第24話 暦の上では夏だけど
夏至を越えて七月に入ってもまとまった雨が降らない空梅雨が続いている。
空梅雨だから晴天続きかといえばそうではなく曇天模様が大半を占めている。
そして偶に思い出したかのように小雨が降ることはある。
曇天で放射冷却が起きないからか霜が降りることはないが、気温もまるで春先か晩秋と勘違いしそうなぐらい低い。
安藤家の由希・一美母子と将司による気象有識者会議によると、太平洋高気圧が発達せず梅雨前線が日本の南の海上にとどまっていて、美浦には梅雨前線の雲の北端がかかっているのではないかという推測があるそうだ。
梅雨前線の北側ということは寒冷な空気なので美浦の気温も上がらないし、まとまった雨をもたらす暖かい湿った空気の供給源である太平洋高気圧が弱いため碌に雨も降らないと。
そういえば、将司がいうには実は太平洋高気圧自体は暖かい『乾いた』空気なのだそうだ。
赤道付近の熱帯で暖められた空気が上昇することで気圧が下がり、この上昇気流による低圧部が明確な中心を持つと台風を含む広義の熱帯低気圧になる。
では、この熱帯で上昇した空気はどこに行くのかというと、マクロ的な視野でみると対流圏と成層圏の境目を極方向に流れていき、亜熱帯あたりで下降して高気圧を形成する。こうした下降気流による高気圧を亜熱帯高圧帯とか亜熱帯高気圧とかサブハイと呼ぶのだが、亜熱帯高気圧は熱帯低気圧などの雲を形成して水分を失った空気が下降してくる事で成立する。
フェーン現象がその典型ではあるが、湿った空気が上昇して雨や雪を降らせて水分を失った後に下降すると上昇する前よりも温度が上がるので、亜熱帯高気圧を形成している空気は場合によっては熱帯よりも高温の乾燥した空気ということになる。
亜熱帯高気圧が海上にあれば下降した暖かい乾いた空気は海から水蒸気を補給するので亜熱帯高気圧の外縁部からは暖かい湿った空気が流出していくが、大陸上にある亜熱帯高気圧は水分を補給できないので暖かい乾いた空気がずっと居座ることになり砂漠化していく。こうしてできた砂漠を亜熱帯砂漠というのだが、世界最大のサハラ砂漠は亜熱帯砂漠の一つといえる。
太平洋高気圧(正確には北太平洋高気圧 南半球の亜熱帯にも高気圧ができて南太平洋高気圧という)はその亜熱帯高気圧の一つであるので暖かい乾いた空気になる。
もっとも、太平洋高気圧は海上にあるし、日本列島との間には暖流である黒潮(日本海流)もあるので温帯の日本列島に暖かい湿った空気を提供する。
その太平洋高気圧が弱いというのは主要な成因である熱帯での上昇気流が弱いという事でもあるので、広義の熱帯低気圧の発生原因の熱帯での上昇気流が弱いということでもある。
しかし、台風や熱帯低気圧、またそれらから変わった温帯低気圧による暴風雨の襲来は十分考えられるそうだ。
太平洋高気圧の中心はハワイ諸島あたりにあって勢力が強くなると東西に広がっていくので、例年だと夏季には西端が日本列島の南の海上に達する。
そして、熱帯低気圧は亜熱帯高気圧の外縁を移動する事が多いので、夏季には熱帯地域を西進してタイやベトナム方面に向かったり、北上しても中国に上陸する事が多くなる。
秋季になって太平洋高気圧の勢力が弱まると太平洋高気圧の西端が日本列島の南海上から東に撤退していくので太平洋高気圧という台風ガードがなくなって日本列島を直撃する台風が増えるのが秋季に台風の上陸数が増える要因である。
更に勢力を落とす晩秋以降は太平洋高気圧はどんどん東に下がっていくので台風は日本の遥か東の海上を北東方向に進む事が多くなる。
太平洋高気圧が西に張り出してこないという事は気圧配置としては秋季の様相を示していることになるので、日本列島の台風ガードがないという事でもある。
だから、これからの盛夏(?)で発生が増えるだろう熱帯低気圧が日本列島を直撃する確率はかなり高いそうだ。
記録的冷夏の年に九州・四国・東海などで例年以上に暴風雨が頻発した例が結構あるらしい。
◇
異常気象、天候不順の影響をもろに受けるのは植物の生長で、ハウス栽培なら如何にかできるかもしれないが、露地栽培だと如何にもできない。
「積算温度が上がらんから露地栽培はキツイ。匠くんには悪いが露地の神丹穂は諦めた方がええかもしれん」
「出穂までなら影響も少ないだろうから何らかの手を打つか、温室で育てている物を出穂期以降は外に出して露地にするあたりか……」
「タクちゃん、温室から出したら受粉せんぞ」
「そうだよ、受粉期に平均気温が二十度を下回ったら不稔率は七割超えて下手すりゃ全滅だってある。それに登熟にも気温は大事。熱帯原産は伊達じゃない」
匠が籾遺の儀に使う赤米の神丹穂は放射性炭素年代測定に使用する炭素十四の割合を大気中の割合に近付けるためできるだけ露地栽培をして欲しいと言っていたが、この異様な冷夏ではとても無理だと親父殿と奈緒美が言っている。
親父殿が言った積算温度というのは毎日の平均気温を足していった値の事で、作物の生長度合いに大きく関わってくる。
寒いと生長が止まったりゆっくりになったりするし、暖かいとぐんぐん生長するから播種や開花からの積算温度が生長や成熟の目安になるのでよく使われるそうだ。
この積算温度は基本的には摂氏零度が基準だが作物によっては基準が異なることがあり、例えば稲では摂氏五度が生長できる下限になるので摂氏五度を超える温度の積算(平均気温が摂氏二十度なら五を引いた有効温度の十五を足す)が使われ有効積算温度ということもある。
寒冷地だと積算温度を稼ぐために早めに蒔いて遅めに収穫することもあるし、温暖な地域だと短期間で成熟に必要な積算温度に達するので作物によっては露地栽培でも一年に二度三度と収穫できる事もあるし、稲作でも二期作や二毛作はやはり温暖な地域の方がやりやすい。
その積算温度だが、異様な冷夏で遅々として上がらない。
水田の水を深くすることで保温する深水管理など可能な限りの冷害対策を打ってはいるが、この異常気象相手ではどうにもならなず、稔るどころかこのまま枯れる恐れが大きいそうだ。
“今シーズンはどうにもならないから諦めよう”というのは専門家としては苦渋の決断だと思う。
「タクちゃん棟梁、これは今年だけの話でなく数年続くと思った方がいいから、拘るなら排気が入らない暖房方法の温室を考えた方が良いと思う。まあ暖房効率は落ちるだろうから燃料との兼ね合いで規模は制限させてもらうけど」
「確かに排気を入れなければ……理久くん、どれぐらいの規模まで許される?」
「暖房効率次第としか今は言えない」
「それはそうか。愚問だった」
温室というかハウス栽培だと燃焼させた排気をハウス内に放出する事がある。
外部に排気するというのは熱を外に逃がしている事でもあるのでハウス内に排気するとハウスの暖房効率が良くなるが、それ以外に排気ガスに含まれる二酸化炭素を供給するという目的もある。
二酸化炭素濃度が高くなると光合成の効率が良くなり生長が促進されるので、二酸化炭素が低濃度になりやすい冬場には暖房以外にも炭酸ガス発生装置を使ってハウス内に二酸化炭素を供給する例もある。
暖房効率も栽培効率も良くなるハウス内への排気は匠の目論見である大気中の炭素十四の記録という目的にはそぐわない。
「タクさん、暖房効率もだけど、室温を上げすぎたらそれはそれで高温障害が発生するからね」
「高過ぎず低過ぎず……まあ当たり前っちゃ当たり前だが……」
「そうそう、暖房といえばノリさん。このまま推移すると他所のスプラウト栽培は下手すると十月には暖房がいるかも。それと美浦も真冬は場合によっては」
「急ぐ必要があるか……もうちょい設計を詰めてみる」
「ノリ、普通の薪ストーブじゃ駄目なのか?」
「酸欠の恐れがあるからな。屋内の酸素は消費したくない」
種子に貯めている栄養を利用するには酸素を吸って二酸化炭素を吐く呼吸が必要だから発芽するときには酸素を消費するし、発芽時だけでなく生長するにも酸素を消費する。
もやし栽培においては酸素濃度が一〇パーセント程度までなら特段の障害はないが、八パーセントぐらいになると酸素欠乏による障害が顕著になるそうだ。
こういう研究結果があるということは、滅茶苦茶換気が悪い栽培環境下では二〇パーセント以上ある大気中の酸素濃度が八パーセント以下まで下がって生長障害が発生した事があるという事だと思う。
もやしが酸素濃度一〇パーセント程度なら大丈夫というのは、植物は土中から芽を出すのだからそれぐらいは耐えられないと生き残れないのだと思う。
では、これが人間だったらどうかというと……たぶん死ぬ。
酸素欠乏・硫化水素危険作業主任技能講習でも習ったが、人間が通常通り活動できる酸素濃度の下限は一八パーセントとされていて、酸素欠乏症等防止規則などには酸素濃度が一八パーセント以上になるよう換気するよう定められている。
一八パーセントを下回るとだんだん呼吸や脈拍が増加して頭痛や吐き気などを催すようになり、一二パーセントを下回ると眩暈や筋力低下が起き出すし、酸素欠乏症の後遺症や酸欠で死亡するリスクが現実味を帯びだす。
そして八パーセント以下になると失神昏倒するし十分以内という短時間で命を失う。
只でさえ大量の種子が発芽や生長のために酸素を消費するスプラウト栽培小屋で暖房のために酸素を消費すると、小屋に入った人間が酸素欠乏や場合によっては不完全燃焼で生じた一酸化炭素によって死傷する恐れがでてくる。
だから室内の酸素を消費しないのは絶対条件としても、定期的に外気を入れて換気したいのだが、外気温が低いから暖房するのだからそのまま換気しては意味がない。
「そうなるとFFかCH……」
「そゆこと。欲を言えばラジエーターで暖めた外気を送風する間接暖房が最適なんだが……」
室内の酸素を消費しない暖房方法としては幾つかある。
現代日本で一番普及している屋内の酸素を消費しない暖房方法はエアコンだと思うし、他にも電気ストーブなど電気を使用する暖房方法は屋内の酸素を消費しない。
しかし、これらは美浦はともかくとして、現状だと他の集落では使えない。
現状で実現可能性がある屋内の酸素を消費しない暖房方法の一つは現代日本では北海道などの寒冷地や雪国でよく使われている強制給排気式と言って、外気を取り込んでストーブを燃焼させてその排気は外部に排出するという方法がある。
この強制吸排気方式をFF式と呼ぶのは、一説によると Forced draft balanced Flue type の略だとされているが、俺にはこれがどうしてFFと略すことになるのかがよく分からない。
実はFF式に似た物に、排気ファンなどで排気を強制的に屋外に排出し吸気は室内から自然吸気に任せる強制排気式という物もある。
こちらは“FE式というのはForced Exhaust typeの略だ”と言われても違和感はない。
だから、俺はFE式を更に進化させて吸気も強制にしたからEの次のFという事でFFにしたんじゃないかと思っている。そして Forced draft balanced Flue は後付けのあいうえお作文的なものじゃないかと。
それはともかく、普通(?)の石油ストーブは吸気も排気も屋内の空気という開放式なので、燃焼後の高温の気体を室内に放出するので室内が素早く暖まるという利点はあるが、室内の酸素を消費して排気も室内に放出するので、野外とか大きな開口部があるなど気密がガバガバな状態とかでもなければ、定期的に換気しないと事故が起きる。
起きている人間がいる間だけ暖房できれば十分という地域ならそれでも問題はないが、常時暖房していないと水道管が凍結するリスクがある時季もあり下手すると室温が氷点下に下がる可能性もある極寒の地では、換気自体が室温を激変させるし、そもそも無人時や就寝時には換気自体ができないから開放式のストーブは使い辛い。
だから室内の空気から隔離した閉鎖系の燃焼室を作って、屋内ではストーブの輻射熱を主体とした熱源を暖房に利用する方法や、その熱源に風を送って暖まった空気で室内を暖めるファンヒーター方式ならそれらのリスクが避けられるため、最高気温が氷点下という真冬日が珍しくない北海道などでは燃料の灯油自体も屋外のタンクに直結して途切れることなく暖房できるようFF式が普及している。
一般家庭だと費用やら規模やら効率やら何やらを考えるとFF式がお手頃なのだが、セントラルヒーティングも屋内の酸素を消費しないし現状でも何とかなる方法。
セントラルヒーティングというのは、個別暖房や局所暖房と呼ばれる『暖房したい場所に熱源をおいて暖房する』方法に対して、『一箇所の熱源で発生させた熱を暖房したい場所に分配して暖房する』方法のこと。
セントラルヒーティングの熱源自体は燃やす物がゴミでも石炭でも石油でもガスでも構わないし、熱さえ発生するなら燃焼に限らずヒートポンプでも電熱線でも地熱でも何でもよいので、実はセントラルヒーティングは熱の移動のさせ方で分類されている。
熱源で暖めた空気を暖房したい場所に送風する空気で熱を移動させる方法を「間接暖房」といい、他の媒体を使って暖房する場所に熱を移動させて暖房する方法を「直接暖房」という。
そして、直接暖房は更に細分化できて、熱を移動させる媒体によって「蒸気暖房」や「温水暖房」などに分けられる。
ボイラーで発生させた高温の蒸気を送り込むのがスチーム暖房で、熱源で暖めたお湯で暖房する場所に熱を移動させるのが温水暖房になる。
一応、燃焼後の高温の排気を移動させて暖房する方法もないわけではない。
ローマのハイポコーストや中国の火炕や朝鮮のオンドルといったものがそうなのだが、この方法は排気が屋内に漏出して一酸化炭素中毒や二酸化炭素中毒が発生するリスクは低くない。
現代では同じ作るにしても安全性を高めたものに改められていて、文化財としてならともかくとして昔の構造と使用方法のまま新設されることはまずない。
「まあ、CHはキツイな」
「一応FFが最有力候補だがFFもFFで問題があるし……何れにせよ輻射方式は拙かろうから対流方式を希望だが……」
「……だな」
輻射方式の暖房というのは電気ストーブがその代表例だが、熱源から放たれる赤外線に当たって熱を感じるという暖房方法で、熱源が発する光が当たっているところだけが暖かくなる。
赤外線を受ければ直ぐに暖かく感じるので即効性が高く、暖房便座の中には座った瞬間に赤外線を発して瞬時に暖め、使っていないときは通電しないという省エネタイプの物もある。
しかし、輻射式の暖房は室温を上げるのには不向きなのだ。
輻射式でも室温は上がるのは上がるがとても効率が悪い。
今回の目的としては室温を上げる事なので、熱源で空気を暖めてその空気を室内に循環させることで室温を上げる対流方式の暖房が望ましい。
対流方式には大きく分けて二種類の様式があって、放熱部であるラジエーターに風を当てて強制的に空気を循環させる方式とラジエーターを室内に置いて暖まった空気が上昇して自然に対流させる方式がある。
前者の強制的に循環させる代表がファンヒーターで、後者はスチーム暖房やオイルヒーターとかのラジエーターが剥き出しの奴とかパネルヒーターが比較的目にしやすいものだろう。
俺がスプラウト栽培小屋の暖房で“欲を言えば”と言った方法はセントラルヒーティングの間接暖房にあたる。
この方法だと外気を暖めて送風することで栽培室内の暖房と換気が両立できるのだが、悲しいかなこの方法を採るのは難しいと思っている。
どういう事かというと、これを作るには別室にFF式のファンヒーターやパネルヒーターを設置して暖房し、その別室の空気を送風するという形態に近くなるので、凄く迂遠な方法になってしまうという事。
換気ができるというメリットはあるが、屋内の酸素を消費しないだけなら他の方法の方がコストが軽いというか、栽培室内にFF式のファンヒーターやパネルヒーターをおいて暖房した方がよい。
「秋川のおやっさん。露地はもう手を掛けず成り行きに任せます」
「すまんな。さすがにお天道様には勝てん」
「ノリ、早急にFF式でファンヒーターかパネルヒーターの線で詰めてくれ。できればハウス栽培の神丹穂の出穂期に間に合わせて欲しい」
「……だそうだが?」
「設計まで頼みます。最終チェックはタクちゃん棟梁がしてください。製作の段取りはその時の状況をみて決めます」
「承った」
匠には“幾ら最終的には追認されるからといって手順を踏まずに決めたら駄目だ”と昔から言っているけど改まらない。
■■■
その後色々と検討を重ね、匠とも相談したが、結論としてはFF式は諦めた。
一番のネックは給排気ファンの動力で、美浦なら電気を使うこともできるが他所はそうはいかず如何にもならなかった。
結局は室外に開放式の熱源を設置してお湯を沸かし、そのお湯を屋内のラジエーターに満たして自然対流で屋内を暖めるという物になった。
物凄くお洒落な言い方をすれば『温水式セントラルヒーティング』なんだけど、ぶっちゃけると薪の風呂釜なんだよね。熱伝導がよい材質と形状の風呂桶のお風呂を沸かして、風呂桶から発する熱で部屋を暖めるという感じ。
自然対流だと暖かい空気は天井に溜まっていき、床近くは冷たいままという事が起きるので、ラジエーターに送風して暖かい空気を強制的に循環させるファンヒーターも検討したけどFF式を断念したのと同じく動力の問題で断念せざるを得なかった。
昔々に出端屋敷にロケットストーブの排気管にスターリングエンジンを取り付けてファンを動かすファンヒーター的な物を設置していたが、これはロケットストーブの高火力で排気管の温度が凄く高くなるから温度差で動くスターリングエンジンで十分な風量のファンを動かせたのでできた事であって、温水程度だと実用的な送風ができるファンを回すには不足だし、スターリングエンジンを含めた物を十二組となるとそこまでの鉄資源もそうだが製作自体も厳しいという現実があった。
それじゃあ、ロケットストーブにすればという案もあるが、ロケットストーブは燃焼効率は高いが頻繁に燃料補給をしないといけないから長時間運転には不向きなのだ。
温水式セントラルヒーティング(笑)だって色々と苦労はしたんだ。
ある意味では常時暖房をする必要があり、少なくとも夜間は点けっぱなしで連続運転が可能というのが要件にあるので、燃料を満載にしたら十五時間は持って欲しいし最低でも十二時間は持ってもらわないといけない。
水は暖めると膨張するから密閉していると破裂する。あと、凍結した場合も破裂する。
かといって水を開放していると湯気などで水がどんどん損失していき下手すると空焚きの恐れもでてくるし、何より湿気や結露が物凄い事になる。
現代だったら圧力が上がれば膨張し圧力が下がったら収縮して圧力が一定範囲に収まるよう調整する密閉膨張タンクを据え付けて終わりだが、その密閉膨張タンクを作る材料がない。
だから匠とも相談しながら現状で製作可能で尚且つ性能や運転方法が実用範囲に収まる状態に何とか持っていった。
色々工夫を凝らしてはいるが無理に無理を重ねた代物なので、正直なところ暖房能力は貧弱で、試運転の結果からの類推だが、外気温が摂氏零度だと室温は摂氏十五度ぐらいまでしか上がらない可能性が高いので、もしこれが居室の暖房だったら失格になるが、植物用という事で妥協した。
欲を言えば摂氏二十度以上まで上げたかったが、最低条件の摂氏十度以上はクリアできると思うし、貧弱な暖房能力のお陰で室温を上げすぎたことによる高温障害は起きないので、これでご理解いただきたい。