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精霊物語  作者: aruria
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第七話[神の腹の中の闘い]

ルカは全身が総毛立っていた。


怒りと憎しみが自分の中で燃えたぎるようだった。


鷹眼石の黒色の瞳が憎しみで煌めいていた。眼差しはよりいっそう厳しくなった。


ルカは考えるより先に体が動いていた。


窓から飛び降り、一度柱と柱の間のバルコニーのような場所に着地し、その勢いを殺すことなく、今度は槍を持った精霊像の槍を伝い、銅像を蹴って床に着地した。


この間四秒足らずだった。


獣のような俊敏な動きで駆け出す。


狙いは導師。あの術の発動を止めれば人をあのおぞましい肉塊に変えている企みも止められるだろう。


「賊だ!!侵入者だ!!衛兵!捉えよ!!」


司教は怒鳴り声を上げた。


その声によって弾かれたように、控えていた衛兵たちが二つの影に向かって走った。


怒声と共に突撃する。


ルカまで一番近い衛兵で15メートルほどの距離だった。


怒声とともに2人の侵入者を捕らえようとする。


しかし衛兵たちが走り出した時ルカは既に導師たちとの40メートルほどの距離を半分まで詰めていた。


猿の如き動きだったのだ。


ものすごい速さで導師たちのうちの一人まで完全に距離を詰め、頭を思いっきり殴った。


二メートルほど吹っ飛んだ導師はピクリとも動かなかった。


一人の導師を殴ったあと勢いを殺し、すさまじい脚力と思える動きのバックステップでもう一人の導師まで飛んだ。


その導師は何が起きてるのか事態を把握できないように見えたが、裏拳を叩きこまれ意識をなくした。


最初の導師が殴られた時術は停止していた。


術が解かれたアルヴァスは司教を殺そうと思った。


が、痛みに苦しむエルをみてまず腕輪を破壊した。


そして


「(よくも騙したな、殺す。)」


司教に向かって駆け出した。


ルカは逃げようと無様に走る司教の首根っこを捕まえ、首を固めた。


「みんな動くなァァーーっっ!!」


ルカの声が大聖堂に響き渡った。


その声で衛兵も動くことが出来なくなった。重い鎧や兜を身にまとう衛兵たちも流石に動きが素早く、祭壇のすぐ下まで距離を詰めていた。


包囲網はまだ完成していないが時間の問題だったはずだ。


祭壇の上にいて、司教まであと10歩まで詰めていたアールも動きをぴたっと止めた。


「動くとこの男の首を折る!!」


ルカは合格者たちの様子を確認した。


形を変えられ無かったのは一人の少年と少女だけであとは全員肉塊のような紫色の塊に変えられてしまっていた。


「おい。そいつを放せよ。俺が殺す。」


アルヴァスの顔は憎しみの眼で口の端を歪ませていた。


「導師よ!彼らを元に戻す方法はないのか!!」


ルカは導師に向かって言った。


「そ・・それは」


導師たちはちらちらと司教の顔を伺った。


司教の顔は汗だくだった。導師に向かってふるふると顔をふろうとしたが侵入者のがっちりと組まれた腕と体がそれを許さなかった。


「その・・・・」


導師たちは口ごもりお互いの顔を見合わせるばかりだった。


ルカは察した。


「ないんだな・・・・」


ルカの顔に影がさした。


怒りが自分の意思とは無関係に、体の中でとぐろをまくようだった。


全身に力が入り、筋肉が盛り上がる。


それと同時に髪の毛が逆立つ。


司教が苦しそうに自由な腕でもがいた。圧倒的な力に司教はもう抵抗する気力を失せさせていた。


「無視してんじゃねえよっ!!」


アルヴァスが刀を抜き、ルカの顔めがけて切り抜く。


アルヴァスは顎を狙ったつもりだった。


しかしルカは体を反らしよけた。


「!!(あの体勢からかよ!?)」


ルカはがっちりと司教の首を組んでいたので避けるとなるとまず司教を放さなければならない。


しかしルカは司教ごと体を反らして避けたのだ。


「ひぃぃぃぃぃっ!」


司教が声にならない声で呻く。


続けてアルヴァスは切り込んだ。


ルカはまたしてもよけた。


「(二度もかよっ!!)」


ルカは剣が勢いを無くした一瞬で、逆手で剣先を掴んだ。


「なっ!」


驚異的な動体視力だった。



「(馬鹿かこいつ・・・・手で刃を握りやがった)」


手で刃を握るという常識ハズレの行動にアルヴァスは困惑していた。


「いいのかよ・・・このまま俺が引抜けばお前の右手は・・・」


手のひらはすぱっと切れる。


引き抜こうと力を込める。


ルカもぐっと力を入れた。


アルヴァスは信じられなかった。びくとも動かなかったからだ。


「な・・・なんだとォ!!?」


アルヴァスは心底驚いた。


司教をがっちりホールドし、逆手で剣先を握ったままルカは蹴りを繰り出した。


驚くべき体の柔らかさだった。


もろに脇に直撃したアルヴァスは横に吹っ飛んだ。


吹っ飛びながらもアルヴァスは驚愕の最中だった。


痛みとせり上がる横隔膜で息が苦しくなりながらも、アルヴァスは立ち上がった。


「なんだァ今のは・・・・テメェなにか精霊術をつかったのか?」


アルヴァスは自分でその可能性はないと否定していた。なによりマナの動きも精霊術の輝きもまったく感知できなかったからだ。


「握力が少し強いだけだよ」


「ハハッそんな芸当をするのにどれだけの握力がいると思ってやがる!たたききりてぇぜ!お前を!」


アルヴァスはいいながらもこの目の前の男に薄気味悪い何かを感じていて動けなかった。


「こいつはゴキゲンだなァおい!」


ルカは横目で衛兵たちの動きを確認した。やはりどさくさに紛れて包囲網を完成しつつある。


しかし何故街中の宮殿内だと言うのに衛兵達はレギンスから腰鎧、レザーガード、兜まで全身装備なのか。


確かに街中にも兵士たちはいたが装備は似通っていたがここまで重装備ではなかった。


まるで顔や身分を隠すように。


全身に装備をしているのは人を肉塊に変えている司教の行いを黙認するのが後ろめたいからなのか・・・・


ルカはそれを自分の願望だと思った。


根拠はないのだ。


ルカは大事なことを絞った。


「(彼らを元に戻し、イスラも助ける!)」


そのためにはまずこの状況をなんとかしなくてはならない。


「(このまま彼に闘い続けられると、僕が司教を殺す気はないことを衛兵たちに気づかれて、捕らえようとしてくるだろう。)」


ルカは右後ろの退路から司教を引きずって脱出する算段を考えていた。


司教は引き続き人質にしなければ、有利な状況に事を運べない。

司教から聞き出したいこともあった。


「あくまでそいつを離さないってわけね・・・ゴキゲンだなァテメェ!」


アルヴァスの持つ剣が光を帯びた。


キイイイイイイイイと剣の身が光を放つ。


「ヴァル―ジアム―エクシリア

!」


アルヴァスが剣を振り下ろし、光の斬撃が大理石の床を削り、ルカを襲った。

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