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文明の濫觴  作者: 烏木
第2章 開拓を始めましょう
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第11話 収穫と貯蔵

虫注意。苦手な方は貯蔵方法の話が出たあたりでお戻りください。

梅雨も明け、夏の日差しが照りつける今日この頃。

田んぼでは稲が順調に育っている。

中干しも終え今は間断灌水といって水を張ったり抜いたりを繰り返している。

分げつ数も一株あたり約十六本となった。現代日本だと二十本以上になるのだが、早乙女農林大臣は「まぁこんなもんでしょ」と言っている。

そして畑の方だがジャガイモと蕎麦が収穫を迎える。


蕎麦の収穫は、普通は刈り取って干してから脱穀という流れなのだが、奈緒美は刈り取ったその場で袋の中に突っ込んでワシャワシャ叩いて脱穀まで済ましてしまい、玄蕎麦を陰干しするという方法を採っている。追熟が犠牲になるけどこの方が楽だという事らしい。

収穫高は十五キログラムほどで基本的には秋蕎麦用に蒔くのだが一部は食べる。一人前に必要な蕎麦粉は百グラム前後なので全員が食べると約二キログラム必要になる。一食じゃあれだから二食にすると四~五キログラム……三分の一ぐらい食べる事にする。

十メートル×三十メートル(三畝)の畑で採れた蕎麦を全部食べたとして百五十食。全員で食べたら七食ぐらいが関の山なので二日分ぐらいしか無い。案外取れ高は少ないのよ。


春ジャガイモは本当なら梅雨前に収穫する方が良いのだが植え付けが遅かったのでこの時期になってしまった。来てしまったのだ。恐怖のジャガイモ収穫が……

何が恐怖なのかは農場規模で芋の手掘りをした事がある人にしか通じないだろうけど……

今回は量が知れているので誰もトラウマには成らないだろうけど、俺はトラウマを持っている。ちびっ子三人も移植ごて(小型のシャベルというかスコップというか)片手に芋掘りを手伝ってくれているが、トラウマにならない内に切り上げてもらおう。


踏み鋤を使って掘り起こす。

株を引っこ抜いて土を落として芋を取る。

土を掘り出して篩にかける。


これらの役割をローテーションしながら収穫していく。

最後の土を掘り出して篩にかけるのは、株を引っこ抜いたときに切れて残った芋を採る為なのだが、これを怠ると野良芋が出てしまい色々と悪さをするのだ。

高々三畝なのですぐ終わるけど、農場レベルだと何百倍もの面積がある。それを人力で掘り返すとか、気が遠くなれること請け合いだ。慣れと諦めで黙々と機械になっている自分に気付かされますよ。


「ノリさんはジャガイモ堀りのときは目が死んでるね。手際は良いのに」

「奈緒美かぁ……3反の畑を手掘りした悪夢がフラッシュバックするのよ」

「何それ」

「佐智恵がやらかしたとばっちりでね……連帯責任とかで罰としてやらされた。当の佐智恵は早々に逃げたけどな……天馬の爺ちゃんは鬼だ。小学生にさせるか普通……しかも自分の孫の不始末なのに」

「……ホント昔から苦労してんだねぇ」

「まぁねぇ……ところでどれぐらい採れた?」

「三百六十キログラムって感じ。屑芋含めればもうちょっとあるかな?」


ジャガイモは収穫量の七割を占める北海道が一反で四トン弱採れるので全国平均は三トンを超えるが北海道を除けば一反あたり二トン程度になる。今日採れたジャガイモは三畝で三百六十キログラムという事は反収にすれば一.二トンに相当する。


「六割ってところか。状況から見ればまぁまぁって感じかな?」

「まぁそうだね。五年後には反収二トンまで行けたら良いんだけど」

「反収もそうだけど作付面積増やすなら芋掘り機が無いとな」

「タクさんに相談するよ。サッチは扱き使って良い?」

「とばっちりが来ない程度に……ほどほどでお願いする」

「分かった……話変わるけどここの後作はネギとトウモロコシどっちが良い?」

「別に俺に聞かんでも……奈緒美の勘で決めれば良いじゃん」

「私の勘がノリさんに聞けって言ってる」

「じゃぁトウモロコシ」

「よし。トウモロコシで行こう。施肥よろしくね。ネギなら無施肥で行く積もりだった」

「奈緒美!……謀ったな奈緒美!」


相変わらずいいように使われてんな俺……

一輪車は面倒だからリヤカーで採れる範囲で腐葉土を取ってくるか。

さて誰に手伝ってもらおうかな?


■■■

収穫が終わっても後処理はまだまだある。

奈緒美がせっせと次世代用のエリート様の選別をしている。一番出来が良い物を選抜して次の種にすべく保管する。そうでない物は食べてしまう。

このような人為選択を繰り返した結果、栽培種と言われる人間に都合が良い作物になった。一度原種と栽培種を比べてもらえば分かるがとても同じ種とは思えない位の差異があって驚くことだろう。

天然物を崇拝して養殖物を下に見る人に言いたい。


「お前ら一度原種を食ってみろ。肉も野菜も穀物もほぼ養殖物だ」


量の少なさ、食味の悪さに驚くことだろう。

第一まとまった量が採れる天然物って魚ぐらいの物だけど、天然物こそ何食べてるか分からないんだぞ。中には毒食って毒持ちになってるのもいるし。シガテラ毒とか。養殖物の方がよっぽど安心して食えるのに……

毒魚で有名なフグも陸上で完全管理した養殖物だと毒が無かったりする。

今、俺らの主食となっている猪や鹿も基本的には精肉しか食べていない。勿体無いと思うかも知れないが原則として内蔵は肥料にしている。寄生虫とか色々怖いし。


ジャガイモは大きさで分けてから病気などに掛かっていない傷の無いものを選抜していく。小粒や冗長なものは第一段階で撥ねられ、傷物や虫食い健康でない芋が第二段階で排除され、それをくぐり抜けた中から種芋が選ばれる。

惜しくも種芋に選ばれなかった芋はジャガイモとして食卓に上り、第二段階までに撥ねられたジャガイモの中で危険が無いものは磨り潰してデンプンいわゆる片栗粉に加工して残渣は肥料行きにする。病気などで危ない物は焼却処分。

蕎麦も似たような選別をして種と食用と廃棄に分別する。


■■■

ここで出てくる課題は、どうやって貯蔵するのか。

種は次の播種時期まで置いておかないといけないし、食用も次の収穫時期まで保管する必要がある。

基本的には低温で適度な湿度があって虫や動物に食われない場所。

湿気が多いと腐るし、少ないと干からびてしまう。(種なら低湿で大丈夫)

温度が高いと生命活動が活発になり消耗してしまう。生命活動が低調になる低温やほぼ止まる冷凍で保管すれば種子の寿命は延びる。種子銀行(シードバンク)ではよく冷蔵や冷凍で保管しているそうだ。


そしてここには大きな低温倉庫は無い。

「奈緒美の方舟」は狭義の低温倉庫(摂氏零度~常温ぐらいの一定温度を保つ倉庫)だが、こちらはエリート様を保管するのが精一杯で、それも精々今年か来年まで。いずれエリート様限定でも収まりきらなくなるだろう。

インベントリーとかアイテムボックスなどの収納魔法があるならこんな事で悩みはしないが、世の中そんなに甘くない。


現状採り得る方法は二つ。

一つは穴を掘って収納する。もう一つは高床倉庫を作る。

どちらも先史時代から現代まで世界各地で使われている方法でもある。


穴を掘る方法の方が労力は掛からないが、まだこの辺りの状況を分かっている訳ではないので、虫やモグラにやられたり、カビたり干からびたりして最悪全滅する可能性があるので諦められる程度の量に抑る。調湿材と緩衝材を兼ねた籾殻なども全然足りていないので、今回はジャガイモを三箇所に埋めるに留めた。

留山の斜面に横穴を掘って貯蔵庫にする案もあったが、土留めなどに不安があるので保留にしている。


秋の収穫も睨んだメインの貯蔵庫は高床倉庫にした。

こちらもこちらで色々と課題はある。ネズミや虫からどうやって守るかだ。

奴らはどこからともなくやってきて食い荒らしていく。

縄文時代の遺跡からコクゾウムシという穀物を食害する害虫の痕跡が見られたり、弥生時代の遺跡の高床倉庫にねずみ返しが見られたりと人類は大昔から奴らと闘ってきたのだ。


ねずみ返しは只の板切れに見えるが実はかなり効果がある。現代でも電線などに付けられていて静かに人々の暮らしを守っていたりする。

ある研究によれば、木登りが得意なクマネズミでも五十センチメートルのねずみ返しは越えられないらしい。クマネズミが越えられないのだからクマネズミより下手なドブネズミやハツカネズミは当然越えられない。

そして登呂遺跡の高床倉庫のねずみ返しは約五十センチメートル……凄いと思わない?


ネズミはねずみ返しでシャットアウトするとして、問題は虫。

コクゾウムシやメイガ類といった穀類を食害する害虫をどうやって抑えるか。


小さい頃にカップ麺を作ったら胡麻のような三ミリメートル程の黒い物体が沢山水面に浮いてきた事があった。メーカーがフリーズドライした麺の耐久試験をしていたのだが、その試験サンプルが誤って製品ラインに流されて、試験中に大繁殖したコクゾウムシが商品に混入していたのだ。

祖母ちゃんは「あぁクロムシか。避けて食え。死にゃぁしない」などと事も無げに言いくさった。祖父母世代だと普通に米櫃に沸く身近な(?)害虫だったようだ。


コクゾウムシが集団越冬する性質を利用して大阪府が大正の終わりから昭和の初めにかけて冬季にコクゾウムシの買取をして駆除に励んだところ、わずか半月で約二百五十万匹(約五.七五キログラム)もの生きたコクゾウムシが集まった事がある。ある意味ありふれた存在であった証左であろう。


現代の家庭であまり見なくなったのは精米する時に色センサーで成虫を弾き、重量選別で食害された米が弾かれているので消費者の目に触れないだけで奴らは居るのだ。奴らが活動できない低温にするのが手っ取り早いので現代では低温倉庫で貯蔵する例もある。


無い物強請りしても仕方がないので、できるだけ隙間を無くし、定期的に点検する事で対処する位しかできる事がない。1ミリメートルでも開いていれば入り込めるので完全にシャットアウトするのは不可能。見回りをして、いたら駆除するのが関の山。

後は、唐辛子が実れば虫除けに使えるかな?って程度。


いずれトン単位で貯蔵する必要があるので土蔵とかも考えたいのだが道は遠い……


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