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文明の濫觴  作者: 烏木
第2章 開拓を始めましょう
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第4話 米だけじゃ生きていけない

当然の事ながら、米だけでは生きていけないので、水田の次は畑

こちらは水田ほど苦労はしなかった。

というか手を割けなかったという方が正確かな?

奈緒美もまだまだ手を入れた方がいいけど水田の方が大事とかなり妥協していた。

端的なのは肥料だ。伐採地を掘り起こした腐葉土の多くは水田に使っていて、一部の畑では焼畑の草木灰ぐらいしか施肥されていない。


「碌すっぽ育たないだろうから期待しないで。特に味は保証しない」

早乙女農林大臣が全然安心できないお言葉を述べておられる。

焼畑一年目は養分が馴染んでいないので普通は秋蕎麦の栽培だけにして、実質的に使えるのは二年目以降とか全然安心できない。ある程度の施肥もしたし耕耘もしたんだから多少は育ってくれないと甲斐がないじゃない。


鍬で畝を作って種を蒔く

奈菜さんに伝説のフィルムのコンバインと大根を教えてもらって以来、大根の歌は俺の農業歌になっている。

もうね、状況がぴったり一致するのよ。俺らへの応援歌とすら思える。


と言う事で先ずは二十日大根と白首大根。育ちますよね。

白首大根は一気に蒔かずに、早蒔きと遅蒔きに分けるよう奈緒美に言われている。

遅蒔きは切干大根や沢庵漬を目指すと言っている。囲炉裏があるから上手くすれば、いぶりがっこもいけそうだな。

二十日大根は文字通り二十日程度で収穫できるので、それこそ何回かに時期を分けて播種しないと二十日大根づくしの日々になってしまう。

育つのが早いものは他に小松菜、ホウレン草、ニンジンなど。


支柱などの補助具が要るものとしてはきゅうり、インゲン豆、茄子など。

蒔いて直ぐ要る訳ではないし、支柱とかはさほど難しい物でもないのでその内に作る事にする。


ジャガイモは種芋を切り分けて切り口を乾燥させる前処理が終わったものを植えていく。秋蒔きは切らずに丸々植えるらしい。

薩摩芋は芽出しした蔓を切って蔓を植える。


基本的に痩せた土地でも育つエゴマ、胡麻、蕎麦、麻は施肥状態が悪い畑に撒く。

大豆もカリ分があればある程度は育つので一緒に移植するよう指示された。


なぁ奈緒美よぉ何で俺にばっかり指示するんだよ。

俺だって地図製作とか道具作りとか色々あんだよ。

……匠は道具作りから手が外せない。

……政信さんと文昭はパトロールしてもらわないと危険だ。

……剛史さんと将司はモグちゃん号で留山の向こうに粘土を採りに行っている。

……まぁ俺しか居ないか。ちくしょーめ!

そう言えば大林さんは家庭菜園やってたな。よし高校生組を巻き込もう。


ある程度は施肥していて現状では良い部類の畑で育てるのが竹糖、トウモロコシ、和綿の三つ。

竹糖は温帯で育つサトウキビの一種で和菓子に使う砂糖の和三盆の原料になる。

熱帯で育つサトウキビとは品種が異なる物で、確か徳島あたりで栽培されている。

手持ちの物の中では砂糖が取れる貴重な作物なので奈緒美が手ずから植えている。


本当はトウモロコシと大豆を組み合わせたかったらしいけど開墾状態から断念したそうだ。サトウキビもトウモロコシもイネ科のC4植物なので水は結構必要とするし、共通点は多い。それだけに隣地で育てると色々悪さがでるので離している。


和綿は五反も植える。和綿は養分をたくさん必要とするので痩せた土地だと厳しいので良い部類の畑を使う。畑は全体で二町歩ほどなので四分の一近くを和綿が占めている計算になる。痩せた土地でも何とかなる奴らはそうさせてもらっているので、畑に掛けた手間の大半が和綿というのが泣けてくる。

もう誰だよ和綿をこんなに植え……いやいや何でもありません。


そのあおりで野菜類は家庭菜園に毛が生えた程度の面積しかない。

野菜が食べたければもっと畑を増やすしかないし、世話をする人数も必要になる。

野菜類は基本的には保存がきかないので少量多品種にして収穫時期を調整しないと収穫時期は食べきれないほど採れる一方で、収穫がない時期は全く食べられなくなる。つまりは旬を意識した作付けが求められるという事で奈緒美が唸りながら栽培計画を立てている。

保存性は漬物で回避しろって?あのね。塩も糠も今は貴重品だよ。

秋以降は何とかなるかも知れないけど、現状のリソースだと無理がある。

漬物用の桶もないから秋までには作らねば。


今年作る予定で現状蒔いていないのは白菜、キャベツ、タマネギ、麦だ。

白菜とキャベツは夏に撒くので梅雨が明けたら蒔く予定。

タマネギと麦は秋に蒔くのでまだまだ出番はない。


不思議な事に麦は寒さを経験しないと実をつけないという被虐的な植物らしい。

寒さを経験させるため基本的には秋に播種して麦秋つまり初夏に収穫する。

中には春に蒔いて秋に収穫する品種もあるけどその多くは寒冷地に適合した品種らしく、そうでない品種を春に蒔いても葉は茂るんだけど実らない。

冷蔵庫で寒さを経験させるなどの裏技もあるらしいが、奈緒美はやった事が無いから正攻法で秋に蒔くって言っている。

それと麦踏しないと生長不良になるなど俺の中では完全に「麦=ドM」である。


俺の今春の畑仕事はここらで終わる。後の世話とかはローテ組んでやってくれ。

いい加減地図製作に取り掛かりたいし、弓で狩りをしてみたい。

まぁ夏蒔きの時も駆り出されるだろうけど……稲刈りも秋蒔きも……


■■■

農業に暦は大切という事で、カレンダーをどうするか。

太陰暦や太陰太陽暦は使い辛いので基本線としては太陽暦がいい。

現代で使われているグレゴリオ暦は非常に精度の高い暦なのだが、太陽年の時間が分からないのでそのまま当てはめる訳にもいかない。

まぁ一秒も変わらないと思うけど……

春分を三月、夏至を六月、秋分を九月、冬至を十二月の末日にする太陽暦という事にして、観測結果を積み重ねて太陽年を割り出すという気の長い地道な作業を行うそうだ。朔望月は二十九~三十日とあまり変わらなかったので一ヶ月を三十日にし、基準点にした四つの月だけは短かったり長かったりという感じにして、何年かしたら上手いこと調整するという事にした。


曜日について七曜制、十曜制、五曜制、六曜制と紛糾した。

何でこんな事で紛糾するのか訳が分からないよ。

七曜制は太陰暦の月二十八日を四で割ったという説もあり一ヶ月三十~三十一日が基本となる太陽暦との相性は確かに良くない。それでも七曜制が使われてきたのだ。

フランス革命で十曜制、ソビエト連邦でスターリンが五曜制その後六曜制を導入したが、どちらも結局のところ七曜制に戻っている。世界の趨勢が七曜制というのもあるだろうが、人間に合っている周期なんだと思う。

なので七曜制で良いと俺は思っている。


結果は「暦は農作業の目安」という事で奈緒美が主張した十曜制をベースにした五曜制という事になった。旬=十日に引き摺られやがったな……面倒臭い。


十干((こう)(おつ)(へい)(てい)()()(こう)(しん)(じん)())で曜日名を付けようとしたけど、同じ読み(甲と庚、己と癸)と紛らわしい読み(辛と壬)があるので却下。

五行(木、火、土、金、水)は日月が抜けた上で順番が変わるのでこれも却下。

五大(地、水、火、風、空)という事になった……面倒臭い。


後、一ヶ月半ほど太陽や星の観測をした結果、色々と推測できる事があるというので聞いてみる。

緯度は北緯三十二~三十六度と思われる。南は熊本や宮崎、北は福井や水戸って感じ?

観測データが蓄積していけばもっと絞り込めるのだが、現状分かる範囲はこれ位の誤差を見込んでいるとの事。緯度的には温帯でいいとは思う。

経度?あれはあくまで基準からの差なので測る方法もなければ意味もない。

未来では美浦が本初子午線になっているかも知れないけどね。


それから北極星がどれかで年代を推測したとの事。歳差運動から年代を割り出せる可能性があるというので将司が調べていたが、観測結果からいうと現在北極星は無いそうだ。強いて言えばエダシクとかエド・アシクとかいう「りゅう座ι(イオタ)星」が近いらしい。

……知らんがなそんな星。

エジプトのピラミッドから見えていたって星かい?って聞いたらそれはトゥバンっていう「りゅう座α(アルファ)星」でエダシクはその隣の星だそうだ。


紀元前五千年頃という情報と一致する観測結果との事。

但し誤差は前後千年以上という何とも言えないものだが……観測者バイアス掛かってないだろうね?

ちなみに約二千年後にはトゥバンが北極星になるだろうって気の長い話だ。


■■■

畑の次に取り掛かったのは製塩。

弓浜は流入河川が無いので弓浜の海水で塩を作る。

流下式枝条架塩田と言いたいが、斜面を流下させて太陽熱などで蒸発させる部分や海水や鹹水(かんすい)を揚水する器具を作るリソースが今は無い。

そうは言っても直接海水を煮出すのは燃料が勿体無いので、ある程度は自然エネルギーを使って塩分濃度を上げておきたい。調味料として使う分だけなら直接法でもいいけど、保存料としてや今後作る壁や竃などで色々と塩の用途があり、かなりの量の塩が必要になるので一手間掛ける事にした。

海岸から少し離れた場所に塩小屋を作り、桶に海水を入れて(すだれ)を垂らして蒸散させて鹹水を作る事にした。

時々簾を桶に漬けて持ち上げれば多少は早く蒸発するだろうし、待っている間に釣りでもしていればいいだろう。

塩と魚介類という海の幸は安藤くん岸本さんが担当になった。

炊き上げの時は手伝うから鹹水作りを頑張ってくれ。

安藤くん。魚期待してるよ。

岸本さん。二千冊近く入ってる俺の防水電子ブックリーダー貸すから頑張って。


■■■

畑仕事と塩小屋作りが終わった後、俺が何をしていたかと言うと……

地図製作じゃない。地図は作りたかったんだよ。だけど測量は一人ではできないのでみんなの協力が必要なんだよ。

旭広場の端に原点にする三角点の設置はしたけどそれしか出来ていない。

で、何をしていたかというと虫(蜂)と闘っていました。


VS蜜蜂 Round1

ある日恵森に入ったら蜜蜂の巣を見つけた。

蜜蜂といえば蜂蜜と花粉媒介、それと蜜蝋。

これは取り込まねばと、季節的に分封(巣分かれ)があるだろうから巣箱を六つ作って好みそうな場所に設置して様子を見ることにした。巣を観察すると分封の兆候があったので期待に胸を膨らませて巣箱に来てくれるのを首を長くして待つがやってこない。

探索蜂は来ていたように見えたんだが……巣箱が気に入らなかったのだろう。

蜜蝋や金稜辺キンリョウヘンを周到に準備しても成功率は約三割だから駄目でも仕方ない。


VS蜜蜂 Round2

自主的に巣箱に入ってくれないなら直接巣箱にご案内差し上げよう。

分封蜂球ごと巣箱に入れて差し上げようじゃないか。

元の巣の近くに庇を設置して分封時に一時的にお休みできる場所をこちらで用意して群れごとご案内しよう。

最初に巣を見つけてから二週間の本日は晴天。絶好の分封日和である。

……よし。いるいる。

二段重ねにした巣箱(と言っても木枠だけど)を持って近付いて行きゆっくり蜂球を巣箱の中に落としていき、入れ終わったらスノコと蓋を被せて、恵森と永原の境あたりで目星を付けていた場所に持って行く。

巣箱の中の蜂球が落ち着いた頃合で仮設底の固定を外して、事前に準備しておいた底板と巣門枠を填めた台の上にそっと乗せる。

巣箱同士がずれないように固定して屋根を被せて紐で縛れば俺にできる事はここまでだ。後はこの巣箱を気に入ってくれる事を祈るのみ。底板の上に当面の餌として砂糖水を入れた木皿も置いているし永原には花も咲いている。

たぶん気に入ると思う。気に入るんじゃないかな。気に入ってください。


数日後、花粉をつけた蜂が巣箱に入っていったので営巣してくれたようだ。

まだまだ油断はできないが、第一段階はクリアだ。

順調に行っても今年は採蜜できるほどは巣が育たないと思うので蜂蜜は期待薄だけど、来年からはある程度は蜂蜜も採れるようになるだろうし、群れも増やせれば最高だね。


VSキイロスズメバチ

里川から引いている水路(命名「里川疎水」)の点検をしていたらキイロスズメバチが営巣しているのを見つけてしまった。

出端屋敷や田畑に近い場所なら直ぐに駆除するし、もっと離れた場所だったら秋まで放置プレーもしくは見なかった事にするんだが何とも中途半端な場所に営巣しやがった。

ここは他の人はほとんど通らないけど俺は見回りで偶に通るところなんだよな。

よし。俺の安全には換えられん。とっとと駆除するか。


駆除するにも準備が要るので一旦帰って対スズメバチ装備を確認していたのだが……それを美野里に見られてしまった。美野里にだけは知られたくなかったのに……


「もっと育ってから……秋口の手前あたりで獲ろう」

SAN値直葬食材ですね。ちゃんとした料理なら美味いんだけどね。


「害虫駆除の側面からもそのままにして欲しいな」

奈緒美、お前もか。


えっと……もっと強敵がいました。

キイロスズメバチとの闘い延期のお知らせでした。


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