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文明の濫觴  作者: 烏木
第4章 冬篭り
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第15話 資材繰り

防災倉庫の作成場所の目星は付けたので、留山山頂に三角点を設置して(トータル)(ステーション)で測量する。建てた後は基本的には放置に近くなるので念には念を入れて調べている。


闇雲に掘ったら雨水などが溜まってしまうので、雨水が入らないように、また入っても出ていくように作らないといけない。

また、美浦からのアクセスが劣悪だと作ったり納めたりするのに難儀するからこれも考慮する必要がある。


測量が終わったら諸条件を勘案して図面を引いて必要資材の見積りが待っている。土木は工事はともかく、設計は誰も手伝ってくれないから孤軍奮闘……


倉庫の屋根は石造りが良いと思っている。

横井戸(トンネル)と違って作業性は良いから石でもいけそうだし、レンガ造りにするとそれこそ資材的な意味で横井戸にあたえる影響が半端ない。そんなにスパンはないから木でもいいんだが経年劣化と止水に不安がある。


岩を渡し掛けて蓋をするには長さ四メートルの岩が必要なので厳しいが、石橋の要領でアーチ屋根にして雨漏りしないよう三和土で被覆する。それと壁が崩れないようにする土留めの擁壁も水を遮断してもらわないといけないので石組みにして隙間を三和土で埋めて更に被覆する。さらに水の逃げ道を外周に拵えてやれば倉庫には大きな問題は起きないと思う。


問題があるとすれば、三和土の材料確保と搬入手段かな?

防災倉庫の床面積が約二十五平米で、のべ壁面積は四十四平米ぐらいだから……擁壁や床や屋根に使う三和土は約二.四立米……四トンぐらいになる。

四トンの三和土を作るには貝灰が〇.五トンとニガリが二十六斗(四六八リットル)ぐらい……あと誤差の範囲になるが壁面の仕上げに漆喰を塗るとしたら貝灰が七十キログラムとすさやフノリが十数キログラムぐらいか。

石、砂利、土といった骨材は現地調達できるのでマシだが、貝灰とニガリを各六百キログラムぐらい運ばないといけない。こりゃモグちゃん号で近辺まで運んでくるのが上策だな。そうすっとモグちゃん号が上がってこれるアクセス路を設置場所まで引かないと……まぁ納める時にも使えるからいいか。


しかし、材料確保は頭が痛い。材料も勝手にできる訳じゃなくて資源から作らないといけないのだが資源も加工も課題がある。

まず貝灰(消石灰:水酸化カルシウム)だが、六百キログラムの貝灰を作ろうとすると炭酸カルシウムが八百キログラム以上いる。いくら貝殻の主成分が炭カルとはいえタンパク質やミネラルなど他の成分も相当量あるから歩留り含めて貝殻が一トンぐらい……牡蠣殻が一個百グラムとして一万個だから毎日一人三個食べて三ヶ月ぐらいかかる計算になる。

これ、防災倉庫一つ分でだから……たくさん貝を食べれるね。


貝殻は貝灰だけじゃなくニワトリにも必要だし貝灰も釉薬用に欲しいとかいう要望も……その内に貝殻目的で採取して身は食べずに肥料や飼料にするなんて事もあるかもしれない。……どっかに石灰岩埋まってねぇかなぁ。


もっと酷いのがニガリで、製塩時の副産物として重量比で食塩五に対して液状のニガリが一ぐらいの割合で取れる。だから必要量の六百キログラムのニガリを取るには食塩を三トン製塩した時に取れるニガリを全部つぎ込む必要がある。元になる海水は約百トン。三トンの食塩に百トンの海水……うん。それ無理。


現代ならニガリだって日本だけでも年間何十万トンもできるからちょっと金を出せば入手できるし、安価な塩カル(塩化カルシウム:融雪剤や除湿剤)でも代用できるんだけど……いっそ佐智恵にソルベー法で塩カル作らすか?


ニガリの代用で海水を使う手もある。海水をそのまま使うと濃度が低すぎる気がするが、海水、流下盤を通した鹹水、枝条架を通した鹹水など色々試せばいける可能性はある。三和土も土質や含水量などで配合を変えるのが職人技らしいからそれぞれがどれぐらい硬化するのか実験してみないと何とも言えない。実験や配合調整は匠に丸投げしたい。好きだろそういうの。


防災倉庫を建てようとすると、アクセス路の整備や貝類の消費、製塩、それに燃料資源との兼ね合いもでてくるし……何かやろうとすると副次的にやらないといけない事が折り重なってくる。

実際に必要になるのは半年以上先の話だからちゃんとタスクスケジュールを組んでやれば何とかなるだろう。だけどプロジェクト管理は将司にお任せしたい。


■■■

暦は一月の末。匠と将司を交えて恒久住居計画の確認をしている。

人数が十七人増えたのと資材繰りが怪しくなってきているのが原因で恒久住居計画は四回ほど変更が入っている。基本的には将司が疑問点を出して匠と俺が答える構図になっている。


「単身者が二十七人で男女比が一対二ってのも頭が痛いな」

「中廊式で二十部屋の棟と十部屋の棟を作って女子寮と男子寮にするか、十部屋の棟を三つにして内二つを女子寮が無難だろう。後は四Lの平屋三つが家族寮で、管理棟に広間と厨房と風呂と談話室が幾つかあたり……日照とか色々考えた結果だが、こんな感じでどうだ?」


匠と俺の共同作品のポンチ絵を見せながら説明する。

女子寮が二十部屋のA案は中央に管理棟があり、管理棟を挟むように東に女子寮を西に男子寮を南北方向に建て、北側に家族寮を配置する。各棟は管理棟の北側から廊下で繋がっている。

纏められるものは纏めたので多分使用資源は少なくて済む。反面、厨房や風呂が近い位置になる個室がでるので部屋によっては住み心地に差が生じ兼ねない。


B案は管理棟が中央下にあり、住居は全て北側に配置する。管理棟の北側から真っ直ぐ北に廊下が伸びていてそこに東西方向に軒が連なり王の字に似た形をしている。

この案は逆に生活部分と個室が分離しているのと廊下を延長すれば拡張も可能になるが、生活部分から個室が遠くなりやすい。


「しかしどっちも廊下がえらく長くないか?」

「「んなこたぁねぇぞ」」


A案の一番長い廊下が三十メートルぐらいで、B案だと四十メートル近くの長さになる。図で見たり距離を聞いたりすると長いように思うかもしれないが、実はたいして長くない。これ位の長さは小さめのビジネスホテルの廊下と大して変わらないし、下手したらマンションの廊下の方がよっぽど長い。


それと実物の見た目は廊下幅や天井高さによって同じ長さでも長くも短くも感じるもので、語弊があるかもしれないが人間の感覚は結構騙されやすく意外と当てにならない。図面や空き部屋の状態では広く見えても実際に家具などを置くと手狭になったりも普通にあったりする。


「個室の大きさは四畳半ぐらい?」

「六畳で考えてる。四畳半だと寝台と箪笥を置いたら一杯一杯。押入れというか収納が別に要るようになるから占有面積は結局六畳ぐらいになってしまう。個室が三畳も無いシェアハウスもあるから四畳半で無理とは言わないが人によっては結構ストレスになる狭さだぜ。将司だけ四畳半でいいか?」

「そんなイジメはやめてくれ。今が一人三、四畳ぐらいだろ?だからそんなもんだと思ったんだけど」

「オープン空間でパーテーションでの区切りなら息苦しさはあまり感じないが個室になると壁だからくる人はくるものがある。子供は大丈夫な事が多いが、大人だとなぁ……将司は壁に向かって座禅組んで悟り開ける人?」

「分かった分かった。個室の広さはそれでいい。ところで全部平屋?二階建てとかは検討した?」

「土地が足りないなら二階建てもあるけど、高くする必然性が無いなら平屋の方が安パイ。二階の高さまで届く柱を()らなくても良いし、基礎が倍になってもメリットが大きい」

「なら良い。この二案をブラッシュアップして管理書とパンフにしてくれ」


管理書ってのは、プロジェクト――今回は恒久住居を建てる――を管理するための諸々のツールを指す俺らのローカル用語。

プロジェクト規模にも因るが、プロジェクト計画書とWBS、課題管理表、スケジュール表あたりは鉄板で、今回なら設計図、施工図あたりも要るか。施工図はどっちにするか決めてからでもいいかな?


そんで、パンフはパンフレットやリーフレットのように分かり易く簡潔に説明するための物。こっちは総会で両案を検討できるように論点を抽出しておく。

全員に配布するのも面倒というか難しくなったので木板に大書して事前に掲示する形態が多くなった。


「そっちの話は終わった?」


酒母造りが一段落して仕込みにかかるまでの中休みに入っている奈緒美が見計らって声を掛けてくる。

さっきから美野里や榊原くんたちと談笑しながらチラチラこっちを見ていたのは分かっていたが「ノリさんにさせれば」とか「何でも屋は何にでも使わなきゃ」とか不穏な単語が耳に入って嫌な予感しかしなかったから無視してたんだ。


「あぁ一段落ついたとこだ」

「じゃぁちょっとこっちの相談にのって」

「やだ」

「分かった。そろそろハーブも植えたいんで縁切りとかやってね。十五坪を十箇所、五畝でいいから」

「おい……俺はやだって言ったよな」

「相談が嫌って言われたから要求にしたんだけど……ノリさんは良いかもしれないけどそろそろ塩味だけじゃみんなキツイんだよ?飲み物もバリエーション増やさなきゃだし……マサさん!ノリさん使っていいよね?ん?カレー?そうそうその件。うん。ありがと……マサさんも良いって言ってる」


カレー大好き芹沢将司。既に陥落済みでしたか……

俺が拒否してるからハーブ香辛料が作れないって流れにするな!俺を悪者にするなぁ!悪いのはアレだろうがぁ!


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