知っていて欲しいのなら本人が言ってくるだろうから、言ってこないという事は積極的に知られたい訳ではないと思っている。ならば俺は知らないままの方が良い。


■■■

文昭という人間重機が来ているのだから穴掘りをしてもらう。具体的にはオリノコ川取水口予定地と恵川溜池予定地からの用水路の掘削。

この間チマチマと溝を掘っていたのだが概ね行けると踏んだので試掘した溝を拡張する。


「この溝を拡張する感じで掘ればいいのか」

「ああ幅八百(ミリメートル)、深さ五百(ミリメートル)ぐらいで頼むわ。掘り出した土は堰に使うから適当に山作っといてくれ」

「一キロぐらいか?」

「直線距離ならな。水路は一.五ぐらいある」

「えらい曲がりくねってねぇか?」

「等高線に沿って引かざるをえないからしかたが無かったんだよ」


実際には等高線の他にも植生とか土質にも左右される。木が生えてたり地盤的に怖い場所とか岩とか……それらを避けようとするとその分標高が上がってしまう。中にはやむを得ず三メートルほどだが橋を渡す箇所もある。


「一,五〇〇メートルか……二十日ってとこか」

「一日に七十五メートルなんて掘れる訳ないだろ」

「掘れんか?」


埋まった水路を掘り返すのなら土は柔らかいし見かけ上の密度もないから百メートルでも二百メートルでも掘れるかもしれないが、新規でとなると(くわ)鶴嘴(つるはし)で崩してエンピで土を排除って具合になるからそうそう進まない。


「……もし昼までに三〇メートル掘れたら次の酒の取り分の四合をやるよ」

「マジか!?乗った。よっしゃ!(たぎ)ってきた」

「おっ……おう」


幅八十センチメートル、深さ五十センチメートルの水路を一人で掘るなら一日で十から十五メートル、良くて二十メートルが限度と思ってる。二十メートルとなると掘り出す土は八立米になり概算だが十数トンに達する。一日で七十五メートルというのは通常の三倍から五倍以上。赤く塗っても届かない。だから昼までに三十メートルなんで無理・無茶・無謀。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。


昼食後に酒の譲渡証書を書きましたとも。

アルコールで動く重機と思えばいいのか?


■■■

水路掘削は文昭に任せて、匠を誘ってサのや跡地にきている。跡地の処理について相談するためだ。


跡地は深さ六十センチメートルほどの方形状の穴になっているから安全を考えれば埋め戻した方が良い。放置しておくという考えもあるが落ちたりしたら危険だし、雨水とかが溜まったりしたら蚊が発生したり腐敗したりで面倒くさい事態になるかもしれない。なのでオリノコ川の岸から砂を採取して埋めようと思っている。


基本的に土というのは地べたでは圧縮されているから、土質にもよるが掘り返すと見かけ上の体積は二、三割増える。岩石も空隙ができるので見かけ上の体積が増えてしまう。だから埋め戻すと見かけ上増えた体積は何れ圧縮されて沈下という形ででてくる。だからローラーやランマーなどで転圧して引き締めるのはもちろんだが、沈下分を見込んで余分に盛って(余盛りという)おく事になる。


砂はこの見かけ上の体積の増加が比較的小さい、つまり沈下量も少ないという事と、砂質土壌は“水締め工法”に適応があるので砂を選択した。


水締め工法というのは、恐ろしく単純に言えば“雨降って地固まる”という事。

水を含むと水が潤滑剤になって流動性が出てきて空隙が埋められて密度が上がる。水が他に浸透していったり蒸発していくことで前より堅固な地盤になる。砂より粒子が細かい粘土や粗い石礫ではこの現象が起き難いので水締め工法は砂地を固めるのに向いている。状況次第というのもあるが波打ち際を車が走れる千里浜なぎさドライブウェイのように堅く締まる事もある。


また、水を含んでいる時に振動を与えると緊密化が進むので現場によってはバイブレーターを使うこともある。水が抜け出る速度よりも速く緊密化が進むと水の行き場が無くなって噴出してくる事もあるぐらい締まる。これが自然の状態で起きるのが大地震などで起きる液状化現象。


「埋めちまっていいよな」

「俺に聞くことか?」

「一応、考古学の徒としての意見を聞きたい」

「何故こんな事をしたのかを陶板か何かに書いて一緒に埋めたら未来の学者の画期的発見になるな」

「人工的に埋め戻す事には」

「地盤の連続性から判別できるしそれも資料になる」

「じゃぁオリノコの人らが良いって言うなら埋める事にするわ」

「すぐ取り掛かるのか?」

「一輪車が来てからだな。そうじゃなきゃ面倒過ぎる」

「何トン単位だから運搬効率が違うか」

「あぁせめて一輪車でもないとやってらんねぇ。モグちゃん号がありゃ数時間で終わるけどなぁ……」


サのや跡地を埋め戻すには十トン強の土が必要になる。桶で十キログラムずつ運ぶとすると千二百回ぐらいかかかるけど一輪車なら六十キログラムぐらいは載せられるので二百回ぐらいで済む。


「一輪車は貸し出しかもしれん。作るとしてもパイプが鋳鉄だから重すぎるのとタイヤとベアリングも含めて使いづらい物になりそう。リヤカー擬きと違って自転車の車輪を流用する訳にもいかないからな。そうそう、佐智恵がオリノコで炭焼きはやらないのかって言ってた」

「松炭か?」

「それと木酢な。欲しいのは木酢じゃなくてメタノール(木精)の方だと思うけど」

「製鉄とBDFだから分かるけど……」

「どうせアースダムで使う土を掘る事になるんだから跡地を炭窯にすりゃいいじゃん」

「前向きに検討します」


文昭はエタノールで動き、佐智恵はメタノールかよ。

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