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文明の濫觴  作者: 烏木
第10章 百折不撓
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第13話 復旧開始

宴会の翌朝は日の出が拝めた……ということはなく、朝焼けっぽい赤い空が広がっているが太陽を拝むことはできなかった。

ただ、天空を覆っていた漆黒の雲(?)はほぼ姿を消し、煙霧も目に見えて薄くなっている。


曇り空といった感じの復旧作業をする分には問題ない明るさがあるので復旧作業に取り掛かる。


いの一番で行うのはリンナと瑞穂学園校舎の灰下ろしで、これが終わったらリンナから奥浜港までのルート確保に取り掛かる。


他所に行くには陸路は辛いので舟運が主力になるが、その舟運の拠点である芦原船着場に行くにも陸路ではなく奥浜港からの船を使わないと辛い。

だから先ずは奥浜港までの連絡路を確保して、内海河川併用船の小鷹を稼働できるようにするのが集落群全体の復旧の最初の第一歩になる。


小鷹が稼働したら芦原船着場に行って係留してある河川艇の白梅の状態確認をして稼働できるなら白梅に救援物資や救援要員を載せて各地に送り出す事になる。

白梅の稼働が厳しいようだと小鷹をホムハル集落群に派遣することになるかもしれないがその可能性は低い。


陸路が全く当てにならない現状では河川艇・河川船の重要度は高く、小鷹が稼働できないと何も始まらないし、白梅が稼働できないと小鷹の負荷が過大になりすぎる。

逆に、外洋船の不知火は復旧スピードにはあまり寄与しないので、今のところ後回しでよい。


ホムハル集落群に復旧隊の第一弾を送り出した後は小鷹を川俣に回航して状況確認と可能なら美浦へ避難を打診する事になる。

しかし、一度避難すると元の川俣の暮らしに戻るのはかなり難度が高くなるので、美浦への避難はこれまでの暮らしを捨てさせることになりかねない。


理性で言えば美浦に避難してもらうのが美浦と川俣の双方にとって負担が最小になるのは分かっているが、二十年近く川俣で暮らしてきて川俣で生まれ育った子もいる中でそれを捨てる(捨てさせる)というのは感情的にも厳しい選択なのは間違いない。

だから美浦に避難するかどうかは川俣の意思を最優先とすべきだが、仮に今は避難しないと決断したとしても後になって気が変わったらいつでも受け入れる含みは残すあたりかな?

如何せん、雨の度に土石流だの崖崩れだの地滑りだのということが暫く――下手すると百年以上――続く可能性があるので、危険に直面したり感じたりして翻意するのは恥でも何でもない。



リンナから奥浜港へのルートは旭丘を北東方向に下りて里川に架かる水道橋を渡って里川左岸を川沿いに南下して奥浜港という遠回りなルートになる。

本来ならというか昨秋までは、旭丘を南東方向に下って星降橋を渡って奥浜港というルートだったが、津波で星降橋が崩壊して流されて美浦平への連絡路の旭橋まで壊してしまったから、荷物を積んだ荷車が渡れる場所が水道橋しかないから仕方が無い。

水道橋は美浦平に水を供給するという役目があったので他の橋に比べて標高が高かった事と通潤橋(つうじゅんきょう)のような石造アーチ橋だったのが幸いして地震や津波の被害を免れた。


という事で、手始めに旭丘から北東方向に水道橋まで下りる道の整備に取り掛かる。

現状では暫定で復旧作業は三班に分けて一時間作業したら三〇分休憩というローテーションが組まれている。

これは防塵マスクに防塵ゴーグルという状況だと連続作業にどれだけ耐えられるのかがはっきりしないため暫定でそうしているだけで、案外できるのであれば一斉に作業して一斉に休憩でもいいし、想像よりきつかったら作業時間の短縮や二交代制にして休憩時間を長く取るなどもあり得る。


人力での除灰作業は作業強度が強い部類になるので防塵マスクのフィルターが(粉塵粒子や湿気や油分などで)目詰まりが進行すると危ないからどれぐらいでフィルター交換しないといけないかも測らないといけない。

有毒気体とは違って破過時間(除毒能力が弱って有効な除毒ができなくなるまでの時間)は考えなくていいし、フィルターを痛めるオイルミストなどもないから長めにはなるとは思うが、粉塵濃度が高いと短くなるからよく分からない。


それはさておき、作業の段取りを確認するために義秀が旭丘の排水路の一つの傍に作業従事者全員を集めた。


「火山灰はここから捨ててくれ。ただ水量が水量なので一気に入れたら詰まるから加減をよろしく」

「どれぐらいの加減?」

「そうだな……ちょっと実演する」


義秀が傍の火山灰をエンピで(すく)って水路に投下する。


「少ないな」

「色々試したんだけど、一回でこれ以上入れると流れきらない分が出てきて面倒な事になる。やってみようか?」

「頼む」


文昭と奈緒美の息子の勇雄くんの要請に応えて義秀がさっきの五割増しぐらいの火山灰を入れると流されなかった塊が残った。


「な? この水勢で運べる量がさっきぐらい。さっきぐらいなら連続で投下しても大丈夫だが、多くなるとかえって時間がかかる」

「成る程な……だが、これだと加減が分かっている専任の投入者を配置した方が良いんじゃないか? 灰掬いとここまで運んでくる班と投入する班に分けた方が効率的だと思う」

「皆がそれでいいならそうする。傍目には投入係の方が楽に見えるからな。どう?」

「……分けるのに一票」

「同じく」

「分かった。ならそうしよう。ただ、この塩梅はみんなに分かって欲しいから完全固定でなくある程度ローテするからな。ああ、初めての者はノーちゃんと組ませるから心配するな」

「それなら安心」


おそらくだけど、勇雄くんと義秀のやりとりは仕込みだな。

それと立ってるものは親でも使えとばかりに本当に親を使うとは……



班分けして除灰作業に移る。

除灰班は火山灰を掬って(むしろ)(もっこ)に載せる。

粘土程度の粒径の火山灰が密着固着していない状態で二〇センチメートル近く堆積しているので足元は酷く悪く車輪が嵌まり込むので一輪車などの運搬具が使えないので汎用性が高い人力で何とかする。

そして一輪車が使えるぐらいまで除灰したら運搬は一輪車に切り替える。


そして排水路への灰捨て班は搬入された火山灰を掬っては捨て、掬っては捨てを繰り返す。

もう少し水量が多ければ一回で捨てる事ができる量が増えるし、もっと多ければ一輪車から排水路に直接(ダイレクト)投げ下ろす(ダンプ)という事もできるだろう。

そうであれば除灰スピードはかなり上がる筈。


義秀から灰捨て班専従を頼まれたので俺なりに効率よくそれでいて覚えやすい火山灰の捨て方を調整してそれを伝授する。


「もう少しエンピを寝かせて。山にならないようなるだけ水平に掬う」

「こう?」

「そう。それで捨てるときは波の周期を見ながら引きながら落とす感じで」


まとめて落とすと流れ切れない火山灰が滞留してしまうので、流れ切るだけの量をできるだけ広い面積に撒く方が良い。

これがエンピを寝かせて水平に掬い取るのと、それが塊にならないようできるだけそのままの形で水に落ちるように投入する理由。


それと、波の周期と言ったが排水路に波なんてあるのかという疑問には“ある”と答える。

見たことがあって知っている人もたくさんいるだろうが、水路の幅一杯の波頭の段波が周期的に流れてくることはよくある。

段波の発生要因は色々あるし同じ場所でも水量の多寡などで発生したりしなかったりといった事もあるが、多くの水路(特に明渠)で発生している。

だから運搬力がある段波に合わせて投下すればより多くの火山灰を捨てられる。


「ありゃ、それだけ入れていけるとか……」

義秀(ヒデ)か。どうした?」

「えっと、上が一輪車が使えるぐらいまで除灰できたから仮置き場の具合を見に来た」

「そうか。あっこら辺りまでありゃ大丈夫だと思うぞ」

「……うん。あれぐらいあれば大丈夫か」


除灰は投入場所に近い場所から行われているが、作業が進めば進むほど遠のいていく。

だから搬入される火山灰の時間あたりの量は徐々に減っていく事になる。


今の除灰作業の律速段階は火山灰を掻き取って(もっこ)や一輪車に載せる作業だが、今後の搬出作業は坂を登らないといけなくなるわ距離も増えるわで何れ逆転されてこっちが律速段階になる。

それを補うため搬出要員を増やすとその分だけ掻き取り要員は減ることになるのでどうしても時間あたりの除灰量は減ってしまう。


今は搬入される量が投棄できる量に勝っているから滞留している火山灰が増えているがこれも何れは逆転する筈。

だから義秀は搬入量と投棄量が均衡するまでの滞留がどれぐらいになるかを見積もって俺が示した場所で賄えると判断したようだ。


「どこかのタイミングで下からの除灰に切り替える必要があるが」

「今は段取りを変えたくない」

「そうか。そうだな」


上から除灰しているのは二つの理由がある。

一つは積灰していて足場が悪い状態だから上り下りするのが危険だという事。

もう一つは下から崩していったときにそこより上の火山灰が雪崩を打って崩れ落ちてくる危険があるから。

前者はともかく後者の発生確率は低いが、万一これが起きた際は被害が甚大になるのでやめている。


上の方の除灰が進んでそこから上が崩れても大したことない状態になったら下から崩して里川に直接投棄したら除灰作業のスピードが上がる。

そこまでやれば後は川沿いの道は片っ端から里川に火山灰を投棄していけば奥浜港までの連絡路は確保できる。

里川に大量に投棄された火山灰は鉄砲堰を動かして海に流さないといけないけど。


ともあれ、段取りを変えたくないというのも分かる。

チームプレーでやっているので途中でやり方を変えるのは色々と混乱が起きる。


「どれだけ進むか次第だけど明日の昼からできれば御の字かな?」

「不満が爆発する前によろ」

「分かってる」


何れは“そこに見えている里川に投棄すりゃいいのに何で旭丘まで上げないといけないんだ”という不満が絶対に出る。



夕方にはもう少しで水道橋の袂というところまで進んだから下から除灰するのは明日の朝一からになりそうだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 気持ちは判るけど氾濫するので……。 鹿児島県で年間大型ダンプ200~400台相当の降灰があるという資料見た事が。 20㌢の降灰……人力で何年かかるやら。
[一言] 大型のホイールローダーとか欲しくなるな。 この辺りの事は全く知らないのだけれど、海に流れた大量の火山灰ってどうなるんだろうね? 直接降灰もしている訳だし、地上の分が雨や川から流れたらかなり…
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