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文明の濫觴  作者: 烏木
第8章 紡ぎ織る
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第16話 面倒

小桜で滝野から美浦に帰る一行を見送る。

あと数日もすれば交換市なので対応メンバーは居残り。


幼稚園児未満を含めた子供でも二〇キロメートルぐらい離れた場所を行き来できるのだから舟運(しゅううん)ってやっぱり便利。

近世以前は海運や河川舟運が流通の大動脈だったのが頷ける。


匠によると、砂嘴や砂州など土地の生産性は悪いが海運の中継地にしやすい場所や、河川の急流の前後辺りといった舟運の終着地にしやすい場所に、交易で成り立っていたと思われる遺跡は結構あって、中には縄文時代と推定される物も相当数あるらしい。

つまり、海運や舟運が重要な輸送手段なのは普遍で不変なのかもしれない。


滝野やホムハルなど一部例外的に急流になっている場所もないではないが、加古川は水別れ(みわかれ)から下流の河川勾配は非常に小さい。

同じ標高からスタートしている由良川についても河川勾配は凄く緩やかであると言える。

加古川河口から水別れを通って由良川河口までの低地帯である氷上回廊は河川舟運に向いているので氷上回廊の舟運整備って良いかもしんない。


まあ、幾ら勾配が緩いとはいっても水は流れているから流れに逆らって登っていくとなると櫓櫂だけじゃなく帆走とか曳船とかも検討した方が良いかな?

小桜は動力船だから楽に遡上できるのであって、初めてオリノコに行ったときは(海用の雪風というのもあるが)櫓櫂と竿だったから往生したものだ。


帆走といえば、安藤くんがそろそろ帆布が欲しいと言っていた。

雪風と春風の帆は革製なので重いし嵩張るし操作しにくいから布製にと。


綿帆布は一〇番手(小さい方が太い・通常の綿織物は三〇~六〇番手ぐらい)という太っとい木綿糸を更に撚り合わせた糸で織った布でとっても丈夫。


帆布には慣例的に使われている規格があって一号から十一号まである。

昔は綿()帆布の規格が日本工業規格(JIS)にあったのだが廃止されている。ただ、目安としては使い勝手が良いようでJISに一致していなくても同等に扱える品に該当の号数を振っている。


この号数は糸の番手と同じく値が小さい方が分厚くて強度もあるのだが、一番薄くて弱い十一号帆布は柔道着とかに使われている。


柔道着が最弱って……


「柔道着が引き千切られたか」

「帆布の面汚しが」

「所詮奴は帆布十勇士にも入れん軟弱者よ」


こうですか?


それはともかく、元々の用途の帆については需要の激減と合成繊維によって駆逐されてしまったけど鞄や靴には現在でも使われている頑丈な布。


今は一〇番手の木綿糸の紡績に成功していないが、麻糸を撚り合わせて麻紐を作って麻紐を平織りすればという意見もないではない。


……嫌な予感がするから繊維関連工房(つむぎ)には近寄らないようにしよう。


■■■


次回の八月の例会に若衆が滝野に来て、次々回の九月の例会でムィウェカパを開催する。


オリノコの若衆の衣装にする綿布を織るのを急いだ理由がこれ。

娘衆は九月例会なので静江さんが八月一杯と言ったのはそれと混同しての事。もし八月末に晒木綿(さらしもめん)の無地の反物の状態だったら間に合わない。そういう俺も後になって気付いて慌てたんだが。


ムィウェカパがこの日程になったのは、美浦(とオリノコ)は九月中旬から十月中旬にかけては稲刈り月間だし、十月末日は収穫祭(瑞穂祭)なので九月中旬から十月一杯は身動きがとれないから。


若衆には一箇月ぐらい狩場の開放もしないといけないから、仮に瑞穂祭が終わってからだと十一月に若衆が入ってムィウェカパは最速で十二月頭。

冬に入るなど色々と厳しいので前にやるしかなく、八月の例会に若衆が来て九月の例会でムィウェカパという日程が具合が良い。


これから七月の例会なので、来月には若衆がやってくる。

例会の人数にムィウェカパの参加者が加わるので今回の例会で各集落からの参加人数の確認を行う必要がある。


これまでは男女それぞれが五人内外で合わせて十人程度だったそうで、ホムハルにある来客用竪穴住居を男女別にしておけば収容できていた。


前回が中止になったので今回の開催は四年ぶりというのもあるのだろうが、各集落からの参加人数を集計すると今回は三倍近い男女それぞれ十五名の合計三十名となった。


参加集落数は十一でオリノコから若衆が三人、娘衆が二人参加するから……他集落は一集落あたり二.五人とさして奇異な数値ではないのだが……

こちらとしては通例の二倍の十名ずつの二十名で構えていたので若干準備が足りなくなっている。


こちらの都合もあるが、例会と同時開催になっているので最終的には例会の人数プラス三十人が滝野に滞在する事になる。

寝床一つとっても例会用とは別に必要だし、男女別とか色々考慮しないといけない。それに若衆の婿入り道具の保管場所も必要。


ちゃんと事前に人数集約していればよかったのかもしれないができなかった。


 四月 ホムハルから打診

 五月 滝野での開催と開催日程を他集落に打診

 六月 滝野開催が決定

 七月 参加エントリー(今ココ)


伝達に月単位の時間がかかるから泥縄状態になってしまった。

その辺りを見越して動いていれば全然違った筈だし、段取りが悪かったのは認める。

反省は後にするとして、今は想定の一.五倍の人数を収容する方策を考えなければならない。

竪穴住居は一基あたり五人収容として四基新造していたのだが、これから追加で二基造るのは現実的ではない。


仕方がないから新造した竪穴住居は娘衆用とする。

若衆は例会の間は多少手狭にはなるが各集落に割り当てている既存の竪穴住居で寝泊りしてもらう。

オリノコに割り当てられた竪穴住居は無いし、いつも高床住居(滝野市場)で寝泊りしているからオリノコの若衆は滝野市場。

これで何とかなるかな?



交換市に来ている大人に開放する狩場を確認してもらったところ、独立峰も連峰も特に問題はないが連峰の方は深入りすると帰って来れなくなる(遭難する)かもしれないとの事。


川向こうで集落から三キロメートルぐらい離れた山というのはホムハルが開放していたドングリ山(仮)と似たような条件なので大丈夫だろうと思っていたが、そうか遭難か……それはあるな。

奥まで行って帰り道が分からなくなるとかあるし、間違って別の尾根や谷を下りたりすると見当外れの場所に出てしまう。


それじゃあ連峰の方は止めた方が良いかとの問いには止める必要はないし遭難しても放っておけばよいとの返答。


連峰に入る入らないは自分で決めるのだし、入ったとしても迷わないよう怪我しないよう引き際を弁えているのが一人前の大人。

それもできず不測の事態にも対処できない子供が婿にきても役に立たないとの事。


これ、一人の意見ではなく多数意見。

男衆からすれば、自集落に婿入りすれば同僚にもなるので、使えない奴よりできる男に来て欲しい。だから厳し目の試練の方が良いという考えもあるのかもしれない。

理解できなくもないがシビアだねぇ。


狩場の話は概ね確認がとれたが、寝床については難色を示された。

狩猟は組んで行う方が効率がいいのでチームプレーができるかどうかは結構重要で、バラバラの寝床ではなく集団生活の方が望ましい。そして、可能なら滝野市場に泊まれないかと。


十五人が集まって暮らせる大きさの竪穴住居をこれから建てるって無理だから、そうするなら滝野市場しか無いのは分かるけど……


返事は保留にしておく。


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