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文明の濫觴  作者: 烏木
第9章 濡れぬ先の傘
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第11話 褐炭

竪琴橋だなんだとやっていたら五月の交換市がやってきた。

サツマイモ畑は造ってから一箇月ほど経っているので植え付けて問題ない。


片手鍬で畝の上部に長さ二五センチメートル深さ六センチメートルぐらいの船底型の溝を掘り、その溝にサツマイモの苗蔓を横たえて土を被せる。


『長いのはこう。葉っぱは埋めない』


続いて片手鍬を畝に斜めに突き刺して少し持ち上げ、そこに短めの苗蔓を挿しこんで片手鍬を抜いて土に埋める。


『短いのはこう。先っぽは埋めない。さあ、やる』


何をしているかはお分かりだろうが、サツマイモの植え付けのやり方を教えている。


サツマイモの苗蔓の植え付けには幾つかの方法がある。

サツマイモは苗蔓の節から出た根が肥大して芋になるので、節数が五つぐらいある長い苗蔓は先端と途中の節から生えている葉が地上に出るように横に埋めると芋が沢山採れる。

更に節が似たような深さに埋まるので芋も似たような深さに生るので収穫もしやすい。

だから苗蔓を水平に植える『水平植え』というそのものズバリの名称の植え方がある。


しかし『水平植え』は活着(根付いて生長すること)にやや難があるので、苗蔓の末端を下に曲げて深めに植える『改良水平植え』や水平ではなく苗蔓が弧を描くように植える『船底植え』というのがある。

水平植え系の中では植え付けしやすく活着も良くて芋の数も確保できる『船底植え』はサツマイモ栽培での代表的な植え方の一つ。


芋の数が多いということは栄養が分散されるということでもあるので、節数を絞った短めの苗蔓を縦方向に植えて芋の数を制限して芋を大きくするという植え方もある。

縦に真っ直ぐに植える『垂直植え』やその派生形で苗蔓の末端を上に曲げる『釣り針植え』という方法がそれにあたる。

ただ、垂直に植えると芋が深く潜ったり芋数が極端に減る事もあるので垂直ではなく斜めに植える『斜め植え』という方法の方が成功しやすい。

これら垂直植え系統の植え付け方法は一株あたりの芋数は少なくなるが少数精鋭で形の良い芋が早く収穫できるようになる。


袋栽培などで横に伸びることができないばあいなどに重宝するやり方だが、実は他にも植え付け作業が楽というメリットがあって普通の畑でも採用されている。

サツマイモの植え付けは重労働なのだが、苗蔓が非定型なのが原因なのか機械化が遅れている分野の一つ。

しかし、垂直植え系は水平植え系と違って苗蔓を棒に巻きつけて立ったまま畝にぶっ挿すという省力化のための裏技(?)がある。

専用の器具も売られていて作業効率が高いのに加えて腰を屈めずに植え付けできて負担が少ないと好評とかなんとか。百均で買える物を改造して植え付け器を作ることもできるので家庭菜園レベルならそっちでも良いかな?


水平植え系では『船底植え』なら湾曲した棒みたいな植え付け器もあるのだが、立ったままというわけにはいかないし、奈緒美植物園でやったから分かるけどちょびっとコツがいる。馴れない内は下手すると掘って埋める方が早くて正確かもしれない。


ベースになるのは『水平植え』と『垂直植え』だと思うが、それを改良した方法があるという事はあまり良い方法ではないという事。


奈緒美植物園では『船底植え』と『斜め植え』が採用されていたので俺がそう思っているだけかもしれないが、労力や収穫量などを総合的に勘案すると長めの苗蔓は水平植え系の『船底植え』が、短めの苗蔓は垂直植え系の『斜め植え』が実践的な植え付け方法だと思う。


だから(?)伝授するのは『船底植え』と『斜め植え』の二つの方法。

基本形は『船底植え』として、短い苗蔓は『斜め植え』というやり方で教えていく。


■■■


『燃える土を見つけた。これ。一緒に綺麗な石も見つけた』


苗蔓との交換品にミツモコが出してきたのは褐炭と琥珀だった。

ハクバルの件で躍起になったのだろうか。

実は褐炭は二年ぐらい前に捜索依頼はしていたが正直なところ見つけるとは思って無かった。


『これは良い物。まだある?』

『綺麗な石は小さい石はある。燃える土はある。燃えるけど燃やすの大変』

『こんな感じにすると使い易い』


鰹チャレンジで作り溜めしていたバイオブリケットの一部を滝野での燃料として貰い受けていたのでそれを見せる。


ブリケットは炎を上げながら燃える物ではないので、薪とどっちが火付きが良いかといわれると薪の方が火付きが良いのは間違いない。

炎は可燃性の気体が燃焼する現象なので炎を上げるという事は可燃性の揮発成分が出ているという事であり、そして可燃性ガスは空気中の酸素との接触機会が多いので簡単に着火する。


一方、木炭など基本的には炎を上げない固体は酸素との接触機会が限られるので簡単には着火しない。

ある程度の熱量になると空気の対流で酸素が供給されて燃焼できるが、その温度になるまでは別の熱源で炙るなど炭熾ししないと中々火が付かない。

それは石炭系統でも一緒で石炭粉や褐炭だけを固めたブリケットは着火性に難がある。

しかし、バイオブリケットは着火性の良い植物残滓が食い込んでいるので木炭や石炭に比べると着火性は悪くない。


東屋(あずまや)の竃で燃す?』

『いい?』

『いい』


疑問に思っているようなのでやらせてみる。

外で燃やさせるのは一酸化炭素中毒が怖いから。


木炭や豆炭や練炭とかもそうだけど、この手の炎を上げずに燃焼する炭素燃料は一酸化炭素が発生しやすい。

木炭や石炭が燃えているときに周りに小さな炎があることがあるが、それは不完全燃焼で発生した一酸化炭素ガスが燃焼しているからで、一酸化炭素の発生は致し方ない部分もある。

つまり、気密性が高い場所でこの手の炭素燃料を使うのは危険が伴う。


彼らの竪穴住居は考古学の用語で伏屋式と言われる竪穴に屋根を被せた壁がない形式で、更に屋根に土を被せている土葺きなので気密性が高く、屋内でブリケットをバンバン使うと一酸化炭素中毒で命を落としかねない。

まあ、気密性の高い場所で何かを燃やすと酸素濃度の低下や二酸化炭素濃度の上昇など一酸化炭素以前に色々危険ではある。


ともかく、新技術を使用して事故が起きると新技術が原因でなくても新技術が原因と思ってしまいがちになる。

こういった前後関係と因果関係を混同するのは“前後(ぜんご)(そく)因果(いんが)誤謬(ごびゅう)”という言葉があるぐらい有り勝ちな事なので慎重にいきたい。

万一事故が起きると美浦提供の技術全般の不信を招きかねない。


とりあえず、屋外などの通気性が高い場所以外でのブリケットの使用を禁止にして事ある毎に注意喚起することにしよう。

それともブリケットに限らず気密性の高い場所での火の使用を禁止する方がいいかな?


『焚き付け組んでその上に置く』

『これでいい?』

『いい。火を付けて』


暫らくしてブリケットにちゃんと着火したのに渋い顔をしているのは何でだ?


『もう燃えている』

『燃えてない』

『こう手をかざす』

『熱っ!』


そうか! もしかしたら炎を上げない燃料は初見なのかもしれない。

言われてみればこれまで先住者達が木炭を使っているところを見たことが無い。

もしかすると、炎を上げずに燃えている状態は薪などが燃え尽きる寸前ぐらいしか知らないかもしれない。

そうだとしたらブリケットが燃えているさまは“燃えてない”“消える直前”と思うのも不思議ではない。


『太陽があそこ行くまで燃える』

『……燃える土ある。作れる?』

『作れる。ミツモコで作る?』

『作る!』


ミツモコで作れるようにするには幾つか課題はあるが、ほとんどの産業は熱源が必要だから燃料基地があるのはありがたい。

それとブリケットの焼却灰は買い取ろうと思う。

焼却灰が売れるとなるとブリケットの普及策になると思うし、焼却灰はセメントの原料にできるから無駄にしたくない。


それと、ザワザワしている諸君。

貴重なカラートナーを使った総天然色の鉱物写真のプリントアウトを配るから探してみて。

本当は現物があればよかったんだけど、一部を除いてそれは無理なので、鉱物写真のデータにある中で存在する可能性がそれなりにある物をピックアップして刷った。


絶対にあるわけじゃない、というかどちらかと言えば無いからね。

どこにでもあったら態々探してもらわないから見つけたらラッキーだと思っていいよ。

そして見つけられなかったからといって落ち込まなくていいからね。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 炭を作る前により先進的なモノを手に入れてしまった。 加古川流域の超文明化が激しいな。
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