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文明の濫觴  作者: 烏木
第2章 開拓を始めましょう
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第5話 生活環境も

台所、風呂、便所といった住環境の整備も田畑と同じく進めている。


台所は住まいの中心に位置付けられても良い施設で、自治体の境界線上に建っている家の住人がどちらの自治体に帰属するのかは台所がある場所がどちらの自治体に属しているかで決まるという話を聞いたことがある。本当かどうかは知らないけど……


水田作りの途中から剛史さんと子供達で日乾煉瓦(ひぼしれんが)を作ってもらっていたが、日乾煉瓦って極端な事を言えば枯れ草などを繋ぎにして捏ねた粘土を乾かしただけなんだけど、それでいて耐候性もそれなりにあって乾燥地帯だと何十年も持つし建物を作れるぐらいの強度があるので水場とかは無理でも屋内で使う分には日本でもそれなりに使える建材だったりする。

この日乾煉瓦で大まかな形を作って、石や粘土を貼り付けて補強して、乾いたら竃の出来上がりとなる。後は調理台と流し台を据え付ければ台所は完成だな。

俺は流し台以外はほどんど関わっていないのでアレだけど。


匠が出来上がった竃を興味深げに観察している。

「ここがこうなってるって事は……うーん……」

「どうした匠」

「義教か……ちょっとこれの機能がよく分からん」

煙突の最下部を指差していて、穴というか焚口の小さいバージョンのような形状が見て取れる。煙突の底に穴?どういう事だ?こんなのが付いた竃は見たことがない。

「何だろう……煙突掃除?」

「何かあったかい?」

「あっ剛史さん……いやぁこの穴の機能がよく分からなくて考察してました」

「あぁ……これね。癖で付けてしまっただけで、別に無くても困らないと思うよ。これは整流用の焚口。薪の窯炉とかなら結構普通についてるから」


初めに煙突の下に火をくべて煙突内に上昇気流を作っておけば炉の空気の吸出しがよくなるという物で、焚口に炎や煙が溢れてくるのが減るとの事。

竃ぐらいなら付けなくても問題ないというか過剰装備っぽいもののようだ。


ちなみにこの竃の煙突だが、匠が屋内排煙にして欲しいといって壁や屋根に煙道を開けなかった。何でも防腐処置をしていない木材なので囲炉裏や竃の煙で燻しておかないとカビやら虫やらで悲惨な事になる可能性が高いんだと。

竃の煙を屋外に出すのは日本では最初期の頃と明治以降で、屋内排煙は日本では普通の事だったらしい。そう言えば疾走村の竃も屋内排煙だったな。

東北とかの冬が長く厳しい地域だと囲炉裏の暖房で食事を作る方が薪の節約になるので竃がない事もあるそうだが、囲炉裏は完全に屋内排煙だから建物を燻す効果は同じくあるとか。それに囲炉裏は火種の保管も兼ねていると言っていた。

趣味で作ったと思っていた囲炉裏だけどちゃんと意味があったんだね。奥が深い。


■■■

台所は出端屋敷の中の土間に作ったけれど、別棟で作ったのが便所とお風呂場。東から出端屋敷、便所、栄湯(風呂場)の順に並んでいて、廊下で繋いでいる。


この二つはちょっと家の中には作り辛かった。日本で家の中に風呂とトイレがあるのが割かし普通になったのは昭和の後半頃なので、実は半世紀程度しか歴史がなかったりする。トイレはともかく風呂は銭湯というのが昔は普通だった。


便所については、下水道というか浄化装置がないからバイオトイレにした。

し尿をおが屑などの多孔質の物体に分散吸収させて、微生物の働きでし尿を分解するという仕組み。攪拌や換気が必要なので予備部品として積んでいたソーラーパネル、蓄電池、モーターを使って攪拌と換気の動力にした。下水道ができるまで何年掛かるか分からないけど、それまで頑張って欲しい。


便器は衛生陶器なんて無理だから木製。処理漕も木製だけど……

半年毎とかに取り替えればいいんだから耐久性は考えない。

それと大と小は分ける事にした。現代日本だと下水とかの浄化設備が整っているのであまり分けないが、世界史的に見れば分けている例は結構多い。

古代欧州で尿が洗剤代わりに使われていた例もあるって事は分けていたって事。

そもそも尿は基本的には無菌なので水で薄めれば畑に撒いて肥料にできる。


バイオトイレは水分が多いと好気分解が阻害されるので分ける事で負担を減らせるし、処理量も減るのでそういう事にした。便器に大用の穴と小用の穴を作って大はおが屑が敷いてある処理漕へ、小は樋を通して樽に集める。

男の小用は当然別に作る。単純だしね。


女性専用が四つ

男女共用が二つ

子供用が二つの計八つ。

処理漕は四つ共用で二つ。

男小用は同時に三人ぐらい使えるといった感じ。


佐智恵が窒素肥料作りは任せろって言っている。

「イヌビエもイヌタデも(よもぎ)も沢山刈り込んでるから」

お前もしかして……


■■■

もう一つの設備である命名「栄湯」つまり風呂だが循環風呂釜を作った。

色々と検討したけど、五右衛門風呂は子供には危険なことや鉄を大量に使うのでなし。鉄砲風呂や煙突を風呂桶に引き込む方式は火力が足りない。一人二人程度の風呂桶だったら鉄砲風呂でいけたかも知れないが、人数が人数なので難しい。

という事で循環風呂釜になった。


浴槽にパイプを上下二本取り付けて螺旋状にしたパイプを上下に繋げる。

螺旋状の部分を火で暖めると下からの水が温まって上へ上昇して上の口から浴槽に戻る自然循環ボイラーの簡易版になっている。

これを作るため、モグちゃん号の幌のパイプを一本消費した。


四人ほど入れる浴槽を二つ作って男湯と女湯を分け(時間差で分ける案は却下された)浴槽も丸や楕円の結桶で作ると大きくなりすぎて無理がでるので鉄釘を使って箱型の浴槽を作る。浴槽の木材は(ヒノキ)だじぇ。檜風呂!……良い響だ。


自然循環ボイラーは上の口よりも水面が高く無いと空焚きになり危険なので、風呂の水抜きは火を消した後でないといけない。つまり、浴槽が二つあるって事は簡易ボイラーも二つ要るという事。要するに、この時代にはオーパーツの風呂を二つ作ったって事だ。もうね。貴重品の鉄を大盤振る舞いだよ。

命を洗濯するんだから仕方が無いけど。


■■■

風呂や便所は比較的大きなものだが、小さな道具も色々と作っている。

畑仕事や製塩はみなに任せて、匠と源次郎さんが道具作りで絶賛引篭もり中である。


幸いな事に大工道具は匠と俺がそれぞれ一組持っているし、山林整備道具も一通りあるので木工品についてはある程度可能なのだ。正確には木工で作れる道具を作っているので道具の大半が木工品になる。

現状で一番手に入れられる素材が木材なので需要と供給はマッチしている。

ん?何か表現が変だな?


現状ある資源となると、やはり木や竹を使う事になるのだが、切って継ぐ程度なら施設も要らないが、曲げたり矯正しようとすると設備と言うか作業小屋というかが欲しくなる。

木は水分を含んだ状態で暖めると柔らかくなって整形することが可能になる。上手にやれば百八十度近く曲げる事だってできるのだ。曲げわっぱとかの曲物とかトーネットとかの曲げ木のインテリアなんかはそうやって曲げて作っている。昔の木造船の曲面も火で炙って曲げて作っていたらしい。

また、竹は普通は曲がっているから火で炙って真っ直ぐに矯正してから加工する事も多い。


切ったり継いだりでもおが屑や木片が出るし、騒音もかなりあるので出端屋敷から離れた所に木工所というと大げさだが作業小屋的な物(命名「竹木屋(ちくもくや)」)を建てて加工している。


今、一番多く作っている道具が桶。

炊事、洗濯、風呂といった水関連とか農作業など需要はいくらでもある。


丸太の中をくり抜いて作る「刳桶(くりおけ)」は手間が掛かる。

木板を曲げて作る「曲桶(まげおけ)曲物桶(まげものおけ)」は強度が弱い。

そこで短冊状の木板を箍で締め付ける「結桶(ゆいおけ)」を作る事にした。

結桶なら大きさもかなり自由に決められるって利点もある。


結桶から水が漏らないのは隙間ができないように平らにした木同士を強い力で締め付けているからで、別に防水加工をしている訳ではない。つまり加工精度が悪いと水漏れしてしまうのだ。加工精度がなければ百年掛けても作れない。この板同士がくっつく面を加工する工程は「正直押し」といって正直な人がやると上手くいくって軸丸師匠(勝爺(匠の祖父)の知り合いの桶職人(といっても桶だけでは食べていけないとか言っていたけど))が言っていた。できあがりを見て「東雲くんは根は正直だけど表面はちょっと捻くれてるね」と評された。どこまで正しいか分からないけど……


また、木は水を含むと膨張するので使い始めはある程度水が漏れる事もあるのが普通で、ギチギチに作ると水を張った時に締め付けを弾き飛ばしたり裂けて壊れることもある。材料の含水量や使用時の膨張ぐあいを見込んで匙加減するのが桶職人の腕の見せ所らしい。


それで桶を締め付けるのが箍だ。「箍が緩む」「箍が外れる」なんて言葉があるが、桶や樽を縛って締め付けている箍が緩んだり外れたりすると壊れて機能しなくなる。

現代日本だと金属製の箍が主流だが、こちらでは昔ながらの方法である竹を編んで作る。細長く割いた竹を編んで輪っかにして桶にはめ込んで使うのだ。

軸丸師匠に箍の編み方を習っていてよかった。箍が竹で編めなかったら番線で締め上げるとかしか方法がなかったから非金属で作れて助かった。


桶作りが一段落したら荷車とかの運搬器具や脱穀機や唐箕といった農具も作ってもらおう。収穫時期が来てから作るなんて泥縄な事はしたくない。


紡績、織機のあたりも綿や麻の収穫までに必要になる。

綿が採れた麻が採れたといっても布が採れるわけじゃない。

「繊維を取り出す」「繊維を撚って糸にする」「糸を編んで布にする」という工程を経て初めて布になる。それぞれに専用の道具がないと作れるものも作れないので収穫時期までに何とか道具類を作らないといけないし染料とかも必要だろう。


確かここらは匠が何とかするって話だった。

俺は時期が来たら柿渋を作っておくよ。それと藍も植えてるから染料は渋染と藍染の二種類かな?キハダとか紅花があったら黄色や赤色も作れるけど……


それから木工品じゃないけど石臼も必要。

蕎麦の製粉用に一つあるけどそれだけじゃ足りない。用途に応じて何種類か要るし、一つじゃ足りなくなる事が見えている。

できれば安山岩があったらいいんだけど無ければ花崗岩でもいい。花崗岩は遍在しているから探せばあるでしょ。

臼といえば臼と杵も欲しいな。餅つきとかさぁ……


手回し式洗濯機や水路の枡などは匠が桶作りの合間に作っている。

俺も箍編みの合間というか気分転換も兼ねて流し台を作ったり竹菅で台所の排水管を張り巡らせたりしていた。

それと蜜蜂の捕獲。

他には……道具じゃないけど地図製作。いい加減取り掛かりたい。


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