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文明の濫觴  作者: 烏木
序章
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プロローグ

「結局充電はできずか」

「この近辺のサイトには一〇〇ボルト電源も来てない」

「昼前に入った意味が薄れるねぇ……ハズレっぽい?」

「充電可能サイトで予約した筈なんで一応はスタッフに聞いたんだけど……正直、二度と顔を合わせたくないと思わせる程度にはご丁寧な対応を受けたさ」

「大手資本の筈なんだけどなぁ」


春休みで家族連れや仲間内で気軽なキャンプを楽しむ人々で賑わっているオートキャンプ場の昼下がり。黄色を基調とした揃いのカラーリングのバンコンとキャブコンのキャンピングカーそして車高の高い二台のトラックの計四台の前で社会人か学生か判断に迷う年頃の八人の男女が昼食をとりながら批評している。

彼らはソーラーキャンピングカープロジェクト株式会社(SCC)という構成員僅か八人の会社の全社員なので社会人と言えなくも無いが、本業(?)は学生というか本人達に社会人の自覚は無かった。

社名の通りキャンピングカーの二台はソーラーパネルを付けた電気自動車でトラックはサポート車。各地のキャンプ場で実地実験をしている途中でもあった。

キャンピングカーの設備は電化製品の採用例も多いのでオートキャンプ場には家電が使える電源が各サイトに設置されている事も珍しくは無いが、残念ながら彼らが使用しているサイトには無かった。

ソーラーパネルを付けていても現状の発電効率からすれば雀の涙程度の発電量なので商用電源から充電しないとそんなに走れはしない。

プラグインハイブリッド車が普及して急速充電スタンドが街中でもチラホラ見かけるようになっているのでそれほど死活問題ではないが、充電できる時には充電しておきたかったというのが彼らの本音である。


「建物とかは中々の物なだけに惜しいっちゃ惜しいところ」

「団体研修とかリクリエーションとかにも使えるみたいだけど……今回はちょっと胡散臭い連中が使ってるみたいなんで近寄りたくないな」


下は中学生ぐらいで上は三十代か四十代の二十~三十人が似た様な服を着ている集団というのはあまり良い印象を受けない。


「今回はここまで順調だったんでその穴埋めと思っておこう」

「順調っちゃ順調だけどちょっとお土産が多過ぎない?」


SCCの主な収入源はキャンピングカーではなく、極端な事を言えば「何でも屋」であり、林道や圃場の整備などの土木や害獣駆除という山間地で担い手がいなくなってきている業務も行っていたりする。

今回は社員の一人である早乙女奈緒美の祖父母の集落が持っている山林の整備をしていて、集落の皆さんから食べきれないほどのお土産を持たされていた。

孫のような年頃の若者達が手が行き届かなくなっていた事を解消してくれたらあれ持って行けこれ持って行けとなるのは仕方ない事だろう。


「誰に何を押し付けるか考えんとな」

「尋常な量じゃないけど捨てる訳にもいかんし」

「売るほどあるからなぁ」

「屋台かなんかで美野里の創作料理でも売るか?」

「それは死人がでるから止めろ」

等と益体も無い話に華を咲かせている。


まさかこの昼食がこの世界で食べる最後の食事になろうとは露とも思わず……


■■■

正に青天の霹靂であった。

俺こと東雲義教が快晴の空の下でのんびりしていたら突然眼前の地面が爆ぜた。

別に爆発とかじゃなくて精々玩具の爆竹か癇癪玉が破裂した程度ではあったが

「佐智恵!」

こんな悪戯をする最右翼の名を叫んだがその声は大音響の雷鳴にかき消された。

五百メートルぐらい先の場所に立続けに雷が落ち続け轟音が響き渡る。

不可解な事にまるで円周に沿って落ち続けているようで、稲妻の檻に閉じ込められたかの様になってしまっていた。この世の終わりの様な光景はどれぐらい続いたのか定かではないが、一際大きな地響きの後に嵐は唐突に終わりを迎え、キャンプ場は静寂につつまれた。


何だこれは……

約五百メートル先、要は落雷があった辺りから先の光景がまるで変わってしまっていた。

荒野とその向こうに見える森林……人や町の気配がまるで無い大自然そのもの。


「大丈夫か?怪我とかしてないか?……義教、佐智恵、美野里、片付けて機材のチェック。いつでも動けるようにしておけ……文昭、匠、奈緒美、境界線あたりを偵察。無線を持って行け。義教出してくれ……雪月花は俺と管理棟に行って情報収集だ……情報は一旦義教に集中。判断は義教に任せる」


眼前の光景が信じられず呆然としていたらいち早く立ち直った将司の指揮が飛ぶ。

目の前にやる事ができれば動けるもので、ハンディ無線機を取り出して通信ができるのを確認して全員に手渡すと少し周りが見えるようになってきた。

左右のサイトは家族連れで向かいのサイトは高校生ぐらいのグループが居る。

みな茫然自失といった感じだったが、左の家族連れがこちらにやってきた。


「君達、様子を見に行くなら一緒にどうだろうか。それと携帯の電波が入らないみたいだから電源を切っておいた方が良いと思うが」

「ん?政兄ちゃん?」

「やっぱり文坊だったか」

「ご無沙汰してます。……んと、中学の頃にお世話になった方。師匠の一人」


文昭のお知り合い?何と言うか……奇縁だな。

それと文昭の中学の頃の知人となると……アレだな。

うん。頼りになりそうだ。是非同道をお願いしよう。

ご家族を見て欲しいとの事なのでキャブコンの弁天号にご案内していたら反対側のご一家もやってきて旦那さんとお爺さんが管理棟に行くのでその間のご家族をとの事なのでまとめて弁天号にいてもらう事にする。


タープやテーブルなどを片付けてトラックに積み込み、残りの三台をいつでも動かせるよう準備を進めていると文昭から無線が入る。


『義教聞こえるか?こちら文昭。送れ』

「こちら義教。リーディング(ファイブ)。どうぞ」

『境界線に到着。境界線は綺麗な円周状で段差になっている。奈緒美曰く断層の様に見えるが地盤の組成がこっちと向こうで異なっている模様。送れ』

「【境界は円周状の段差】【内と外は連続性なし】よろしいか?どうぞ」

『コレクト。……ここは特段の危険は見当たらないが、他の場所に関しては崖崩れの可能性あり。送れ』

「【危険が示唆される地形がある】よろしいか?どうぞ」

『コレクト。終わり』

「待て!不自然な境界と危険箇所の映像は押さえられるか?どうぞ」

『……了解。幾つか押さえておく。送れ』

「押さえたら一旦戻ってきてくれ。以上。どうぞ」

『了解。終わり』


予想通りと言えば予想通りだが、キャンプ場ごとどこかにと言ったところかな?

こういうのは中心が怪しいが……地図にでも落とさないと中心が分からないか。


その後、偵察組が撮ってきた動画と静止画を見て人の仕業ではない事は理解できた。鋭利な刃物で切断されたかのような綺麗な切り口で木や岩石もお構いなく切られている。内と外で傾斜角が異なり外の傾斜の方がきついようで段差は遠くに行くほど大きくなっているのが見て取れる。まるで切り抜いた所に別の部品を無理にはめ込んだように思える。

こんな短時間にこんな風にする事は少なくとも二十一世紀初頭の人類には不可能だ。


「どういう事?何なのこれ」

「山の稜線が全く見覚えが無いんだが、ここはどこなんだ」

分かるかよ。俺が知りたいよ。

「文昭、こいつとこいつとこいつを五枚ずつプリントアウトして将司に持って行ってくれ」


取り合えず情報共有はしておかないといかんよな。

管理棟に行った二人に無線を飛ばす。


「将司か雪月花、返答できるならよろ。こちら義教。どうぞ」

『雪月花です。聞こえてはいました。どうぞ』

「文昭に境界線付近の画像を三種類届けさせる。以上。どうぞ」

『ありがとう。以上』


弁天号のお留守番組も知りたいだろうから説明しなくちゃだけど。どう説明すりゃ良いんだよ。「何も分からない」って事が分かっただけで「ここはどこ?私は誰?」って感じだもんな。

……ありのままを伝えるしかないか。

一体全体何が起きたのやら……タイムスリップとか転移といったSF的なもの以外で何か説明が付きそうな物が無いか考えるがこんな現象を説明できるものは何も思い浮かばない。

困惑していると頭の中に女の声?が聞こえてきた。


『古き世から新しき世に移りし者たちよ 知り栄え文明を築くがよい』


……そういう事ね……質問タイムがあったらいいんだけど

『何なりと思うてみよ手短にな』

!? ここはどこですか?

『先ほどとさほど変わらぬ場所と思ってよい』

過去か未来って事ですか?

『……厳密に言えば別の世界だが過去と思ってもよいぞ』

どの程度過去なのですか?

『誤差はあるやも知れぬが七千年前で大過ない』

では、物理法則とか物質の存在率とか地形とか人を含めた生物の作りや性質や分布などは約七千年前の地球とほぼ同じと思ってよいので?

『法則は変わらぬ。その他は誤差はあろうがその通りじゃ』

ここは日本列島と思っていいのですか?

『一番大きな大陸の東の弓状列島をそう呼ぶならそれでよい』

ここの今の季節は?

『春分点じゃ』

何故このような事を?

『腐って手の施しようが無くなったからやり直しじゃ。これぐらい前からやり直さねばならん。頭の痛いことよ』

何故我々が?

『腐敗の影響が薄くてある程度発達した所を選んだに過ぎん。お主たちを選んだのではなく選んだらお主たちだっただけじゃ』

こちらの人類と言語は通じます?

『通じたり通じなかったりじゃな』

意思疎通ができないと凄く時間がかかるんだけど……

『……多少は考えておく』

私だけ分かってもしょうがないんですが……

『……それも含め考えておく』

ここ以外にもこのような事がありますか?

『無い』

この様な干渉は今後もありますか?

『無いと思ってよい。前は手を掛け過ぎて腐らせたからな』

……何ソレ?

『では励むがよい』


……これ、俺の妄想とか夢とかならいいんだけどね。

平行世界の過去にご招待ってか?

何か心の奥底に「これは事実」と確信めいたものがある。何かされたかな?

紀元前五千年っていつ頃だっけ?いや約七千年前ってのは分かってるけど、世界史的には農耕とか青銅器とかあたりだっけか?日本だと縄文時代の前半?


周りを見るとSCCの面々は「目が据わっている」といった表現がしっくりくる感じだ。更に他を窺うと、真剣な表情をしている者もちらほら見えるが大多数は呆然としていたり困惑顔を作っている。


「何か聞こえたか?」

将司が居ないので俺が口火を切る。

「新世界にようこそとか文明築けとか」

「魔法もチートも無し」

「ん?チートっぽい事なら仄めかされたような」


俺だけじゃなかったという事は集団催眠とかじゃなけりゃ先史時代が確定か?


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[気になる点] 雪月花ってどうよむんですか?そのままセツゲツカ?
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