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文明の濫觴  作者: 烏木
第12章 北へ
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第17話 採掘地決定

申し訳ないが滝野は楠本さんに任せて石灰岩採掘場候補地に向かう。

調査に重量物は持って行けないのでANFO爆薬は滝野の土蔵で厳重に保管しているので併せて楠本さんにお願いしている。


鴨庄から採掘場候補地に向かっているのは美浦から来た五人と先遣隊の四人がいるから総勢十人という大所帯。

そしてその大所帯の半分以上が俺の家族だけどそれは言わないお約束だし、美浦は全員が全員の親戚みたいなものだ。


美浦の人口と共同生活のような生活様式とか子供は保育園から基礎学校まで常に顔を合わせている事などから全員が馴染みではある。

中には馬が合わない者もいるがそれは仕方が無い。双方が互いの人権を尊重して一線を越えなければそれでよい。


「スケさん、鴨場ってこの辺りだっけ」

「うーん……もうちょい右手のあっちの方じゃなかったっけ」

「そっかそっか」


緩やかだが水量は然程ない感じの川の群れだな。

下流に堰を造ってまとめて池にしたら越冬数が増えるかもしれない。


「……あった! あっちです」


道案内の義秀が目印の布を見つけて進行方向を指し示す。

昔やったなぁ……確か美浦とオリノコを結ぶ経路の木に布を括りつけて目印にしていた。


義秀が指差した方向の少し右側に山が低い場所がある。

周りは遠近の違いはあっても山が連なっているけど、距離や比高を考えるとあれが戸平峠(とべらどおげ)だろう。


「あそこの峠か?」

「…………」

「義教、ざっと見ただけでおおよその地形図と自分の位置が分かるのは義教だけ」

「はあ? 余程の方向音痴でなけりゃ誰でもできるだろ」

「それができれば遭難する人はいない」

「異議あり。通れる通れないはその場に行かなきゃ分からないし一方通行な事もある。それに怪我をして動けないとかもあるから自分が今いる場所が分かっていても普通に遭難はあり得る」


他にもホワイトアウトなどで感覚が麻痺させられたら、自宅のすぐ傍のようなよく知っている場所でも遭難はあり得る。


「……異議を認める。遭難は言い過ぎた。でも……みんな、あそこが戸平峠と分かった人、挙手」


……誰も手を挙げない。


「私の勝ち」

「はいはい。それで構いません」


白石さんは記憶をたどってたどり着いたわけだから絶対に俺の特殊技能ではない。


「……ええっと、改めて。あっちですが、ちゃんとした道はないんで足元に注意してください。前回は何回か危なかったです」


フラグ立てるな。


■■■


「三つある内の、最初はここです」

「面倒な……」


石灰岩の露頭が斜面に埋まっていて山体からニョキニョキと石灰岩の岩盤が生えてきたという感じに見える。


石灰岩や岩塩は他の岩盤に比べて比重が軽いから地表に押し出されてくる事が多い。

押し出された石灰岩や岩塩は地上で山や丘を形成する事もよくあるし、大規模な塊だったら高原を形成する事もあって石灰岩が高原を形成したらカルスト台地になる。

多雨多湿の日本だと地表近くの岩塩は水に溶けてしまうから日本で岩塩の山や丘は寡聞にして聞かないが、大陸などでは少雨乾燥な地域もあって岩塩の丘も普通にある。


石灰岩はその成因の多くが億年単位の太古のサンゴ礁なので比較的温暖な海洋の海洋プレートの沈み込み帯の近辺に多くなる。

日本に山体全部が石灰岩という山が幾つもあるのはそれが理由。


ここもそうやって押し出されて浮き上がってきたのだろうが、完全に浮き上がっているわけではなく、上部に別の地層が被さっていて、下手に採掘すると上が崩れ落ちそうな感じだ。


「採掘は骨が折れそうだな」

「透かし掘りになりそう」

「さすがにそれは許容できないな」


現代での露天掘りでの採掘は上からやるのが常道で、どうしても下からしか採掘できない場合は下から掘り進めることになるが、掘った上にも採掘対象があるやり方を『透かし掘り』などと言う。


このように下から掘り進めるのは日本の法令では原則としては禁止されていて、どうしても下から掘り進めるしかない場合は支保工などで上が崩れてきても安全が確保できる状態にする必要がある。


特に発破をかける採掘方法で透かし掘りをすると、破砕されなかった上の部分にもダメージが入るのでとても崩れやすくなる。

しかし、ダメージが入った上側は脆くなるので発破孔を開け易いとか、発破すれば下に崩れ落ちるから効率的だと違法を承知でやっていた採掘場も昔はあったらしい。

人命軽視な時代もあったものだと思うかもしれないが、昭和の半ばぐらいまではそんな所もあったそうだ。


「ここは後回し。試験発破も危険だからやらない。どうしてもここで採掘する場合は手掘り」

「同歩」

「上の山ごと取っ払えば可能性はあるけど」

「山を動かすような真似をするぐらいなら“もっと良いとこ探そうぜ”になる」

「それはそう。中四国や九州北部だけでも石灰岩地形は幾らでもある」


山口県の「秋吉台」福岡県の「平尾台」愛媛県と高知県にまたがる「四国カルスト」が日本三大カルストとも称されているが、それ以外にもカルスト地形や石灰岩鉱山は山ほどある。

現代日本の石灰岩の年間生産量を県別にみるとトップは大分県で全国の約二割を占めていて、次いで山口県・高知県・福岡県がそれぞれ約一割を占めており、四県で全国生産量の半分を担っている。


義秀(ヒデ)、ここはもういい。次行ってみよう」

「セルヴァ」



「しょぼい。次に行こう」


それが二番目の候補地を観た佐智恵の第一声だった。


「しょぼいですか?」

「うん。しょぼい」


佐智恵と義秀の両者の言い分は分かる。


幅三〇メートル奥行き一〇〇メートル高さ三メートルぐらいある石灰岩の岩塊があった。

宅地造成するならこれぐらいの広さを道路で囲んで一街区にして一六から二〇(ひつ)(筆は土地の登記単位)ぐらいを設定する。

単純計算なら地上部だけで二五トンぐらいはあるので素人目には大きいと思うだろう。


しかし、石灰岩の採掘(日本の石灰岩鉱山は全て露天掘り)で運搬に使うダンプカーは一度に一〇〇トン程度運べるからそれの四分の一の量でしかない。

現代日本と比べるのは卑怯だからと比較対象を近世レベルにしても、その頃の石灰窯の最大規模は一回の操業で三〇トンの生石灰を生産するので原料の石灰岩は六〇トンぐらいになるから、一回の操業分の半分にも満たない。


ちなみに地上部だけにして地下に埋蔵されているであろう分をカウントしていないのは、地下に埋まっている石灰岩はコストをかけて地上に持って行くと採算が採れないから普通は採掘しないから。

レアメタルとか貴金属とかの高価値な物なら地下深くまで掘って地上に運んでも採算は採れるが、石灰岩はそこまでの価値は無い。


だから自家消費分だけ細々と作るというような事でもなければ絶対に採掘対象にはならない規模でしかないのだから、佐智恵がしょぼいというのは仕方が無い。

俺もしょぼいと思うもの。


「佐智恵、発破の試験とか研修とかなら使えないか?」

「使えない。直ぐ無くなる。次も駄目だったらここを全部爆砕して御仕舞いにする」


……次がまともな事を願う。



「ここが最後ですが、白石さんの一推しで、僕も一推しです」


成る程、一推しというのも分かる。

山肌に沿って石灰岩の岩盤があるっぽいくて、採掘に要する労力や安全性に懸念はないし、埋蔵量もそれなりにありそうだ。


「ヒデ、順番は誰が決めた?」

「白石の小母さんですが、僕もこの順番が良いと」


一番目は『埋蔵量はあっても採掘難度がとても高い』

二番目は『採掘難度はとても低いが埋蔵量がない』

そして最後が『採掘難度が許容範囲内て埋蔵量もある』


誰がどう考えても最後一択でしょう。

駄目な方から観せるのは確かに手としてはあるが、最後だけ観せるで良かったのでは?


「義教、詳細を調べてくる。義佐(スケくん)、義弘、ついておいで」


止める機会を逃した。


「火薬庫をどこに置くとかもあるから仮設本部つくろうか」

「セルヴァ。ここを駐屯地(キャンプ地)とする」


……まあいいや。

司くん、任せた。


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― 新着の感想 ―
発破かぁ。どこでも良いって訳じゃないですしね。 しかし、順番はともかく、3ヶ所回る必要性……。ま、いいか。
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