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文明の濫觴  作者: 烏木
第10章 幕間
247/288

幕間 第23話 末路

時系列的には次章とオーバーラップしますがここで章を切ります。

あまり読み味の良い話ではない幕間ですので、本日、幕間を二話と次章の第一話の三本をあげます。



――――――――――――――――――――――――


今話は少しホラー風味な部分があります。

閲覧にはご注意ください。


――――――――――――――――――――――――




私の名は宮原大輔。

創都に住むウィッシュ・クリエイトの信徒である。

そして同じ境遇の阪本春樹、水上翔太とともに創都の最年少の一人。


四十を過ぎたが最年少。創都で生まれた子はおらず次世代がいないから私達は永遠の若手。


創都を出ていった者達には何人もの子が生まれているが、創都では私に限らずパートナーもいてやる事もやっていたのだが、ただの一人も生まれていない。

これってあり得る確率なのだろうか?

正直、呪われているのではないかと思う。


そう思っていたが、やはり呪われているのだろう。


世界は闇に包まれた。

空は漆黒で光が差さず、只々火山灰が降りしきるのみ。


創造主様は、私に、私達に、何をお望みなのだろうか。


『古き世から新しき世に移りし者たちよ 知り栄え文明を築くがよい』


確かに私は創造主様の御声を聞いた。

私達は神に選ばれた選民だと思っていた。


あれから三十年近く主教代行が主導する教導部の指示に従い奮闘してきた。

私達は新世界に光をもたらす存在であるし、この創都を鎮る防人だと思っていた。

その信念の無い信仰の乏しい輩は創都を去って行った。


しかし、教導部の四人が相次いで天に召されてから、私達は何をすれば良いのか分からなくなり、唯々漫然とすごすだけになった。


火山灰が降り続く。

創造主様は不甲斐ない私達にお怒りになり天罰を下されたのだろうか。


天罰だとしたら私はこのまま消えていくのだろうか。

真っ暗闇の中、私はそう思った。



天変地異以降の創都では一雨ごとに泥流が襲い掛かってくるようになった。

今や田畑や建物は度重なる泥流に翻弄され押し流されるか分厚い泥に覆われてしまった。

鉄筋コンクリート造の管理棟は耐えてはいるが、一階部分は窓をぶち破って入ってきた泥流により使用不能になった。


これ以上創都にいる事はできないので、各々が持てるだけの物を持って上の口に避難した。


中間地点の鹿追休憩所もそうだが上の口集落も創都と異なり原型を保っていた。

上の口に詰めていた当番が整備しているので全員が寝泊まり可能だった。


「明日はあと一往復頼むわ」


一度では運び切れなかった荷物を運び入れるため、若手組が明日もう一往復して運び込む。

雑用や力仕事は若手の仕事というのは分からなくも無いが、永遠の若手からすれば堪った物じゃない。


■■■


「川俣に連絡をとろう」


川俣は上の口から横川休憩所、下の口休憩所を経由して片道一日ぐらいのところにある集落。

上の口集落から移住した者が住むのが川俣集落で、どこかから捕まえてきた牛を育てていて畜産が中心産業になっている。


上の口から川俣に移住したのは『若者の結婚を控えて上の口では手狭になった』『川俣なら舟運を使えるので利便性が高い』『上の口は畜産には適さない』といった理由だと聞いている。


上の口と川俣は徒歩で一日かかる距離なので、川俣とは上の口で物々交換をしていた。

月に一度、上の口にやってきて物々交換し、その晩は泊まって翌朝に帰っていく。

上の口当番の話では、降灰以降は連絡が途絶えていて川俣がどうなっているかは分からないとの事。


創都にいた全員が上の口に移動して暫く経ったある日、台風を思わせる大嵐が襲来して食糧が駄目になった。

食糧は炊事場の傍の物置に保管していたのだが、その物置が倒壊してしまい、保管していた食糧は辺り一面に泥と一体化した状態で散乱していた。


鹿追の非常用食糧庫にあった物を全て持ってきて急場を凌いでいるが長くは持たない。

そこで川俣からくるのを待つのではなくこちらが出向いてやろうという事になった。


「すまんが、よろしく頼む」

「横川と下の口に食糧が残っていたらそれも頼む」


はいはい。永遠の若手が出向くのですね。



川俣はもぬけの殻だった。誰もいない無人の集落。


倉庫には錠が掛かっていたが、家捜ししたら鍵は簡単に見つかった。

そして倉庫の中には食糧がたんまり残っていたから、リヤカーを拝借して全部上の口に運び入れた。


挨拶も無しに勝手にいなくなったのだから好きにしていいだろう。


量が多かったので一度に運ぶのはとても無理で、十日間かけて五往復もした。

あと、横川と下の口の非常用食糧庫にあった物も全て運び込んだ。

非常事態なのだから非常用の備蓄を使っても問題ない。


借りたリヤカーは返していないというか壊れてしまったから返せない。


五往復目の分を積み終えたときに微妙に積み残しがでてしまった。

大量に積み残っているのならもう一往復になるが、もう一往復するのは如何かという量だったので無理矢理リヤカーに載せた。

そのせいなのか上の口に到着する寸前に壊れてしまった。


結構苦労して持ち帰った食糧なんだけど、主力のトウモロコシが不味いと不評だった。

確かに皮が堅いし味も素っ気もなく不味いのは認めるが無いよりはマシだろうが。


■■■


夏の終わりごろから横川に毎月貢物が届くようになった。


横川ではなく上の口まで持ってきて欲しい旨を伝えたが“上の口まで運ぶと帰れなくなるので、もし上の口まで運ぶのが条件なら取り止める”と言われると如何しようも無い。

貢物ももう少し種類や量があったら良かったのだが、一日三食食べられるぐらいの量はあるから贅沢は言ってられない。彼らも大変なのだろう。


貢物は米が主体でご飯の供の漬物もあったが、永遠の若手はトウモロコシというのはどういう事だ?

貢物に添えてあった紙にトウモロコシの調理法が(したた)められていた。

あれは焼いたり茹でたりして食べる品種じゃなく、粉にしてから調理して食べる品種だった。

手間だったが書かれていたレシピ通りに粉にして調理したらそれなりに食べられるようになった。


定期的に貢物が届き『日々の食事の確保』という焦眉の急から解放されて気が抜けたのか、体調を崩して“怠い”“動くと息が切れる”と倦怠感を訴え、日がな一日休む者が続出した。

体調不良は仕方が無いにしても、休む者がでるたびに永遠の若手に負担がかかるんだけど。


それと、朝から酒を飲む輩があらわれた。

貢物の中に酒(名目上は消毒液)があった。

消毒液にしては量が多すぎるし『エタノールなので飲めるが度数が物凄く高いから飲むなら水で五倍以上に薄めてからがお勧め』なんて添え書きもあったから飲む事も想定しての物だと思う。

向こうに嗜好品である酒を出すのを渋る勢力もあって、名目上は消毒液というのが妥協点だったのかもしれない。


それはいいのだが(いやよくない)“やる事がないから”と朝から飲んだくれるのは如何なんだろう。

“やる事がない”ではなく“何もやりたくない”の間違いではないのか?


さすがにこれは少々腹に据えかねたので、酒を出すのを渋ったら……

暴れた。洒落にならないぐらい暴れた。


業腹ではあるが面倒なので酒を与えて大人しくさせる事にしたが、これはもう立派なアルコール依存症(アル中)だろう。


酒を出して大人しくさせてはいるが、酒を飲むと便所が近くなるんだよね。

便所に行くのが面倒だとそこらで致すのは……いや、外で立ちションはまだマシか。

屋内で立ちションとか飲みながらお漏らしは本当にいい加減にして欲しい。

アル中だけじゃなく、認知症状態になっているぞ。


……真面目に殺意を覚える。


■■■


一室で永遠の若手が夕食をとりながら駄弁っている。


「近頃はだいぶ静かになったな」

「前まではギャーギャーギャーギャー五月蠅かった」

「大人しくしてるならそれでいい」

「でも、アル中や病人の介護はもうやってらんねぇ」

「俺ら以外要介護っておかしいだろ」

「俺らだって体調万全って訳じゃない」

「わかりみ」

「正直、俺も酒に逃げたい」

「逃がさん。お前だけ逃げるのは許さんぞ」

「そうだそうだ」


その後も暫く愚痴をこぼし続ける。


「だいぶ涼しくなってきたから衣替えを考えるか?」

「まだいいんじゃね?」

「面倒だしパス」

「二人がまだいいってんなら衣替えはまだでいいとして……そろそろ横川に行かないと」

「まだ米あんじゃん」

「けど、そろそろじゃなかったっけ?」

「……そういや、今日は何日だっけ?」

「あれ? 何日だっけ?」

「もういいや。明日か明後日にでも横川行こうさ」

「……そうすっか」

「じゃ、そゆことで」

「ほんじゃあ、今日はお開きにして寝るか?」

「そうだな。ごちそうさま。お休み」

「お休み。また明日」


愚痴会を兼ねた夕食を終えて自分の寝床に向かう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


十年一日の如き日々をすごし、来る日も来る日も延々と同じ話を繰り返していることに誰も気付いていない。


介護の愚痴をこぼしていたが、永遠の若手に介護した記憶はあるが、実際は介護など一切していない。

誰も他者を顧みず、動けなくなった者は何ら世話をされることなく飲食もままならないまま次々と亡くなっていき、既に永遠の若手以外は鬼籍に入っている。


横川に食糧を取りに行くのも十月半ばが最後だったか、食べる人数が激減しているので十一月の下旬になってもまだまだ足りている。


偽りの記憶で現実逃避している永遠の若手だが、その永遠の若手も既に正気を失っていて現実を認識できなくなっている。

自らが作り上げた偽りの世界の住人になり、現実の強烈な腐乱臭も雪が降る寒さも何も感じていない。


真冬の寒さにもかかわらず真夏の恰好でお茶の間に倒れ伏す、創都在住だった者達の中で()()の生存者である永遠の若手。


「坂本、水上、疲れただろう……僕も疲れたんだ……なんだかとても眠いんだ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 最後まで救い様の無い連中でしたな。
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