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嘘つき。

作者: 一柳 紘哉

人は一日に何度嘘をつくのだろう。僕はコンビニの前でこの自問に答えることができない。

いったい僕は何度嘘をついてきたのだろう。もちろん数えることなんてできない。

寮に住む先輩に同じ質問をしてみた。


「さぁ……三回ぐらいかな」


もちろん嘘だときがついていても僕はこう質問をかえしてみた。


「嘘つきになるには何回くらい嘘をつけばいいですかね?」


「そんなの、一日三回くらいで十分だろ」


僕は嘘つきになろうと決めた。



三という数字は偉大だ。物事のすべては三っつの文で言い表せるし(例えば。僕は、コンビニに、タバコを買いに行った)。主観的な意見だけど、三桁の数字は見ているだけでラフマニノフの旋律のように美しい。パソコンの世界は二進法で表せるけど、現実は三進法でしか表せれない。

もちろん嘘だけど。



僕の生活はアルバイトと大学。この二つがほとんどを占めている。満足はしてないけど不満はない。そんな毎日。たまに煙草が切れたとき(大体深夜だ)、紙を丸めて煙草のようにして火をつける。もちろん煙草の味もにおいもしない。勢いよく燃えるだけ。でもそれだけが僕の大して何もない人生の中の色になる。嘘だけど。



この前、駅前で、きれいな女の人に出会った。彼女はとてもさびしそうに立っていたから僕は声をかけた。


「何してるんですか?」


「雨を待ってるんです」


空は嫌味なぐらい晴れ渡っていた。動物たちとあの山までピクニックに出かけてみたいくらいに。


「ふりそうにないですよ。天気予報では午後から崩れるって言ってたけど、これは嘘ですね」


「そう。こまったわ……でも私は天気予報を信じてみようと思います」


「そう。……お幸せに」


僕は雨にぬれないように鞄を頭の上に掲げて走り抜けた。



彼女はその夜にも駅前で立っていた。

何を待っているんだろう?

僕にはわからない。



嘘つきになると世界が綺麗に見えてきた。みんな本当のことしか喋らないからだ。善意で世界は周り、誠意で地球は動く。

僕だけがその世界の回転を遅くしているガンだ。

まぁみんなのためにも、それも悪くない。だって僕がいなかったらみんなもっと早い世界で生きることになるんだよ?感謝してほしいくらいだ。



僕は駅前の彼女と付き合うことになった。共通の友達がいたのだ。その子の紹介で僕らはまた出会い、惹かれあい、ボーイミーツガール。

彼女はとっても魅力的な女の子だった。魅力的な部分を説明しようとしても嘘臭くなるからやめるけど、とっても魅了的だった。

僕は少し誠実に生きてもいいかなって思った。彼女に対しては、嘘はつきたくなかった。



「ねぇ、誕生日プレゼント何がほしい?」と彼女が尋ねてきた。


「なんでもいいよ」と僕は答えた。本当に何でもよかったから。


「そんな事言わないで真剣に答えて、お願い」


「じゃぁ……いっぱいの愛を頂戴」


「馬鹿にしないで」


「うぅん。……じゃぁかっこいい携帯のストラップ」


「そんなのでいいの?」


「ああ。でも、もちろんたくさんの愛も一緒にね」


彼女は泣き出した。僕にはどうして彼女が泣き出したかわからなかった。慰めようにも謝ろうにも理由が見つからなかったから何も言えずに、沈黙だけを煙草の煙に載せて吐き出した。


三十分ぐらいして「……わかったわ」と彼女が消え入りそうな声でつぶやいた。



僕の誕生日には机の上に可愛い携帯のストラップと、嘘つき!!さようなら。とマジックで書かれた手紙がおいてあった。

枕とシーツには、最低。と書かれていた。

彼女の愛の形だと思い、今でもとっておいてある。



わかりやすい嘘とわかりにくい嘘のつきかたを教えてあげよう。

嘘だと自分でわかっていて口にする嘘はすべてわかりやすい嘘だ。

本当のことを一生懸命伝えようとするものが分かりにくい嘘だ。


残念。無念。僕は今でも嘘つきだ。

光は僕の中で渦巻く。

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