表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文明の濫觴  作者: 烏木
第8章 紡ぎ織る
136/293

第6話 どうしよう

どうしたらいいかと訊かれてもデンジャラスベアーが死ぬまでお触り禁止が安牌。ただし、監視は怠らないように。

次善は“冬篭り中を狙って襲撃をかける”かな?。


熊退治を望まれても、この場で色よい返事ができなくて申し訳ない。

持ち帰るけど確約はしない。

さすがにデンジャラスベアーに一人で立ち向かうなんてできないし、相談もなく請け負える内容じゃない。恐らくは熊退治に動くとは思うけど。


ドングリ山(仮)が使えない事への対策はホムハルの食糧生産能力を上げるのが王道だと思う。

田畑の開拓で伐った木を加古川に流して滝野まで持ってきてくれたら高く買うよ。


滝野は燃料と建材としての木を得るのが面倒なんだ。

近くの丘は里山にして日々の最低限の燃料を得るのなら何とかなるかもしれないけど、建物建てたり道具や施設を作る用途で伐採し始めたらあっという間に丸裸になってしまうぐらい森林規模が小さいし舞茸が惜しい。



翌朝に栗を埋めた場所を幾つか見せてもらったけど腐植層と区別がつきません。

埋めたっていっても落ち葉などの腐植を被せただけじゃないか疑惑が……

前に奈緒美に教えてもらったけどドングリは落果して数日以内に埋めないと発芽能力を失うらしいので、その点も聞いたが首を傾げていたから発芽能力を喪失していた可能性も捨てきれない。


ただ、一般論としていえることとしては、埋めたと言われた場所はブナや(カシ)といった陰樹向きの場所だったのは間違いない。

栗や(ナラ)といった陽樹は陽の当たる場所で可能なら下草刈りとかした方がいいので、焼畑をやっているなら焼畑の跡地という人工ギャップに植えるという手もないではないが、ホムハルは食糧資源に恵まれていたからか焼畑はやっていない。


とりあえず、現状では一般論は言えても即今当処の対応はさすがに専門外だから今日のところは一般論で勘弁して。何なら専門家(奈緒美大明神)を連れてくるから……


■■■


ホムハルから美浦に戻って状況を伝える。

元々臨時委員会を予定していたようで、出席できるメンバーは揃っている。


「そういう事情なら分からなくもないけど、気になる点としては、何で去年の段階で言い出さなかったの」

「奈菜、こっちが何者かも分からない段階で話せる内容じゃないし、熊が去るかもしれなかったのだからそう不思議でもない」

「去年は熊の様子見と併せてこっちを見極めていて、熊は去らないしこっちも信頼できると思って言ってきたと?」

「そう考えるのが自然」


こちらからすれば唐突ではあったが、ホムハルは苦慮を重ねた結果だったのだと思う。


「義教、熊が居るのは確定でいいのか?」

「生体を直接視認はしていないが、仮称ドングリ山に熊棚を確認した。少なくとも昨秋までは居た公算が高い。だから居る前提で考えるべき」


熊棚というのはツキノワグマが木に登ってドングリなどの木の実を漁った跡。

木に登って木の実を食べるのだが、枝先になる実を食べるときは枝を折って手元に引き寄せて木の実を食べる。そうするのは枝先まで熊が移動すると枝が折れて落ちるから。そして食べ終わった後の枝は下に落とすか尻に敷いていくのだが、尻に敷かれた何本もの枝が鳥の巣のように木に残る事があり、それを熊棚という。

ドングリ山(仮)はホムハルからの帰り道に見えるので双眼鏡で複数の熊棚があるのを確認した。


「熊の縄張りはどれぐらいだっけ?」

「季節移動は結構広いけど短期的には十キロぐらいかな? ただ、餌があるところをうろうろという感じで餌が豊富ならあまり動かないみたいだけど」


楠本さん(隊長)の質問に美野里が答える。

ツキノワグマには排他的な縄張りはあまり見受けられない。ただ、クマ科に共通する傾向として執着心が強く、特に目の前の餌についてはかなりの執着心を見せる。


「熊を駆除するかどうかは一先ず置いておくとして、滝野でムィウェカパを行うかどうかについてはどうですか?」

「雪月花待って、熊を駆除できたらホムハル主催でも良いんじゃ?」

「そのあたり、東雲さんのご意見は?」

「仮に熊が駆除できても今年のムィウェカパをホムハルで行うのは難しいと思う。直ぐに回復するわけでは無いし、なにより前回が中止になっているから同じ人がくる可能性が高い。縁起でもないだろう」

「そっか……言われればそうだ。撤回する」

「滝野でムィウェカパを実施する事についてどう思う? 賛成の方は挙手を……滝野でムィウェカパを実施する方向という事で」


「ムィウェカパをどの様な形態で行うかの前に……義教、現時点でホムハルや滝野の危険度はどの程度と推測する?」

「……滝野は大丈夫だと思う。間に餌になる物が少ないので、他に良い餌場が近くにあるのに態々来るとは考えにくい」

「それはホムハルは危険という事か?」

「集落を襲撃される可能性は低いと思う。ただし、確率は低いがホムハルのテリトリー内だとどこで遭遇しても不思議じゃない」

「それ、もしかしなくても交換市の往来に危険があるという事じゃないか?」

「交換市やムィウェカパの安全を確保するには駆除も視野に入れるべき。そしてやるなら早くしよう。夏になるとまずくなる」


美野里の“まずくなる”が“熊の旬から外れて肉が不味くなる”なのか“餌が少なくなる夏に徘徊範囲が広くなって拙い状況になる”なのか……何か前者に聞こえてならない。


■■■


その後ムィウェカパの開催形式を検討したのだが、大きな課題が開放する狩場について。

若衆が娘衆に渡す貢物は現地調達なので、主催者というかホスト集落が適当な狩場を提供しなければならない。


滝野で行う場合の適当な狩場候補としては、滝野の傍にある丘は里山候補なので除外すると滝野の対岸にある山になる。

滝野から上流方向に少し行ったところの川沿いにある独立峰と滝野の対岸正面やや奥にある連峰の何れか若しくは両方が狩場候補。


そして、両方とも対岸という事は川を渡ってもらわないといけない。

しかし川幅は百メートル以上あるので狩りに行きたければ泳いで渡れというのはさすがに酷というもの。

渡し舟や手漕ぎボートの貸与など色々と案はでたのだが、今後の利便性などを考えて橋を架ける事となった。


百メートルもの橋となると川の中に何本もの橋脚を設置しないといけない。

しかし川の中に橋脚などの構造物があると構造物の近くの流速が速くなって川底が抉られる洗掘という現象が起き、昔はそれで橋脚が倒壊したり流失したりという事が結構あった。

なので、現代では川底を石畳やコンクリートにしたり川の流れを調整する構造物を設けたりといった洗掘防止策を施すのが普通。


でも現状のリソースと秋までという期間でそれを行うのは無理なので、天然の橋脚を利用する事にする。

滝野の近辺には岩盤が川にせり出して川幅が狭くなり急流になっている場所がある。

地図上では似た場所に闘竜灘という景勝地があり、昔見た闘竜灘と形も流路も異なるけど、流紋岩の岩盤で加古川の川幅が制限されて急流になっているのは変わらないから闘竜灘と名付けた場所。


というか、闘竜灘があるから船で遡上できなくて交換市をここに定めたともいえるので、“滝野の傍に闘竜灘がある”よりも“闘竜灘があるから滝野を造った”の方が正確。


ここなら岩と岩の間の一つ一つの幅は精々十メートル。

大きな裂け目は三つあってそれぞれの幅は滝野側(左岸)から順に八メートル、三メートル、十メートルといった感じ。ここに橋を架ける。


半年でちゃんとした恒久的な橋を三つ架けるというのは建材や労働力の確保が大変なので、今秋までに架ける橋は渡れさえすれば耐久性などは問わない間に合わせとし、追々恒久的な橋に架け替えることとする。


この三つの橋なのだが、橋の名前がもう決まってしまっている。

滝野のある左岸から岩への橋が『織姫橋(おりひめばし)

将司は織女橋(しょくじょばし)と言っていたが織女より織姫の方が人気だった。


対岸の右岸から岩への橋が『彦橋(ひこばし)

同じく将司が牽牛橋かせめて夏彦橋を主張したが“牛もいないのに牽牛は無い”とか“ムィウェカパは夏じゃない”で撃沈。


真ん中に架ける橋は『烏鵲橋(うじゃくきょう)

烏鵲橋というのは七夕に牽牛と織女が逢えるようにカササギが翼を広げて天の川を渡す橋の名称。

“分かりにくい”とか“鵲橋(かささぎばし)で良いじゃん”とか“他はハシなのにここだけキョウなのは……”など言われたが、ここは将司起案の烏鵲橋が採用された。“烏鵲橋は秋の季語ですしぴったりでは”という静江さんの賛同が大きかったな。


ちなみに七夕のネタ元(?)の神話伝説では河東の織女と河西の牽牛という事と、男が西の山から貢物を持って川を渡るという事を併せて滝野側を織姫にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ